農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 WTO・EPA問題特集



◆もっと生産者を励ます政策を

 小林 神田先生は政策やJAグループの課題も含めて農業を維持していくためにはどう支援していくべきだとお考えですか。

 神田 政策的には多くの農業者の要望である農産物の生産費を償う価格保証が基本だと思います。ただ、これが現在のWTO体制や、新自由主義の考え方が強まるなかではなかなか通らなくなっているわけです。
 現在の農政改革の方向は、効率的、安定的な農業経営をつくっていくと同時に、もうひとつは集落営農の組織化ですが、その両方を励ましていくことが重要だと思います。
 そのなかで地域の農業をどう支えていくかですが、私自身は、農村で農業をやっているみなさんは本当にがんばっていると思っています。地産地消にしても安全・安心な農産物づくりについても、直売所などの活動で非常にいきいきとしている農業者も多いし、消費者と直接触れ合って日本の農産物の大事さを分かってもらう活動もしています。そのように農業をやりたいという人はたくさんいるわけで、そこを政策的にもっと励ましていく方向を打ち出すことが必要なんだと思いますね。
 そういうなかで、EPAの加速化などという方向に走れば、こうした芽生えつつある農村の取り組みというものが消えてしまうのではないか。農村集落から人がいなくなってしまえば山が荒れ、川が濁り、そして海が汚れます。農業だけでなく林業、漁業にも影響が出ます。
 そう考えると、財界主導の考え方は、あまりにも自動車や電気製品その他の工業製品を重視した産業政策を優先し、そこで生まれた利益を後から弱い部分に回せばいいんだというものです。しかし、一国の経済循環ということを考えると、いかに不安定な考え方かと思います。長い目で国のあり方、地域のあり方というものを見ていないなと感じます。

 小林 坂元会長からは生産者と消費者の交流の大切さが指摘されましたが、全地婦連としてのそういう取り組みはされているのでしょうか。

◆生産者と消費者の区別を超えて

 加藤 会員の中には生産者もいて、農協女性部に加入している人もいます。生産者でない会員ももっと生産者、あるいはJAと連携していきたいと考えています。ただ、こういう重要な問題を抱えている局面に至ってもそういう連携がなかなかうまくできていないかなと思います。そこは私たちも努力をしなければならないと考えています。今は生産者と消費者と切り分けることが果たしていいことかどうか。日本全体の利益を確保していくときに、あまりそういう切り分けをしないでみんなでどうしたら自給率の問題も含めて日本の農業を活性化することができるのかという視点で考えていくことが大事ではないかと思います。
 そこを生産者と消費者に切り分けて考えてしまうと、それこそ貿易の自由化を進めれば消費者にとっても価格が安くなり、それを歓迎する消費者も多数います。しかし、安ければ何でもいいのか、といえば、確かに価格は選択をするときのひとつの大事な要素ではありますが、国内で生産された農産物を購入する消費者もたくさんいます。決して価格だけで選択をしているわけではないわけですね。いろいろネットワークを組んで生産者も消費者も連携し合う、今こそ、そういう時ではないかと思います。

 小林 みなさんのお話を伺っていると生産者と消費者の連携が今こそ大事になっているということだと思います。そのうえでWTOやEPAといった国際問題が大きな課題ですが、専門的な話がどうしても多いテーマなのでどう情報提供していくか努力が必要だと思っています。
 たとえば、先ほどから話題になっているWG報告では、日本は農産物に高関税をかけていてそれが消費者負担になっていると書かれています。確かに小麦の関税は250%、砂糖では300%などであり、これだけを取り出すとものすごい高い関税をかけているように思いますね。
 しかし、実態はそうではありません。たとえば、小麦は日本人が食べる量の9割は外国から輸入しているわけですが、この部分は実は低い関税の輸入枠の部分なんです。関税が高いのはこの9割の輸入量を超える部分についてで、そこは250%の関税をかけ、消費量のたった1割の国産小麦の生産に影響を与えないようにしているわけです。ですから、日本の消費者が輸入小麦を使ったうどんやパンを食べるときの、その輸入麦にかかった関税は低い。これは砂糖でもでんぷんでも同じです。
 つまり、WG報告では国内消費に必要とする食料についての関税はすでに低いということが説明されておらず、国内農業に影響を与えないようにしている部分だけを取り出して、いきなり高関税だ、消費者負担になっているというのは誤解を与えかねないと思います。

 神田 関税を撤廃すれば、その分だけ消費者は必要以上のコストを負担しなくてもいいですよ、という論議ですが、その点で言えば、米の価格を考えると、今の基本法が制定されたときはどんなに安くても1俵2万円台だったのが、今はコメ価格センターの落札平均価格は1万5000円ですよね。それをさらに下げろという話になっている。
 米の関税率がどんどん下げられるようなことになればどういうことになるか。農水省の試算では米生産は今の10%しか残らないといっています。そうなると日本の農村の風景を思い浮かべると、水田は消えてしまい「ふるさと」という歌などは死語になってしまうのではないか。

 小林 一方、野菜はほとんど関税がなくて3%ぐらいです。ただ、ここ数年をみると中国からの野菜の輸入が大変増えていますね。まさに野菜や果樹の生産者というのは国際化の最前線で厳しい戦いをしているということだと思います。坂元会長、現場ではどう対処しようとしていますか。

座談会 その2 持続的な地域社会づくりをめざす

◆食料主権の確立を求めよう

 坂元 輸入野菜が増えているなかで野菜農家は、中国の野菜に勝つためにはどうしたらいいか考えていくしかないと思っています。ですから、さっきから話しているようにやはり高品質なものを作るしかない。
 しかし、WTO交渉やEPAがこのまま進めば日本の農業は壊滅的になるだろうと思います。農業が環境に果たす役割というものも崩れていく、そしてまた、ふるさとの元気がなくなり田舎に人がいなくなるということも出てくるのではないかと心配しています。
 食料主権の確立といいますか、国に対しても守るべきものは守るという主張をしてもらいたいと私たちは考えています。
 小林 こういうなかでJAグループでは「貿易のために食を売り渡すな」というアピールを世界の農業団体とともにしています。こうしたアピールが大事だと思いますが、先ほど加藤事務局長から消費者にとって多面的機能と言われてもなかなかすぐには理解できないという話がありました。何がわれわれに求められているのでしょうか。

 加藤 都市部の消費者の人たちにも、農業の多面的機能を農家の人たちが支えてくれていることに感謝するためにもっと情報が必要だと思います。
 先ほどの関税の話でもそうですが、消費者が誤解をしているというより説明不足ではないでしょうか。たとえば、何年か前に環境ホルモンが問題になったときに、消費者は塩化ビニールに関心を持って、いろいろな企業と話合う機会をもちました。話してみると企業の人たちも、塩ビをなんとか削減したいと思っているが、今は代替のものが見つからないので、とりあえず塩ビを使わざるを得ないということでした。情報提供をしてもらえれば、消費者も代替素材ができるまで待ちましょうということになる。ですから、多面的機能にしても関税の問題にしても、情報を共有しあうことによって、双方の理解が促進されていくと思います。

 小林 坂元会長、全国の青年農業者のリーダーとして、どう盟友とともに情報を共有し今後取り組みを進めていこうと考えていますか。

 坂元 昔は自由化反対といって結集する場がありましたし、それが内向きの運動であっても自分の経営につながってきた面があります。
 しかし、今は将来に向かって農業の展望を切り拓いていくには国民との合意形成をつくっていかなければなりません。フランスで国民が自国の農業を支持するように、日本の農業を消費者から支持してもらえるように活動の展開をしていかなければならないと考えています。
 そういうなかで、今、食のあり方も問題になっていますが、私たちが果たせる役割は食農教育ということだろうと思っています。子どもたちに食だけでなく、農業の大事さ、田んぼに住む生き物の話であったり、総合的に食と農の大事さを伝えていければなと思っています。
 国民理解というのはすぐには現れてこないかもしれませんが、地道な活動で少しでも進むような努力をしていきたいと考えています。

 小林 加藤事務局長は今後の取り組みで大切なことはどうお考えですか。

 加藤 やはり政策をつくる人々に対して積極的にアプローチをしていかなければならないと思っています。
 今日、話題になった経済財政諮問会議のEPA・農業分野のWGも経済界の人が中心になっています。国の政策をこの会議が決めているといっても過言ではないほどの力を持っているわけですが、そういう人たちが果たして地方が置かれている状況を冷静に理解をされているのか、農業者の置かれている状況をきちんと理解しているのか疑問です。神田先生が仰られたように、かつてあった農村の風景というものがどんどん失われていっています。農業を軽視する政策が背景にあると思うので、政策をつくっている人たちへの積極的なアプローチは生産者、消費者にかかわらず大事なことだと思っています。

 坂元 たしかに東京のような緑があまりないところで農業の政策について話してもらうのではなくて、地方の田んぼの真中でやっていただきたいと思います。農業というのは、地域や環境を守りそして食料を生産するという生命産業という大きな枠組みがあると思うんですね。そこを理解したうえで議論をしていくべきだと思います。

 小林 神田先生からもお願いします。

 神田 今日は食料自給率や農業が地域に果たしている役割について議論しましたが、やはり日本の農業というのは稲作が基盤になっていると思います。水田を基盤にしたうえで、野菜や果樹や畜産が発展してきた。これがもしWTO、EPAのなかで稲作生産が10%になってしまえば日本農業の崩壊、解体ということになる。
 日本の人口は世界のなかで2%程度ですが、農産物の輸入額でいえば10%も占めています。日本農業は小規模ではあるが土地生産力は高く、豊かな農業生産に適している国ですので、おおいに食料自給率を上げて、外国から安易に食料を輸入しないようにすることのほうが、食料に困っている人たちに十分貢献することになると思います。
 また、地産地消の大切さも話題になりましたが、ファーマーズ・マーケットは米国でも大変広がっていて、地域の農産物は新鮮で健康的だというスローガンも見かけますし、ヨーロッパではスローフードなどの独自の運動もあります。やはり日本はそういったもうひとつの農業のあり方をめざしている人たちと連帯していけるような基盤をつくっていくことも大事だと思います。そこをJAグループも支援していってほしいと思います。

 小林 今日は非常に重要な点をいくつもご指摘いただいたと思います。JAグループとしても消費者のみなさんの期待にどう応えていくのかということと、農業は農業の内部の問題としてどう体力をつけていくのか、この二つの問題を同時に実践していかなければならないと考えています。
 その一方で、WTO、EPA交渉の結果で、関税など国境措置が大幅になくなるようなことになれば、消費者のみなさんの期待に応える以前の問題として、国内の農業生産がなくなってしまうということになりかねません。米国や豪州と比較すると、日本はどうしても埋めようのない条件の格差があって、そこを関税で調整するということですから、そういったことを含めて情報を共有して率直にお互いが語り合えるようにし、語り合った結果として何らかの方向を見出していくという国民理解の促進運動を展開していくことが必要だと思います。

 今日はどうもありがとうございました。

(2007.6.25)


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