農業協同組合新聞 JACOM
   

特集  食と農を結ぶ活力あるJAづくりと女性達の役割



 「食育基本法」の施行で今や「食育」はブームの感さえある。確かに安全性も含めて社会の「食」への関心は高まっているが、食は生命のもとでありそれを生み出す農業と切っても切れない関係にあるはず。その農業はいうまでもなくその土地ごとにさまざまな特色があり、そこから生まれる食文化は、地域から生み出された「暮らしの知恵」でもある。
 「食育」に関心が高まっているからこそ、「暮らしの知恵」、「生きる知恵」としての伝統的な食文化を次世代につなげていくことが大切になっている。そうした知恵の伝承こそ農村女性に期待されているのではないか。今回の特集では、「暮らしの知恵」を伝えるグリーンツーリズムや農村レストランのレポートと合わせ、(社)JA総合研究所理事の山本雅之主席研究員に今後のJA女性組織の活動の課題を提起してもらった。


次世代につなぐべき地域の「食文化」
ネットワークの力を発揮してJA女性部こそ先頭に
(社)JA総合研究所理事・主席研究員 山本雅之

◆「食」への関心は高まりつつあるが…

山本 雅之氏
山本 雅之氏

 「食に関する知識と食を選択できる力を修得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる」ことを目標に掲げた「食育基本法」の施行から1年半。国をあげての「食育」ブームに乗って、行政や学校のほか、食品メーカーや外食産業なども新たなビジネスチャンスとばかりいっせいに動き始めた。
 ところで、家庭における食生活の実態はいったいどうなっているのだろう。
 「食生活と食育に関する全国世論調査」(06年11月、読売新聞社)によれば、「子供に手料理を食べさせる習慣が薄れてきた」と感じる人が80%、「子供に手料理を教えたい」と思っている人が79%に達する。その一方で、日常的に市販の弁当・総菜を買っている人は42%、インスタント食品やレトルト食品を使っている人は43%にも及んでいる。
 外食や市販食品に依存した食事、不規則で栄養バランスの崩れた食事、家族が揃うことのない食事。そんな食生活を改善する必要性を十分認識していながら、なかなか具体的な行動に踏み出せない家庭の多いことがうかがえる。
 このような食生活の乱れは農村でもまったく同じ。親との別居による核家族化が進み、外で働く女性が多くなり、それとともに朝食を食べない子供、夕食を1人でとる子供が増えている。学校給食でも、その半分以上が共同調理場(給食センター)方式に変わってしまった今は、大量生産される季節感の乏しい画一的な「食」が、子供の偏食や食べ残しを増やす大きな要因になっている。
 このような現実に対して、JA女性部として取り組める有効な対策はないものだろうか。

◆農村の「暮らしの知恵」を伝えよう

 現在、全国のJA女性部員の数は約92万人(05年末、JA全中調べ)。この10年間で半分に減っている。女性部員の高齢化が急速に進む一方で、世代交代がなかなか進まないのはどうしてだろう。若い農村女性にとって、「JA女性部にぜひ入りたい」「JA女性部に入っていてよかった」と思わせるような魅力的な活動は本当にないのだろうか。
 そこで、従来のJA女性部の主な活動メニューを見直してみると、健康管理活動、高齢者福祉活動、文化教室など、すでに子育てを終わったシニア世代・シルバー世代向けの活動が多いことに気がつく。子育てと家事あるいは農業・仕事との両立に悪戦苦闘している若い農村女性にとっては、ヒマとカネに不自由することのない姑世代の趣味や道楽のように見えるのではないか。これでは、若い女性部員の加入が進まないのも無理はない。
 しかし、若い農村女性がシニア世代・シルバー世代から学びたいことはいっぱいあるはず。それは、昔から代々受け継がれてきた農村女性の「暮らしの知恵」である。なかでも関心の高いのは、それぞれの地域に伝わる「食文化」だ。
 考えてみると、今は旬の時期とは無関係に年中いつでも手に入る輸入農産物があふれ、全国どこでも同じ材料でつくる同じ味のテレビ料理番組が氾濫している。「地方の時代」といわれていても、「食」の世界ではいまだに全国一律の没個性料理や無国籍料理が幅をきかせている。
 こんな時代にこそ、地域の食材を使った独自の調理メニューや、地域にしかない伝統の味を見直すべきではないか。それが農村ならではの「食育」につながり、シニア世代・シルバー世代と子育て世代の農村女性をつなぐ絆になるはずだ。そのための活動をJA女性部が組織的に展開していけば、部員の拡大と世代交代にも大きく貢献するだろう。

◆JA女性部が「食文化」継承の先頭に

 秋田県のJA秋田やまもと(正組合員約4700戸)では、JA女性部が地域の「食文化」を継承する運動を進める「グランママ・シスターズ」制度を01年9月に開始した。
 活動の中心は60〜70歳代の伝統食名人「グランママ」。郷土料理を集めたレシピ本「つたえたい、のこしたい、ここだけの味」を作成し、それを管内の小・中学校や教育委員会に配布するとともに、季節に合わせて伝統食を紹介する「旬のレシピ」をJAのホームページに掲載している。このほか、地場食材を使った地産地消弁当「まるごとやまもとべんとう」を開発し、イタドリの葉で味噌焼きおにぎりを包む伝統的製法による「おむすび弁当」をコンビニで販売し、自慢の手作り惣菜をAコープの売場にも並べている。
 昨年10月には、地元の琴丘中学校の三年生を対象に恒例の家庭科授業「郷土料理を作ろう」が行われた。もちろん先生は「グランママ」。メニューは「きりたんぽ」。ご飯をすりつぶして杉の串につける作業から始まって、ゴボウでとったダシに地場野菜と鶏肉を入れて汁をつくるといった本格派の郷土料理である。

◆「食のマイスター」を発掘する

 このような「食文化」の継承運動を進めるには、まず、地域の伝統的な「食」に関する知恵と技を持っている農村女性を発掘することが先決。JA女性部員のなかにも郷土料理の名人、伝統食の後継者といわれる人が必ずいるはずだから、それらの女性を「食のマイスター」としてJAが認証し、その存在を広報誌やホームページで地域に広く知らせることから始めよう。
 次に、「食のマイスター」の指導のもとに、若い女性部員を対象に郷土料理の由来や伝統行事との関係、素材の選び方、調理法や盛りつけのノウハウなどを修得する学習会を開催する。「食文化」を受け継いでいく情熱と技術を持った後継者グループを、JA女性部のなかに育てていくことがねらいだ。このグループづくりができれば、「食文化」を継承するさまざまな活動が可能になる。
 たとえば、「食のマイスター」が小・中学校に出向き、「食育」の一環として郷土料理の調理法などを実地に伝授する「食の出前講座」。JA女性部から小・中学校に呼びかけて、「郷土料理コンテスト」を開催するのもいいだろう。小・中学生2〜3人でグループをつくってもらい、ファーマーズマーケットや直売所で購入した地場食材を使った新たな郷土料理のメニューや味を競い、それを「食のマイスター」が審査・表彰する。これだけでも「食文化」に対する子供たちの関心は一気に高まり、地域農業に対する理解も深まってくるにちがいない。
 これをもう一歩進めれば、教育委員会や小・中学校の栄養士・栄養教諭と連携して、学校給食のメニューのなかに郷土料理を積極的に取り入れてもらうことも可能になる。それは必然的に学校給食における米飯や地場農畜産物の利用拡大につながるから、「地産地消」の推進にも貢献する。

◆「食」を通じたネットワークづくりへ

 さらに、子供たちだけでなく、一般消費者を巻き込んで行う「郷土料理教室」や「郷土料理コンテスト」も考えられる。その主な対象者は、ファーマーズマーケットや直売所の買い物客、あるいは市民農園・体験農園・観光農園の利用者だ。日頃から地場農産物を食べている人、作っている人たちだから、郷土料理に対する関心はもともと高い。これらの消費者を活動に組み入れることで、地域の「食文化」を支える応援団がグンと増え、JA女性部とさまざまな消費者組織をつなぐネットワークも大きく拡がっていく。
 「食文化」を通じた生産者と消費者のネットワークが拡がれば、郷土料理をビジネスとして成り立たせることも容易になる。
 たとえば、今では見られなくなった郷土料理を復活させたり、伝統の味に現代的工夫を加えて新たな郷土料理を創作して、地域独自のブランド商品として売り出す。それが「郷土料理教室」や「郷土料理コンテスト」で消費者ニーズを反映させたものであれば、間違いなく売れ筋商品になる。これならファーマーズマーケットや直売所でも目玉商品になり、Aコープや地元のスーパー・コンビニでも取り扱ってもらえるだろう。郷土料理をメインにした農家レストランや農家民宿の経営も可能になる。

◆地域の「食文化」を次世代につなぐために

 その地域にしかない食材、その地域独自の調理法、その地域だけの味。これが昔から受け継がれてきた農村の「食文化」であり、農村に暮らす人々のアイデンティティ(誇り)でもある。
 だが、高齢化と過疎化ならびに世代の断絶によって、農村の「食文化」はいまや風前のともしび。このままでは、郷土料理も伝統食も遠からず消えてしまうだろう。「食文化」を次世代に確実に継承し、農村のアイデンティティを取り戻すために、JA女性部はその先頭に立って取り組もうではないか。

(2007.1.30)


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