農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 生産者と消費者の懸け橋になるために―JA全農「3か年計画」のめざすもの―


これからの担い手支援対策
現場に出向き問題を発見し解決していく
神出元一 常務理事に聞く


 全農は「新生プラン」で「担い手への対応強化」を第一の使命として掲げた。全農がいう「担い手」は国のいう担い手よりも幅が広く、地域の農業をこれから担っていく生産者ということになるが、すでに18年度から生産資材の優遇措置などを前倒しで実施。さらに各県本部に専任担当者を配置し、ほぼ体制は整ったといえる。そこで、これから具体的にどのような施策・活動を展開していくのかなどを、神出元一常務に聞いた。

◆担い手対策は食料生産・地域農業振興の軸となる重要課題

神出元一常務理事
神出元一常務理事

 ――担い手対応強化を「新生プラン」の第一の使命として掲げていますが、その意味をどのようにお考えになっておられますか。

 神出 まず、日本の農業をみると耕地の利用率が4年連続して低下し、農家の減少と高齢化がさらに進んでいます。一方で規模拡大は進んできていますが、農産物価格が低下しているので所得を向上させることが困難になってきています。また、直近の農業センサスでは2割の農家で販売の8割を占めているというような状況があります。
 二点目として、原油価格や海外からの原料価格が高騰して、生産資材価格や食料品のコストアップを招くなど、農業現場だけではなく、国民の食料にも大きな影響が出てきています。原油価格の高騰やバイオエタノールなどによるトウモロコシ価格の高騰は、構造的に進むとみなければいけないと考えています。
 三点目として、中国を中心とした輸入食料や食品の安全性の問題がここにきてかなりクローズアップされてきています。
 こうしたことから、わが国の食料生産や地域農業振興などの課題は、担い手対策を軸としてますます重要な課題として、求められるレベルも高くなり加速化していると思います。したがって、担い手対策は系統経済事業そのもの、ひいては日本の農業・食料・農村の問題に関わってくる問題だと考えています。
 全農は経済事業連ですから、各事業の事業戦略との関わりをもって、この担い手対策に取組んでいかなければいけないし、抽象的、概念的な担い手対策ではだめだと考えています。事業戦略という意味ではとりわけ、土地利用型作物、施設園芸、果樹など耕種部門における全農としての事業戦略を明確にし、取り組む必要があります。
 例えば土地利用型でいえば、農機の効率利用を基本に、水稲に加えて大豆・麦の不耕起直播等の省力栽培や多収穫稲による飼料米の生産コスト低減等を推進目標にし、水田の高度利用をはかり、全体で自給率をあげていく。水田の有効利用をすることで、担い手や集落営農組織の生産活動を活発にしていくことができると思います。

◆出向く体制が不十分で真の課題が掴みきれていない

 ――18年度から「新生プラン」を前倒しで実行し、今年度から本格的に取組まれていますが、現在の状況はどうなっていますか。

 神出 体制面では、担い手対応部署を設置したのは全国で260JA(北海道を除き、導入率37%)ですが、本当に「出向く部署」になっているかというとまだ不十分だとみています。
 現在の担い手への支援は、生産資材の優遇措置とか青色申告の支援を実施しています。そして今後取組むものとしては、集落営農組織の法人化、農機のリース化などを計画しています。しかし、これまでの取組みの中で担い手からあがってきている意見・要望をみると、いま取組もうとしている水準ではまだ不十分です。

担い手個別事業対応上の課題

 ――どういう意見・要望があるのですか。

 神出 表のように組織運営面から販売面、そして情報そのものから資金対策など、かなり多岐にわたっています。

 ――全中が4月に実施したJAへの調査では、「体制不足」が多いですね(図)。

 神出 人的な体制がまだ不十分だということもありますが、「本質」は何かということです。まだ、出向く体制が未整備なため出向けていない。出向けていないから担い手が抱えている「真の課題」を掴みきれず、JAとしてどういうスタートをきるか、どういうフォーメーションをつくるか、どういう施策を念頭において動くのか、というコンセプトができていないことを象徴的に「体制不足」といっているのだと考えています。

支援システムと販売提案を柱に

◆担い手対策支援システムと出向く体制をセットで推進

 ――そうした現状にどう対応していくのですか。

 神出 特にいま力を入れているのは、JAの活動を多面的に構造的に深く分析できるツールである「担い手対策支援システム」の導入と「出向く体制」をセットで推進することです。出向けばその内容を必ずシステムに記録しますから、システムを導入することは出向く足場を築くことになりますので、システム導入とその活用方法の習得支援に全力をあげています。

 ――現在、いくつのJAが導入していますか。

 神出 県本部ではほぼ全県に導入され、JAは336JAで導入され、約11万件の担い手が登録されています。すでに担い手と一体的な形で進んでいるJAもありますが、全体的にみれば「足を運ぶ、足を動かす」という状況がやっと始まったという認識でいます。

 ――生産資材などの支援についてはどうですか。

 神出 肥料の満車直行とか農薬の大型規格などの全国共通施策は、価格など目に見える、実感できるものになっていますから、それなりに評価されています。
 サービス・インフラ対策は、地域特産品の販売支援とか、新規導入作物の研修やその作物に対応した農機の貸し出し、また、別の県では、県推奨品目の導入にあたってはある一定の出荷量になるまでつなぎの助成するなど、各県域の実情に応じて対策がなされています。

◆フラットでスピード感ある運営ができ、問題を発見し解決するシステム

 ――今後もっとも重要なことは何でしょうか。

 神出 二つあります。一つは、「担い手対策支援システム」の活用がJAで定着するよう徹底して支援し、結果的に全JAの出向く体制をつくっていくこと。つまり、「なるほどこのシステムはいいな」ということを分かってもらうための支援です。それができれば岡山のJA倉敷かさや(記事参照)のように、必然的に出向く体制ができます。
 このシステムを理解されたJAでは間違いなく出向く体制が進んでいます。担い手とのやり取りなどの情報をシステムへ入力してデータ化することにより、計画的・継続的訪問が可能になり、担い手との距離感がなくなります。当然、記録がデータベース化されるので、JAのトップがいつでも見ることができ、どういう方針や施策で対応すべきかという判断も迅速にできます。情報がJAと全農で共有化されていますから、JAでは対応できないことは、県本部としてすばやく対応することができます。

 ――岡山を取材して、このシステムは「問題を発見し、解決するシステム」だと実感しました。

 神出 その通りですね。
 私のモットーは、スピードとフットワークとフラット です。スピードは文字通り速さですが、フットワークとは、問題の本質は現場にあるので、現場に直行して本質を掴むことです。フラットとは、縦の階層に沿って問題を上げて行ったのでは時間がかかってしまうので、より迅速な判断を求めるためには、一同に会してものごとを決めていくことが必要です。そういうフラットな運営にこのシステムはピッタリ機能できるものです。

◆現業部署も自らの課題として受け止め連携することが

 ――県域によってあるいは県内でもまだ温度差があるのではと思いますが…。

 神出 県本部長等のトップの認識とリードです。確実に進んでいるところと苦労しているなというところがあります。例えばある県ではJAの担い手担当者が111名いますが、今のところ本気で取り組んでる方は3割。それが6割になればすごい力になる。この中からリーダーをつくり、ステイタスを揚げる研修体系を実施。この人たちの意識をレベルアップし、スキルを高めるため、県本部の担い手部署(10名の職員)はフル稼働しています。いくら全農が施策を提示してもこの人たちが動かなければ何も起きないわけです。
 大事なことは「情報伝達機能」です。それには、全農からJAの担い手担当者に、担い手とコミュニケーションできるための情報を徹底して伝達をする。それをベースにして担い手との話合いができる条件を整える。そうなれば信頼関係が生まれ、どういう有効な支援をすればいいかが見えてきます。

 ――県本部の専任担当者の役割は大きいわけですね。

 神出 全農の経営が厳しい状況のなかで165名を配置しているわけですから、そのことをよく理解してもらい、彼らが有効に動けるようにバックアップしていくつもりです。
 現業部署も担い手担当者に任せるのではなくて、担い手問題は経済事業活動そのものであり、これなくして事業部門もありえないということを認識して、担い手部門と連携し、自らの課題として受け止めるべきです。その点検・確認活動も行っていきます。

◆販売面での積極的な提案で所得を確保

 ――二つ目のポイントはなんですか。

 神出 二つ目は、担い手の実質手取りを確保するための販売面での支援です。
 実需者・取引先はもちろん国民の国産への期待が高まっていますから、そのことを担い手に訴えて、例えば業務加工用のトマトを、この品種と作型でこう作っていきましょう。取引先はどこどこと話が決まっているので、というような販売提案に力を入れていきます。担い手から要望が出てくるのを待つのではなくて、全農からから担い手に働きかけて提案していくことです。
 全農がもっている販売チャネルを活かして、担い手と実需者をつなげることで、事業が起きてモノが回りお金が流れて、担い手が「なるほど」と実感できるようにすることが大事だと考えています。

 ――販売提案については具体的な事例がありますか。

 神出 19年度は大豆のA級品反300kg取れる直播体系をある県域で担い手と取組んでいます。20年度は、米・麦・大豆、飼料米、業務加工用、生食用高品質など、様々な角度から品種・作付の提案ができるようにいま準備をしています。担い手に提案するためには、予め実需者との話合いも行い、どの立地のどういう産地に生産をしてもらえば、より手取りが増えるかを考えて、一定の産地を選びながら提案をしていくことも考えています。

◆販売子会社のノウハウも活用できるルールを作成

 ――販売面で積極的な提案をするのは、いままでにはなかったことですね。

 神出 これについては、販売ノウハウをもつ関係子会社も含めて、全農グループとして、販売提案が実現できる「装置」をつくることをいま検討しています。
 「装置」とは、現場の担い手担当者が、担い手を巡回する中でてきた販売への要望をすぐに本所にフィードバックしてもらう。それを受けて、このケースならどの販売会社を活用すればいいかを決めて、現場と一緒に具体的な行動に入るような「行動ルール」をつくることです。
 また、逆に実需者からのオファーをどの県域どの産地でつくってもらうかを県やJAに伝え、産地を選定してもらうこともできます。そのことで、担い手と全農が実感的に事業がつながり、産地も見えるし実需者もみえるようになりますから、事業の価値がいままでとはまったく変わります。

 ――それができるとすばらしいですね。

 神出 一挙にできるとは思っていません。一歩一歩小粒でも質の良いビジネスにしていきたいですね。

 ――いままでのお話で、JAが担い手対策支援システムを導入して、出向く体制をシッカリつくり、販売面も含めて互いにキチンと話合い、担い手とともに日本農業のために力を尽くしていこうと全農は考えていることが分かりましたが、そのことをJAのトップが理解をしないと現場では進みませんね。

 神出 そのことはJAと話をしなければいけないと思っています。岡山のルポにもあるように、分かって行動に移しているJAもたくさんあるわけですからね。

 ――お忙しいなかありがとうございました。

担い手からの要望

(2007.8.30)


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