農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために2007


JAの現場から「JAのビジョン」づくりに向けた戦略を考える

「JAのビジョン」づくり―全国20JAの挑戦 その2

JA大潟村・JAえちご上越・JAちばみどり・JA富里市・JA横浜


農家経済改善に向け新部署を設置
JA大潟村(秋田県)

宮崎定芳組合長
宮崎定芳組合長

 大潟村の農業生産額は平成18年度で110億円。農家の平均作付け面積は15haと大規模でほとんどの農家で後継者がいるという。ただ米単作地帯のため農家所得は米価と単収により大きく変動する。近年の米価下落の影響で農家所得の大幅な減少が課題となっている。
 JAは昭和45年に創立されたが、それ以前に入植者の米の処理に備えてカントリーエレベーターの運営が開始され現在までJAとは別の会社で運営されているため米の集荷、乾燥・調製、販売などの事業は行っていない。JAは生産資材販売、信用、共済事業で生産者をバックアップする事業が中心である。
 こうした事業の特徴を表すのがJAの貯貸率の高さで、全国平均の2倍の60%である。
 生産資材購買事業では、もともと農家が大規模のためそれぞれ使用量は多く取り扱い高に大きな変動はない。ただし、米価の下落で農家経営が厳しいため供給価格の引き下げが求められ、系統利用だけでなく入札も導入してコストダウンを図ってきた。
 一方、米の生産では農家は減農薬減化学肥料や有機栽培など取り組んでいる。いわゆる減減栽培は8割の農家が実践しているという。また、JAとしては大潟村独自の米の新品種開発なども検討したいという。
 メロン、かぼちゃ、畜産生産も行われこれらはJAの販売事業となっている。
 課題は厳しい農家経済の立て直しでJAは今年度、経営支援課を新設した。(正)1023人(准)27人(販)2億1800万円(購)40億1200万円(貯)171億200万円(貸)103億100万円(共)736億1000万円(18年度)

JA出資法人で集落を支援 「上越米」のブランド力高める
JAえちご上越(新潟県)

金澤幸彦常務
金澤幸彦常務

 01年に7JAの合併で誕生した組合員数4万7000人の大規模JA。米単作地帯のJAとして担い手育成に力を入れている。行政とともに05年に担い手育成総合支援協議会をたちあげ、JA職員も加わった推進チームが集落営農の法人化に取り組む。70法人が目標。
 一方でJAは品目横断的政策の対象になりにくい農家を念頭にJA出資法人・アグリパートナーを立ち上げ、農家がグループを作って法人の作業班として農作業に従事する方式で政策対象となるよう支援している。「集落が農業・農村を守る扇の要だ」と金澤幸彦常務は話す。
 また、独自に15項目の担い手支援策を打ち出した。大豆転作に必要な機械のリースや施設利用料の10%割引、大口利用奨励の割引幅拡大などである。
 支店統合にともない「出向く体制」づくりも進め、支店に経済畑の「営農経済営業」35名を置いたほか、そのほかに全体で5名の「専属営業」を養成、大規模農家・法人を月1回は回る体制もめざす。
 管内の米は約110万俵、そのうち70〜75万俵をJAが集荷する。「上越米」のブランドを高めるため肥料農薬の3割減減栽培に取り組み作付け面積で9割まで普及した。
 ただ、販売額の9割を米が占めることからリスク分散を図るために園芸などとの複合化も追求。枝豆、やわはだネギ、オータムポエム、いちじくなど1品目1億円が目標。(正)2万3214人(准)1万8482人(販)157億1763万円(購)150億6304万円(貯)2673億4889万円(貸)608億9466万円(共)1兆5410億3849万円(18年度)

大園芸産地としての発展はマーケティングの重視で
JAちばみどり(千葉県)

鈴木節夫組合長
鈴木節夫組合長

 管内は園芸作物(キャベツ、ダイコン、キュウリ、トマト、メロンなど)の生産が盛んで園芸農家1戸当たりの平均栽培規模が1・5〜2haにのぼる。品目は60もありJAの園芸作物の年出荷金額は240億円を誇る。
 JAは今後も園芸作物産地として発展していくためマーケティングを第一に考え、ブランドの管内統一化も視野に入れる。そのためにも営農指導事業が重要になるとの考えだ。また、経済事業では組合員の要望への迅速な対応とサービス強化も課題としてきた。
 ただし、経済合理性だけがJAにとって唯一の目的ではないと鈴木節夫組合長は強調する。JAが年月をかけて築いてきたものは、経済合理性を超えた魅力であり、その魅力を発揮するにはJA職員は組合員との親密な関係を構築する必要があるという。
 栽培技術の向上のためにJAは表彰制度を採用している。たとえば良質のメロンを栽培した組合員を讃える制度だが、その技術を公表し他の組合員への普及を図ることも狙い。
 統一ブランド化は、生産技術の向上と選果の厳格化を進め、品質がほぼ同等まで向上したと認められた段階で定評ある既存ブランドの使用を他地域にも認める方法で進めるという。生産者の高い意識が求められる取り組みだ。また、最近では安定供給のニーズに応え生産者の所得安定にもつながる契約取引(直販事業)にも力を入れている。
(正)1万4354人(准)1万767人(18年12月末)(販)287億5300万円(購)94億9400万円(貯)1374億2700万円(貸)273億4200万円(共)8575億円(18年度)

多様な販売ルートの開拓で生産者の力を引き出す
JA富里市(千葉県)

仲野隆三常務
仲野隆三常務

 多様な販売形態を実現したJAとして有名だ。伝統的な生産部会をベースにした大型共販・市場出荷のほか、産直センターの設置、中食・外食企業との契約取引、スーパーでのインショップ販売、パッケージ・センターによる小分け処理などを実現した。
 販売組織は営農部に営農販売課、生活部に産直事業課がある。産直事業課は産直業務、業務需要、食材配達を行う。
 産直業務は95年に始まった産直センター旬菜館1号と07年に増設した旬菜館2号で運営。食材配達は、市場法改正で地方市場が衰退したため食材調達が困難になった学校や病院の給食用食材の配達で、業務需要も同じ理由から食材調達が難しくなった地元の飲食店などへの販売である。「『地方の食』や『弱者の食を誰が担うのか』」、それは「地元のJAの仕事」だという。
 農産物販売高の6割は受託販売品で卸売市場流通が中心だが4割は買取販売になっていることが注目される。買取販売に当たっては、加工メーカーやインショップ各店舗など事前に品質、引取価格を交渉、それを前提に買取価格を農家に提示。その価格と品質をそろえるための技術指導を受け入れる生産者を組織して出荷している。また「中食・外食がいずれ家庭調理の場を奪う時代が来る」と考え同JAは加工も重視。PCセンター設立や市や商工会と一緒に「ふるさと産品育成協議会」を立ち上げている。
(正)1838人(准)1004人(販)65億9500万円(購)17億5700万円(貯)180億3700万円(貸)59億3000万円(共)1093億2000万(18年度)

「市民とともに育てる農業」で地域自給に貢献
JA横浜(神奈川県)

志村善一組合長
志村善一組合長

 市内人口350万人の大都市のなかで、野菜・果樹・花卉・植木・畜産と多種多様な都市農業を展開している。管内農地面積は3419haで県内最大。認定農業者も120名いる。
 JAの理念は「人と自然を大切にし、社会の発展と豊かな暮らしの実現に貢献します」。基本姿勢として「みなさまから信頼されるJA、地域から必要とされるJA、社会に誇れるJAをめざします。」を掲げている。
 平成17年『地域農業振興計画―地産を興し地消を拓くー』を策定し、テーマを「Foodで風土」と定めた。「市民と共有する農業」、「市民と分かち合う農業」、「市民とともに育てる農業」をめざし地域自給に基づいた農業を創造することを掲げた。
 全国からも注目されている「一括販売」は「JA横浜の生産農家なら誰でも、何でも、いつでも、少ない量でも」出荷できる制度である。この制度は、みなみ地区(旧JA横浜南管内)から管内全体に拡大。野菜が主体で、ウメ、クリ、カキなど果実等の出荷品目もある。「市場出荷」だけでなく横浜市内の量販店に「直接販売」する。販売先の店舗は50店舗あり、学校給食への地場野菜供給などにも取り組んでいる。
 地域振興対策として積極的にメッセージを発信し、「横浜の顔」として農業をアピールするなどの取り組みにも積極的だ。
(正)9923人(准)3万3083人(販)27億300万円(購)49億6500万円(貯)1兆1847億6100万円(貸)4809億600万円(共)3兆2763億3500万円(18年度)
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(2007.10.22)

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