農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために2007


1兆円規模の直接支払いで10年以内に自給率50%に

衆議院議員 篠原孝氏に聞く  民主党前「次の内閣」農水大臣
インタビュアー 東京農工大学名誉教授 梶井 功氏


◆農業全体の底上げ図る

衆議院議員 篠原孝氏
しのはら・たかし
1948年7月長野県生まれ。京都大学法学部卒業。農林省入省後、米国ワシントン大学海洋総合研究所などに留学。農水省の農林水産政策研究所長などを歴任。03年退官。衆議院議員、2期目。

 梶井 民主党は「戸別所得補償」制度を参院選公約の目玉としましたが、農政を焦点にした選挙は随分久し振りでした。
 篠原 年金、子育てまではよいとしても3番目に農業がくるのはなぜだという疑問があったはずですが、高齢者、子ども、中山間地域を中心とした農家は共通して弱者というか、困っている人たちです。そこに焦点を当てた「生活が第一」の政治を実現すると訴えました。
 民主大勝の要因を自民党の敵失とする新聞論調は浅薄です。一部に「地方の反乱」とする新聞もありました。そちらのほうが図星です。地域間格差への怒りは大きく、基幹産業である農業を何とかしなければという切迫感が「反乱」となったのです。
 梶井 今の農政、とくに構造改革農政の1番の問題点はどこだと考えますか。
 篠原 大規模で立派な専業農家をつくるための構造改革は当然必要ですが、だからといって小規模農家や兼業農家をないがしろにし、直接支払いの対象にしないなんて愚の骨頂ですよ。今は小さくても、やがて大きくなろうとしている若い人たちの努力の芽をなぜ摘んでしまうのですか。
 定年後に専業になろうと会社勤めをしながら農業技術を学んでいる人もいます。現実をよく見て、いろんな人たちが農業をやれるチャンスをつくるべきです。今の農政は効率化と大規模・専業を重視し過ぎます。
 梶井 農業全体の底上げ政策を進め、自由に競争のできる条件をつくり、その中で伸びる人を伸ばす観点が必要です。
 篠原 安倍晋三前総理は日本経済の底上げをいいつつ、農業ではそれをやらず、超エリートだけを支援しようとしました。
 梶井 農業動態統計で見るとセンサスごとの5年間のスパンで、5ha以上の農家でも20%が病気とか不慮の事故などで落っこちています。しかし、それに倍する数が下から上がってきて5ha以上の農家が増えてるということになっています。そういう動態を頭に入れて構造政策を進めるべきです。
 そこで民主党の農業政策の重点を解説して下さい。

◆結果良ければ規模拡大

 篠原 04年に「農林漁業再生プラン」というのを打ち出しました。目玉は農水予算の3分の1に当たる1兆円の直接支払いによる食料自給率の向上で、政権をとったら10年以内に自給率を50%に高めるというものです。
 ほかに地産地消の推進とか農地制度や食品流通の問題とかもありますが、項目は多くありません。農協関係では理事の4分の1は女性にすることを目標にするなどがあります。
 現在の民主党の農政もその時の政策とほぼ同じです。政策は毎年変わるようなものあるべきではない。とくに農業政策はそうだと私は主張しています。直接支払い制度の導入についても今度の参院選前に突然出したわけではなく、ずっと前から、遊説などで訴え続けてきました。
 梶井 その直接支払い、法案の仮称でいけば戸別所得補償法案のお話をお願いします。
 篠原 仏独英など欧州諸国は農家所得の5〜7割が直接支払いです。日本でもそういう制度を導入せざるを得ないというわけです。日本は大胆に価格支持を無くしたけれど、その後の手当てがなされていません。
 直接支払いの単価は品目ごとに内外コスト差を補てんし、米並みの収入をあげるように設定します。支払い予算は当面、1兆円ですが、積み上げた数字ではありません。
 目的の1つは地域の活性化であり、小沢一郎党首は「消防団の組めるような地域社会づくり」を唱え、それが社会安定の礎になると説いています。これは大平正芳元首相の田園都市構想や竹下登元首相のふるさと創生に通じる考え方です。
 梶井 「消防団が組める」とは地域を守るイメージを具体化した良い表現ですね。
 篠原 防災体制の整備にも役立つ制度だから直接支払いの財源は農水予算の枠外に求めても良く、小沢党首は農林水産省予算全体の3兆円といった数字も口にしています。
 梶井 対象品目は米、麦、大豆、雑穀、菜種、飼料作物に限定して計画生産するのですね。

◆米の生産調整はやめる

 篠原 そうです。自給率向上に資する土地利用型作物を選びました。例えば昔は菜の花畑が広がっていたのに今は菜種なんか自給率ゼロに近い。一方で遊休農地は39万haもある。何としても政府が自給率向上の生産をバックアップすべきです。
 また地域振興作物として不可欠な作物については都道府県と国が協議して対象にしてもよいという条項もあります。
 制度運用がうまくいけば野菜や果樹、畜産物などにも順次導入していきます。
 梶井 民主党の法案で1番問題なのは米の生産調整をやめるということです。作付けが増え米価が暴落する危険性があるという人がいますが……。
 篠原 米並みか米以上の所得を補償すれば他の作物に転換すると予測しています。良い例が01年からの食料・農業・農林計画に基づく麦・大豆への生産です。国の助成金で米以上の収入が得られたため10年計画面積でも収量でも2年目で達成してしまいました。あわてた農水省が助成を打ち切る結果に終わりました。改革の失敗の典型です。そのまま続けていれば自給率45%になっていたにちがいありません。
 直接支払いは、それよりもぐんと便利です。例えば1年目に菜種が増えないとすれば、2年目に支払いを増やせばよいのです。反対に過剰となれば下げるという操作ができます。
 梶井 もう1つの批判は、1兆円の予算ですむのか、財源はどこにあるのかということです。国家予算総枠の中で考えるという説明が先ほどありましたが…。
 篠原 国土の均衡ある発展という観点、農林予算でなく社会政策予算とみれば、もっと増やしていいはずです。それから、ふるさと納税論がいわれていますが、そんな面倒なことはしなくてよいのです。直接支払いは欧米社会ではWTOで認められた地方への所得移転の確立した手法なのです。
 地方の駅前はほとんどがシャッター商店街です。これを元気にするのは地域農業の活性化を含む、地方全体の活性化だとみんなわかってきています。
 梶井 もう1つ気になる問題として、この直接支払いはWTOで認められないだろうという議論があることです。

梶井氏×篠原氏

◆輸入国の立場押し出す

 篠原 私は緑の政策として通報すれば十分だと思います。日本は輸入国で農産物を全くといってよいほど輸出しておらず、禁止されるいわれはないからです。
 米国の農産物は3分の1が輸出されますから国内補助金の3分の1は輸出補助金と同じ効果があります。巨大食料輸入国、日本の直接支払いは、そんな補助金とは全く無縁です。日本は国際社会でそうした主張をどんどんやるべきです。今まではやってこなかったのです。「食料安全保障」とか「農業の多面的機能の評価」などのお題目を唱えてきただけでそれを具体化した政策や国際的主張が全くないのです。
 直接支払いによる自給率向上は食料安保を具体化した政策です。これも主張すれば良い。景観とか国土の均衡ある発展などは市場が評価しない、だから国が評価して直接支払いをする、これはまさしく多面的機能の評価です。緑の政策であると主張すべきです。
 生産にリンクするとの反論に対しては、自給率が50%以上になるまで生産を増やすのは食料安保だ、文句をいわれる筋合いはないと退ければよいのです。
 仮に認められないとしても農業保護(AMS)の削減に関する約束水準のうちにおさまっており、黄(削減対象)の政策としても何ら問題はないのです。
 梶井 バイオ燃料原料と食料の相克で食糧危機が一層心配される中で、自給率を高める政策のどこが悪いということで国際的な承認がもらえるというわけですね。
 篠原 自給率39%なんて、日本政府はいったい何をやってたんだと馬鹿にされそうですが、とにかく輸入国の立場をもっと強く主張すべきです。
 梶井 WTOの取り決めの中には輸入国の立場が全く入っていません。輸出国の論理に立っているという学者もいます。それを問題にすべき、ということです。
 篠原 例えば日本の菜種の作付けは32万haもありました。そこに戻るまでは直接支払いに文句をつけるなといった強い姿勢が必要だと思います。

◆遊休農地に厳しい対応

 梶井 10年ほど前に経団連は株式会社の農業参入を3段階区分で認めよといいました。第1ステップが農業生産法人への出資の自由、第2が農地利用の自由、第3が農地所有の自由です。最近は農水省の有識者会議が、利用は原則自由にするという報告を出しています。
 地区指定などの条件をなくして利用を自由にすると所有の自由に直結してくると思います。農地制度の改善についてはいかがですか。
 篠原 民主党は遊休農地などについて、地域の農家や農業生産法人などの引き受け手が見つけ難い場合には、農業生産に意欲のある株式会社、NPO法人などに耕作の継続を条件として利用権の設定を認めるという政策です。
 欧州なんか農業をやらなくなったら、すぐ利用権、耕作権がほかに移っています。だから遊休農地などは見られません。日本でも荒地にすれば、すぐに厳しい対応ができるようにする必要があります。
 梶井 条件づきなんですね。ところで、青年農業者への助成政策がゼロに近い現状ですが、共産党の政策には新規青年就業者への助成があり、感心しました。どう思われますか。
 篠原 私も気になりました。しかし担い手を特定するよりも全体の底上げのほうが優先すると考えました。花・果樹・野菜・中小家畜に担い手がいるのは所得が高いからです。だから、もうかるようにすれば担い手は自ずから育つと思います。

対談を終えて
  参院選挙前の日本農業新聞の農政アンケートでは、自民党支持50%、民主党支持17%だった。が、自民党の品目横断経営安定政策支持は23%、民主党の戸別所得補償政策支持は54%だった。そして農村票が物を言う一人区で民主党は圧勝した。農業政策で民主党は勝ったのである。それだけに、戸別所得補償法案の成立には並々ならぬ覚悟で国会審議に臨むその意欲を、議員から十分に感じとれた。頑張ってほしいものである。
 ところで、輸入国の立場をWTO交渉で貫くべき、という議員の主張は重要である。“自給率向上は食料安全保障を具体化した政策です。…景観とか国土の均衡ある発展などは市場が評価しない、だから国が評価して直接払いをする、それは緑の政策である”という主張、これは是非とも通してほしい主張である。今まではまさに“お題目を唱えてきただけ”で、輸入国の立場をルール化する交渉はやられていない。是非ともこれを国会の主張にしてほしい。(梶井)

(2007.10.17)

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