農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 「安心」と「満足」を提供し愛されるJA共済へ――JA共済3か年計画のめざすもの


組合員・利用者のニーズに応え医療系共済を伸ばす
現地レポート JA山口宇部(山口県)


 JA共済の新3か年計画(19年度〜21年度)の柱は、これまでの万一保障中心の保障提供活動だけでなく、生存保障ニーズにも応える医療系共済などの保障提供活動に力を入れていくこと。組合員・利用者の多様な保障ニーズに応える活動に本格的に力を入れる方針を全面に打ち出した。
 山口県のJA山口宇部(吉本正夫代表理事組合長)は、発売時からがん共済の推進を皮切りに生存保障ニーズへの提供へといち早く舵をきったパイオニア的なJAで、医療共済の加入件数では18年度に全国トップレベルの実績をあげた。実績の秘訣は「組合員を大事にする」(伊藤秀彦代表理事常務)。人材育成制度でも先駆的なチャレンジをしている同JAを訪ねた。


JA山口宇部の本店
JA山口宇部の本店

事業推進の鍵はJAへの「信頼」

◆がん共済を起爆剤に生存保障ニーズに応える

山口県 JA山口宇部

 JA山口宇部は平成7年に合併。管内は宇部市、山陽小野田市と山口市の一部で組合員数は正・准合わせて約2万人、1万7800世帯となっている。
 市街地から農村部までの地域の特徴を大きく分けると、商住地区、農住地区、そして農村地区となる。ここに合わせて18支店を構え、各地区の事業推進の核となっている。
 支店に配置されたLAは63人(18年度)。信用事業との複合LAとして推進しているが、LAのなかには共済を重点とする共済重点LAも設置している。LAによる長期共済新契約実績は70%を占める。
 18年度に同JAは医療共済「べすとけあ」の新契約件数が1100件を超え全国第3位の実績をあげた。
 「ニューパートナーの獲得などJAの事業基盤の強化のためには医療系共済の着実な推進が鍵になる」と本多正弘金融営業部長は話す。
 その医療共済推進の起爆剤ともなったのが、16年度から取組みを強化したがん共済である。この取り組みが18年度の医療系共済推進実績のベースにあるようだ。
 外資系保険会社を含め競争が激しくなるなか、がん共済の推進では16年度からの3年間で市場シェアの30%獲得を目標とした。目標達成のために重視したのが、組合員・利用者に対する「ニーズの喚起と徹底した説明」だ。

吉本正夫 組合長 伊藤秀彦 常務 松ア宏紀 常務 本多正弘 部長 河野将国 課長
吉本正夫
組合長
伊藤秀彦
常務
松ア宏紀
常務
本多正弘
部長
河野将国
課長

◆会話のなかからニーズをつかむ

 そのためのツールのひとつとしたのがパンフレット。「ガンは治せる病気になりました」と強調するこのパンフレットでは、しかし、再発も心配されその治療は長期間になるため負担が増えること、また、大黒柱の夫が入院した場合、逆に妻が入院となった場合に、それぞれどんな負担が想定されるのかが説明されている。さらにこのパンフレットでは山口県のガン死亡率が全国的に高いという点も情報提供、一般的な説明にとどまらず、組合員・利用者がより身近に感じられる内容になっている。
 実際にLAが訪問活動を始めると、意外にも50歳以降でも加入していない人が多く、説明を受けてその保障の必要性への理解が広まっていったという。
 もちろんすでに他業態のガン保険に加入している人もいたが、それに加えてJAのがん共済も、という組合員・利用者がいた。
 「ガンでは治療費が高額になることを説明していくと、きちんとした医療を受けたい、家族に受けさせたいというニーズから、たとえば個室代の費用保障としてJAのがん共済を考えておこうという方もいました」と金融営業部の河野将国営業企画課長は話す。
 河野課長によるとこうした例はまさに組合員・利用者への説明と会話のなかから出てきたという。会話のなかから、親戚や近所の人たちが実際に苦労した話などが出てくる。それはまさに具体的で実感をともなった保障ニーズだといえる。それをLAで共有して説明と提案に結びつけていった。
 がん共済は当初の目標を早期に達成。18年度では保障額にして7億円を超える実績となった。

◆既契約者への「義務訪問」を徹底

 18年度から本格化させた医療共済の推進でも、情報提供、説明を重視した。
 ここでも分かりやすい数種類のパンフレットが推進のための武器となった。なかでも活用されたのが、終身共済や養老生命共済などに付加した全入院特約と「べすとけあ」を徹底比較したパンフレットだ。
 入院について病気・災害に関わらず365日保障、保障期間は一生涯であること、また仕組改訂で加わった120日型であれば掛け金負担も少ないという選択もできるなどの点を、全入院特約の保障内容と比較、説明している。
 そして18年度の推進にあたっては既契約者への訪問を重視、「義務訪問」としたことが注目される。
 その理由について本多部長は「組合員・利用者に対して現在はどんな契約になっているのか説明するのは活動の基本。それに加えJA共済に医療共済があるということもきちんと情報提供するのはわれわれの義務、責任だという考え方です」と話す。
 パンフレットは訪問先が不在であっても配付することにした。なかにはそれを読んで、詳しい説明を、との連絡もあったという。
 河野課長は「最初から医療保障の見直しを勧めるのではなく、まずは情報提供です。説明したうえで組合員・利用者のニーズはどこにあるのか、情報収集をする。提案はそれからです。的確にニーズをつかんでいれば提案にブレがなくなります」と話す。
 もちろん既契約者への訪問では利用者開拓のために紹介も依頼し、入院保障が重要な時代になっていることを説明してニーズを掘り起こし、新規開拓へとつなげる努力にも力を入れた。
 また、今後は普及基盤拡大のために「せるふけあ(定期医療共済)」の拡充にも力を注いでいく予定である。

トレーナー制度でLAを着実に育てる

◆LAからトレーナーを選抜

支店での支店長・次長とLAとの戦略会議風景
支店での支店長・次長とLAとの
戦略会議風景

 同JAが優れた実績をあげた背景には18年度から導入したトレーナー制度がある。
 支店によっては6、7人のLAが配置されているが、支店全体として共済推進を管理する職員を配置できないという課題があった。
 そこで同JAが導入したのがLAを管理職として登用し、目標管理や、個々のLAの業務支援、人材育成にあてる制度である。
 登用されたLAはトップレベルの優績者。18年度には18支店のうち6支店6名と本店に2名の8名のトレーナーが選抜された。平均して1人年14億円もの長期共済新契約実績を誇る優績者ぞろい。それを第1線のスタッフから管理職としたのだから、かなり思い切った体制づくりである。
 ただし、前年度までLAだったため指導や支援の仕方は実践的だ。たとえば、LAが訪問活動から戻り思ったような成果があがらなかったときなど、その場で組合員とLAの会話をロールプレイング方式で再現、どこに問題があったのか、より理解が得られる工夫はどこかなど即座にチェック、検討していくこともあるという。
 また、トレーナーのなかにはLAに替わって設計書をつくるという支援をしたり、同行訪問もした。こうした支援活動は新任LAの自立を促すために年度当初に限定したが、設計書の作成などは担当エリア内の組合員・利用者を熟知したLAとしてのキャリアがなかったらできないことだろう。トレーナーというよりもプレイングマネージャーという印象も受ける。本多部長によるとこの制度の導入で管理職層がぐっと若返ったという。
 トレーナー制度の成果は着実に数字となって現れた。山口県の18年度の新任・新人LAの長期共済新契約実績県下30位までのうち、14名ものLAがJA山口宇部で占めたのである。

◆業績評価と人材育成をリンク

 LAからトレーナーという管理職に登用するこの制度は、共済重点LAのなかから3年連続で優れた成果をあげたLAを対象にしている。その業績はどう評価するのか。それが「渉外担当者業績評価制度」である。
 この制度では業績目標に15ランクの基準を設け、前年実績などをもとにLAごとにどの基準に該当するか資格を認定する。この基準には共済、信用事業の獲得件数・金額のほか、1日あたりの訪問件数、新規開拓件数、さらにJA共済全体として重要な課題となっているニューパートナー数などまで数値目標がある。認定された基準をクリアすれば業績手当が支給される。また、認定ランクより上の基準を自分のチャレンジ目標とすることもできる。その成果次第では次年度のランクアップも望める。
 渉外職としての「やりがい」、「働きがい」に応え、より高い成果をあげる「強力な渉外集団づくり」が目的だ。そしてこの業績評価制度を人材登用とリンクさせたところに大きな特徴がある。
 さらに年度ごとの共済事業の推進方針を反映させることも可能だ。たとえば、ある方針を打ち出したなら、業績評価リストにある、その目標値を全体として高めに設定すればいい。全員が目標を達成すればJA全体として成果につながる。つまり、業績評価制度は、事業方針具体化のためのシステムともいえる。

◆3Q訪問でも目標値設定

 JA共済が今年度から展開する全戸訪問活動を掲げた「3Q訪問プロジェクト」。組合員・利用者への感謝の気持ちを込めて、訪問し「お変わりありませんか」など3つの質問をしながら保障のニーズをつかんでいく。
 同JAでは4月からスタートダッシュキャンペーンを展開してすでに積極的に3Q訪問を行っている。「感謝の気持ちこめた訪問は地域から喜ばれる」というのがLAから聞かれる実感だという。
 この6月までのスタートダッシュキャンペーンでも目標数値を設定し、全LAが120軒、ニューパートナー情報の獲得でも共済重点LA60軒、一般LA36軒などの具体的な数字をあげている。もちろん今年度からは先に紹介した業績評価制度の基準値にも目標数値として盛り込まれている。3Q訪問はJAの事業推進につながる情報獲得が目的だが、何よりもコミュニケーションの強化によるJAへの信頼づくりが重要だろう。
 伊藤秀彦代表理事常務はこう話す。
 「かつては農機具の整備が得意な職員なら工具箱を持って組合員宅を回れとも言いました。田植えの時期なら農機の不具合を現場で助けられるかもしれないからです。今でもLAには共済関係の資料だけでなく、経済事業も含めJAについて基本的なことが説明できる資材も持つよう心がけてもらっています。LAはJAの顔。組合員・利用者を大事にする姿勢がJAへの信頼を生みそれが共済事業の成果にもつながると思っています」。

(2007.5.22)

 

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