農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 カントリーエレベーター品質事故防止月間(8月15日〜10月15日)


トップブランドの更なる飛躍をめざして
現地ルポ JA魚沼みなみ(新潟県)


 「日本一」といわれる魚沼コシヒカリの産地・JA魚沼みなみでは、トップブランドを守り、さらに飛躍するために、生産からカントリーエレベーター(CE)における貯蔵にいたるまで、一貫した管理が行われている。サイロクーラーを導入したCEでは、自分たちの経験と技術の蓄積を活かした独自の「操作マニュアル」と事故への対応を具体的に示した「トラブルマニュアル」を作成し、日々の活動に活かしている。CEの「品質事故防止強化月間」に合わせて同JAに取材した。

JA魚沼みなみ(新潟県)

◆価格に見合った品質を〜「魚沼米憲章」

JA魚沼みなみ
 新潟県の南端、市の東には5月連休過ぎまで雪が残る八海山をはじめとする越後山脈、西には魚沼丘陵をのぞみ、四方を山に囲まれ、その中央を南北に流れる魚野川で形成される中山間地にJA魚沼みなみはある。平場でも通常は3メートルを超えるという豪雪と四方を取巻く山系によって水に恵まれ、日本でも有数の良質米産地として知られている。
 栽培されている米は、もちろんコシヒカリ(BL:Blast resistance Lines:いもち病抵抗性系統)が圧倒的に多く、全体の98%を占めている。日本一のブランド米「魚沼コシヒカリ」のなかでも、南魚沼産コシヒカリが品質・味ともに一番良いと評価されている。そのブランド力を保っていくためには、「価格に見合った品質にバラツキのない米を生産していくことだ」と上村久太郎同JA専務。
 同JAを含めて「魚沼コシヒカリ」の産地には「トップブランド『魚沼コシヒカリ』の更なる飛躍を目指して」を副題にした「魚沼米憲章」がある。そこでは「魚沼の自然、そして何よりも消費者と向き合った米づくりを続けるため、以下の4つの取り組みを魚沼米に携わるもの全ての共通理念として掲げ、生産者・関係団体が一体となって実践する」としている。

◆八十八の手間を惜しまず最後の一粒まで仕上げる

上村専務
上村専務
 4つの取組みとは、
魚沼の自然に感謝し、地域の環境保全、景観に配慮した農業の推進
消費者に最高の食味の魚沼コシヒカリを安定的に供給するため、おいしさと品質を最優先した米づくりとか稲わらは全て田んぼにすき込み土づくり肥料の施用に努める、生育に合わせて中干し・溝切りを行う、9月初旬に倒伏していないこと、玄米タンパク含有率6%を目標など、高品質・良食味米の維持向上のための10か条の徹底実践。
生産履歴記帳など常に消費者に安全・安心を提供していくための5か条の徹底実践。
栽培技術の向上・研鑽に努め、米づくり八十八の手間を惜しまず、最後の一粒までトップブランド魚沼コシヒカリに仕上げる。
 同JAでも「トップブランドを守っていくためには。最低これくらいは守っていこうよ」(上村専務)と、この憲章に則った営農指導を行っている。それは、トップブランドを守ることの厳しさを生産者にも認識してもらうことでもある。
 冒頭にも触れたように盆地なので蒸し暑く、出穂と同時に丈が伸びるので田植えを5月20日中心に指導し、出穂を8月10日前後にするようにしているという。そして憲章の「高品質・良食味米」10か条にもあるように「倒さないことを徹底」していると上村専務。
 また、蒸し暑い土地柄ということで、いもち病の多発地帯だった。しかし、コシヒカリBLにしたことで、農薬使用量が大幅に減り、いもち病防除にかけていた手間を畦畔の草刈りをする(除草剤使用はできるだけ排除する)など、安全性をさらに高めイメージアップているという。

◆伸びているJAの精米販売特栽米はほぼ100%

 JAが集荷するのは約15万俵(60kg)で、「(農家からの出荷米が)JAに帰ってきている」と上村専務がいうように、管内生産量の約60%をJAが集荷しているという。その大きな理由は、精米してJAが直接販売しているからだ。集荷された米のうち約4分の1がJAが直販する精米販売だという(金額ベースでは10億円強)。精米販売は玄米よりも価格が高くなる。それを組合員に還元しているからだ。 とくに特別栽培米制度が始まった平成元年ころから、販売量が増え、特栽米は100%近くJAの直接販売で売られているという。
 精米販売を含めてほぼ半分がJAの直販で、残りの半分が全農への販売委託となっている。これは「魚沼コシヒカリ」というトップブランドを活かした販売戦略だといえるだろう。
 「米憲章」の徹底した実践などによって生産された「価格に見合った品質」の米をその品質を保って消費者や実儒者に確実に手渡すために保管調製するのが、CE(カントリーエレベーター)の仕事だといえる。

◆ラック式低温倉庫・精米工場を併設した六日町CE

六日町CE
 JA魚沼みなみには、平成12年の合併前に建設された六日町CE(平成2年竣工)と大和CE(同4年竣工)の2つのいずれも3000トン収容のCEがある。
 六日町CEには、入庫・保管・出庫までをコンピュータ管理するラック式米低温倉庫(18年竣工、2400トン〈4万俵〉収容)、色彩選別機・小袋ライスパッカー(袋詰)などを備えた精米工場、精米した米を販売する特産センターが併設されており、同JAの米基幹施設となっている。
 六日町CEには、12年にトラックスケール、16年に穀温・水分調整を行うサイロクーラー、17年に色彩選別機、そして18年には自動的に結束・はいつけを行う個体(30kg玄米袋)用ロボットパレタイザーが設置され、CEの機能が大きく前進した。
 とくにサイロクーラーの設置は、品質の安定化に大きな役割を果たしている。魚沼コシヒカリは、それこそ「世界一高い米」なので、ちょっとしたことでもクレームになりかねないが「CEに入れれば品質が安定しているのでクレームはほとんどない」という。

◆サイロクーラーの技術を3年間かけて磨く

山崎CE作業主任
山崎CE作業主任
 大和地区は、生産組織が多く毎日平均的にCEに持ってくるが、六日町は組織化が遅れているために土日に集中していたので、CEの受け入れ日を地区別に決めていた。しかしサイロクーラーの設置活用によって乾燥機作業の負荷が軽減され、乾燥処理に余裕が出来るようになったため19年産米から地区別荷受けを撤廃し、いつでも持ち込めるようにするという。
 サイロクーラー設置から3年。この間に技術と経験を積み「サイロクーラーの操作技術が追いついた」からだとCE作業主任の山崎重一さん。
 サイロクーラーの運転・操作方法等については、トラブルなどの対応を含めた客観的なデータがまだ不足している。そのため山崎さんたちは、3年間あらゆるデータを記録してきた。その記録には、小さなことであってもトラブルをすべて書き出し、どういう対策をとり、その結果がどうなったかが記録されている。

最後は自分の五感で確認し事故を防止

◆事故防止の最大のポイントは「穀温管理」

中央監視制御盤
 事故防止の最大のポイントは「穀温管理」だという山崎さんは、「サイロ穀温管理記録表」を独自に作成し記録している。そこにはサイロ別に下から上まで8か所の穀温が、荷受から出庫されるまで毎日数字で記載されている。温度の変化がないときは「−」と記録される。近隣の気象台から得た気温や湿度などのデータも書き込めるようになっている。
 通常CEでは穀温数値を記録する他に、グラフ化し視覚的にとらえることで細かな変化をチェックしている。しかし、「グラフ化は手間がよけいにかかるが、この方法だと穀温の変化も細かく感じ取れる」からだと山崎さんはいう。
 荷受した籾の穀温をサイロクーラーで下げるためには、どれくらいの風を送ればいいのかは、メーカーのマニュアルもあるが、土地土地の条件の違いやそのときの気象条件も異なるので、それこそ「やってみなければ分からない」ことが多かったという。サイロクーラーは、サイロの下から冷やしていくので、一番上の暖かい空気が完全に抜け切らないと事故の原因となる可能性がある。そのため山崎さんは、穀温計だけに頼らずに、サイロの上に上がって「自分で涼しい風」が出ていることを確認している。最後は、エレベーターといっても人間が昇降するエレベーターはないので、長い螺旋階段を登って「自分の五感で確認」するのだと冗談交じりにいった。

◆独自の「操作マニュアル」と「トラブルマニュアル」

 そうした苦労の結晶が、メーカーのマニュアルとは別に「カントリーエレベーター操作マニュアル」として独自にまとめられている。そこには、荷受準備・荷受作業から、乾燥作業の手順、水分や熱風温度、穀温などの測定作業の手順などが分かりやすく記載されている。
 さらに、いままで起きたトラブルとその解決策に基づいてまとめられた「トラブル対応MANUAL」がある。そこには、「警報ブザーが鳴ったら速やかに非常停止ボタン・警報リセットボタンの順序で押し…」などトラブル対応の基本事項、荷受ラインから貯留ビン、乾燥・精選ラインなどCEの各部ごとに起こりうるトラブルとその原因と対応がまとめられている。
 この二つのマニュアルは、毎年1回開かれるオペレーター会議で、1年の反省を含めて検討され、毎年更新されている。そのベースとなるのが、前に触れた「サイロ穀温管理記録表」など日々の記録なのだ。
 人はとかく大きな事故が起きれば別だが、小さなトラブルは内々で処理しようという傾向があるものだが、どんな小さなことでも記録し、それを後々のために役立てていることが、JA魚沼みなみのすばらしい点ではないかと思う。そうしたことも評価されて、山崎さんは今年のオペレーター表彰を受賞している。

◆「また来たか」 に信頼関係が

 CE現場には、CE運営委員会会長でもある上村専務が「また来たか」、というくらい足を運び、「オペレーターの相談を聞いてくれるので、対応が早くやりやすい」からだと山崎さんはいう。そこには、魚沼コシヒカリというブランドを守ろうとする経営トップから現場のオペレーターまで一貫した強い意志と信頼関係が築かれていることを感じることができた。

(2007.8.16)


社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。