農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 WTO・EPA問題特集



デモ行進の様子

 JA全中と全国農政連は6月12日、東京・日比谷野外音楽堂で「WTO・日豪EPA・基本農政確立対策全国大会」を開催、全国から生産者、JAグループ関係者3000人が結集した。WTO農業交渉は米国、ブラジルなど一部の食料輸出国を中心に交渉が続けられ7月末にもモダリティの大筋合意という見方も出てきているが、ファルコナー農業交渉議長が示した文書では関税削減幅を緩和する「重要品目」の数を1%〜5%とするなど日本やG10の主張を反映していないことから「予断を許さない状況」にある。JAグループはこうした現状を打破するため上限関税導入の断固阻止など広くアピール。大会後はデモ行進も行った。

困難な局面を打開し総力で「食」と「農」を守ろう

◆国論を二分してはならない

全中 宮田会長

 WTO農業交渉はG4(米国、EU、ブラジル、インド)の交渉をもとに大筋合意をしようとしていることに対しJA全中の宮田勇会長(写真)は「強引な動き」と批判。重要品目数や関税削減幅について「食料輸入国の主張が反映されていない」ことから「なんとしても現状を打破しなければならない」と訴えた。
 一方、全中とEU農業団体連合会(COPA)が提唱した世界の農業者による「共同宣言」には大会当日までに43か国79団体が署名。その後、新たに11か国11団体が加わり「5大陸1億5000万人の農業者による共同宣言」(別掲)となった。同宣言では、どの国も食料を生産する権利があることを主張。大会で宮田会長は「世界の農業者に共通の切実な声。何としても農産物貿易ルールに反映させなければならない」と強調した。

WTO・日豪EPA・基本農政確立対策全国大会

 また、壇上にはJAグループが各地で行ってきた食と農を守ることに賛同した183万人の署名も。国内では経済財政諮問会議でEPAの加速化などが議論されているが宮田会長は「将来にかかわる重要問題に国論を二分することがあってはならない。農業・農村をないがしろにして美しい国づくりはあり得ない」と訴えた。

5大陸1億6000万人の農業者による共同宣言(要旨)
●現在の交渉は数少ない大輸出国の利益に支配され農村住民の安定的な食料の確保、農村活性化などに農業が果たしている特別な役割は完全に無視。
●ドーハラウンドは「開発ラウンド」であり「市場アクセスラウンド」ではない。途上国にとって必要なことは食料安保や農村住民の生計保障に向けた自国農業の基盤確保。
●ファルコナー議長は非貿易的関心事項に一切言及せず。重要品目、特別品目を保護するための手段について提案は不十分。交渉が議長提案に基づいて進められれば世界各地の農業生産は危機に瀕する。
●国際的に貿易される農産物は全世界の農業生産のわずか1割。重要な農業の役割を損ねるような貿易ルール確立はナンセンス。悪い合意ならば合意しないほうがよい。
●すべての加盟国は十分な国内生産を維持し食料安保を確立する権利を有する。
●関税削減は議長提案水準を十分下回るものでなくてはならない。
●上限関税は受け入れられない。各国それぞれが適切な数の重要品目や特別品目を指定できるようにし十分な柔軟性が与えられなくてはならない。

◆農業には特別な役割ある

COPA(EU農業団体連合会)のジュゼッペ・ポリティ副会長
COPA
(EU農業団体連合会)の
ジュゼッペ・ポリティ 副会長

 大会では茂木守JA全中副会長が代表要請。「上限関税の断固阻止」、「重要品目の十分な確保」などのほか、日豪EPA交渉での重要品目の例外扱いや国内農地政策改革や自給率向上対策などを要請した。
 来賓としてあいさつした自民党農林水産物貿易調査会の大島理森会長(衆院議員)は、上限関税適用の絶対反対と重要品目の十分な確保などを基本線として政府・与党として交渉にあたると話し、「この大会で農業、農地の守護者、伝統文化の継承者としての魂の決意を聞いた。広く国民に伝え最善の努力をする」と国民の合意形成にも力を入れることを強調した。
 COPAのジュゼッペ・ポリティ副会長は「私たち農業者は人間の生活の活力を生み出している。必須の食料を輸入に頼るわけにはいかない。自分たちの食料安保を守る権利がある。WTOはそれを尊重しなければならない」と話したほか、飢餓に苦しむ人のうち70%が農村に住んでいることを指摘、「条件があれば自分たちで生産でき都会に供給もできる。しかし、WTOがこのまま進めば多国籍企業にどううち勝てるのか。彼らにはチャンスがない。悪い合意なら合意しないほうがいい。手遅れにならないよう結集して声をあげていかなくてはならない」などと参加者に途上国の農業、農村開発の重要性もアピールした。

 女優で農政ジャーナリストの浜美枝氏は「農業を考えることは日本の未来を考えること。明るい未来は明るい農業があってこそ」と幅広い行動を呼びかけた。 また、大地を守る会の藤田和芳会長は、消費者の支援がなければ日本農業は守れないとして国産農産物を食べ続ける運動を展開。地球温暖化対策が叫ばれているが、フードマイレージ(食料の輸送距離)に着目して、輸送距離の小さい国産農産物を食べれば温暖化防止に貢献することを強調した。「量販店で買う輸入豚肉300gを国産に変えれば(冷房設定温度を1度上げる)クールビズを3日間実施したのと同じ効果があると試算している」などと紹介し、「国産を食べ続ければ農業を守ることになる。みなさんを孤立させることはありません」と訴えた。

全国から3000人が集結

 そのほか、広島県消費者団体連絡協議会の岡村信秀事務局長はJAや森林組合などとの連携で地域の力を取り戻す運動への取り組みを紹介、「食と農、自然環境の未来が輝く」運動をめざすことなどを誓った。
 大会では「美しい国づくり」に向けた特別決議を採択(別掲)。大会後は3000人の参加者が都心をデモ行進しWTO農業交渉に対する毅然とした対応を求めるアピールをした。

「美しい国」づくりに向けたWTO・日豪EPA・基本農政確立対策に関する特別決議(要旨)
●ファルコナー農業交渉議長が示した文書は米国に対して極めて寛容。
 一方、重要品目の数を極端に絞り込むなど食料輸入国に対して一方的な妥協を迫る不公平な内容。
 われわれは世界各国の農業者とこの文書を拒否した。
●日豪EPA交渉では圧倒的な生産条件格差があり重要品目に例外措置を確保しなければ「食」と「農」への致命的な影響は必至。
●農業の多面的機能に配慮せず交渉を進めれば「美しい国」の針路に取り返しのつかない悪影響を確実に及ぼす。
●われわれは国民の期待に応えるため担い手づくり、農地の面的利用集積などに全力をあげる。改革を成し遂げるには埋めることのできない生産条件格差を是正する適切な水準の国境措置が必ず担保されなければならない。
●困難な局面を打開し「食」、「農」、「みどり」を基礎とした「美しい国」が創られるよう組織の総力を尽くして運動を展開する。

決意表明

JA全青協 坂元芳郎会長
JA全青協
坂元芳郎会長

農への思い、次世代につなぐ結集を

 農村では人が減り高齢化が進み、それでも日夜額に汗して安全・安心でおいしい農産物づくりに努力している。コストを下げぎりぎりの経営をしているときにこれ以上大量の食料が輸入されれば経営は困難になる。
 農業は地域と環境を守り、食料を国民に提供する生命産業だがわれわれのなりわいであり生きる道でもある。
 われわれの生活を守り、農業への思いを次世代につなぐために結集を図らなければならない。日本農業の存在価値が問われる闘いだ。

JA全国女性協 福代俊子会長
JA全国女性協
福代俊子会長

行き過ぎた市場原理は暮らしと命を脅かす

 食と農は生産者だけの問題ではない。すべての人が自分自身の問題として受け止めるべきこと。食と農の交流事業を通じて賛同する人々と心を通わせ仲間の輪を広げていく。
 次世代を担う子どもたちの食には関心を払うべきで地産地消による健全な食生活は子どもたちの豊かな心と健やかさを育む。
 多様な動植物の命を育む自然環境は輸入できない。行き過ぎた市場原理は人々の暮らしと命を脅かす。食と農と命を守り美しい国づくりに邁進する。


日豪EPAで関税が撤廃された場合に農業や関連産業が受ける影響の試算例

北海道  総額1兆3,716億円
農業生産額 4,456億円
 肉用牛が422億円、酪農が2,369億円、小麦が852億円、てん菜が813億円、農家戸数は2万1,000戸
関連製造業  4,414億円
 乳業工場や製粉工場、てん菜糖工場などに影響
地域経済 4,846億円
 運輸や商業などに影響
 雇用は4万7,000人

青森県  農畜産物3品目(関連産業を含む)127億円
牛肉:60億円
乳製品:19億円
小麦:4億円
関連産業:44億円

群馬  農畜産物3品目 353億円
小麦:46億円
酪農:217億1,000万円
肉牛:89億7,000万円

鹿児島  農畜産物3品目(関連産業を含む)1,727億円
農業生産額 558億円
 肉用牛が387億円、サトウキビが103億円、生乳が68億円
関連製造業 622億円
地域経済 547億円

沖縄  総額781億円
波及効果も含めた影響額
 サトウキビが613億円、肉用牛が104億円、酪農が38億円、パイナップルが26億円

(全中作成のパンフレットより)


WTO・EPA問題特集
「座談会 未来の食と農を守るために―今こそ、世界の流れ変えるアピールを―」

(2007.6.22)


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