農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために2007


JAの現場から「JAのビジョン」づくりに向けた戦略を考える

座談会 その3

今、JAに求められるのは「協同の行為」の組織化


◆激化する資材価格競争のなかで

座談会2

 ――さて、次に生産資材の問題について話し合っていただきたいと思います。この問題ではとくに価格設定や物流改革、担い手支援でさまざまな取り組みがなされているようです。議論していただきたいのは、こうした生産資材購買事業の改革によって農家の組織化などどういう波及効果が出ているのかという点と、全体としてJAの職員数を減らすなかで組合員との距離をどう埋めようとしているのかといった点です。

 梶井 資材価格設定ではJA新ふくしまではホームセンターと横並びで決めるように努力しているんですね。したがって手数率は一律ではないわけです。とくに農薬などでは従来よりも7〜8%引き下げています。しかし逆に売り上げは10%伸びたという。ただし、こうした価格引き下げについてはJA段階での実践には限界があって、資材価格について組合員の理解を得るためには全農も仕入れ価格をもっとオープンにしてきちんと説明できるようにしてもらいたいという声が聞かれましたね。
 田代 JAえちご上越でもホームセンター並みの価格にするという対応をしていて、その対策として出資配当を減らして利用高割り戻しのほうを厚くし、そこを価格引き下げに帰着させようとしていることがひとつです。それから生産資材はJAに取りにきてもらうという引き渡し価格にして価格引き下げにしています。そして配達するときには配達料をもらうということです。
 これがJAはが野の場合は逆で、園芸農家は忙しいから生産資材は配送することが基本ですが、物流は県域物流で全農に委託するという方式です。また、JA三次では今までの予約早期引き取りの奨励金を価格引き下げにあててみたけれども、ホームセンターとの競争には到底勝てないということから、奨励金を仕入れ価格の引き下げに回してもらいたいということをはっきり言っていました。つまり、今までの奨励金などの活用の仕方をやめてガラス張りにしてほしいということと、もうひとつは配送は全農の配送センターにお願いしてしまうということです。
 JAえちご上越では農家の引き取りにしていますが配送する場合は全農委託ということですから、私が訪ねたJAではすべてが配送は全農が機能を担っているということになります。そういう点で言うと全農への配送委託というのは成功しているのではないかという感じを受けますね。

◆価格引き下げに多様な工夫

 北出 JAあいち知多では配送の拠点として経済連の物流センターを利用して生産資材価格の引き下げに努力しています。年度始めに予約を取るわけですが、ただし月に2回、農家が取りに来る日を設定している。そしてそこで引き取った場合は値引きをし、また、全量引き取りをした場合は代金決済を6か月間延期するという形で努力をしているということです。もちろん農家に届けた場合は当初の価格だということですから、引き取りをすれば価格引き下げになるわけです。
 JA東西しらかわの場合は、一部で入札制を導入したということですが、飼料価格などは安くなったといいます。その点は農家に喜ばれて農協のシェアも広がっているということですね。
 田代 ホームセンターが地域に進出し、買った場所でのその瞬間の高い安いが問題になってくると、これまで全農がやってきたようにまず当初の値段で売って、後から奨励金をバックペイします、ということではJAにとって戦いにならないという状況ではないかと思いますね。やはり最初から還元していかなければならないというのが現場の認識ではないでしょうか。
  生産資材の問題では、JAは全農を一取引業者としてしかみていないということで一致しているのではないかというのが私の印象です。農薬にしても肥料にしても。これは今回訪問したJAに限ってのことですが。
 福岡の場合も入札制が進んでいますし、配送については協同組合間協同でできないかという話も聞かれました。隣接するJA管内との境目の地域というのは協同組合間協同でできないかということも模索しています。
 田代 たしかに全農以外からの仕入れをしているJAも多いわけですが、ただ、やはり肥料や農薬ということになると全体としての指導体制、安全確保体制というものがあるのでそう簡単に全農離れということにはならないでのはないかと思いました。
 村田 JAえひめ南の場合は、生産資材価格の問題よりも、広域合併JAとして物流センターを軸とした店舗と要員の配置を課題としていますね。とくに柑橘では栽培管理が徹底していますから、価格というよりも一定の決まった農薬をどうきちんと供給するかということが問題になるわけです。そのなかでも要員をどう配置するか、そこをどれだけ合理化できるかということがJAとしての課題になっている。

◆組合員との距離をいかに縮めるか

 ――支店統廃合で組合員と遠くなった距離を埋めるということでは、先ほど紹介のあった営農経済渉外員も進めていますがどう評価されますか。

 田代 営農経済渉外員を設置していないJAもあります。そこにはしっかりとしたポリシーがあって、たとえばJA三次では営農経済渉外員は年間1億円程度を達成できなければ効率が上がらないということからこの制度はやめましたということでした。大型農家対策として出向く体制をとっていることは分かりますが、具体的なタスクを課して仕事をしてもらうということまではできていないと思いますね。
 それから支店を統合したり金融支店に特化したかわりに、営農経済渉外員を導入したというわけですが、それで本当に代替できるのかということを考えると、支店はやはりワンストップショッピングという総合的な機能を持っていたわけですね。しかし、出向く営農ということではその単体の機能を発揮するだけではないかということも課題だと思います。
 また、出向く体制をつくったのはいいが本当に出向く仕事に専念できるのかということも問題だと思います。ですから営農経済渉外員を置いたらそれに徹してその人が本当に動けるような体制にしてはどうかと思いますし、それをやってみてもトータルとして支店が持っていた機能を専門的に出向く人たちが代替できるのか、そこは難しいしまだ結論が出ていないという印象です。言い換えると支店の統廃合についてはまだ十分に手を打ち切れていないと思います。
 梶井 営農経済渉外員には決定権があるんですか。
 田代 決定権というのは、たとえば値引きをいくらにしますというようなことですか? それは私の知る限りではやっていないと思います。JAとして割引率などは決めて公表しているわけですから。
 梶井 これは販売の事例ですがJA相馬村は取引先との間での販売単価の決定は職員に任せているんですね。販売条件についてはいちいち、JAの幹部と相談します、というのではなくて。
  JA相馬村のようにリンゴだとはいえ90%以上の集荷率があるJAというのはやはり強いと思います。今、農業粗生産額からいえばJAに集まっているのは約半分ですよ。野菜にしても米にしても、地域の生産量がつかみ切れていない。どれだけ集荷量を背景にし決定権を持っているかどうかは結構重要なポイントだと思いますね。

地域の中核的な存在として地域経済振興も視野に

◆地域経済を振興させるJAの役割

座談会3

 ――JAの地域貢献ということでは先ほどから学校や病院のニーズへの対応や、そのほかJAいずもでは生活事業を中心にした地域での事業展開もあります。この問題は地域での事業の拡大なのか貢献なのか、いろいろな議論はあるかもしれませんが広い意味では貢献なんだろうと思います。

 田代 JAいずもについて紹介しますと、出雲市の成人の半数がJAの組合員だということで准組合員が8割を占めています。組合員が増えたきっかけはAコープ店の「ラピタ」で115億円の売り上げがある。しかもここは1965年に300坪の出店から始めたということですからコープこうべ並みの取り組みだったわけです。それを今でもJA直営で運営していて生産者の直売コーナーも設けている。
 さらに最近ではコンビニ経営も始め、コンビニには高校生がやってくるわけですからJAが若者にアピールしている。それと総合ポイント制度を導入したことから半年で1万2000人も准組合員が増えたということです。
 地域貢献ということでいえば、貯貸率が40%を超えていることも注目されます。きめ細かく農家の教育、住宅、マイカーなどに融資のほか地場企業への融資もあるのではないかと思われます。
 村田 まさに地域協同組合ということだと思います。そういう点では地域循環型社会づくりをと言われる最近の問題にも大きく関係するJAの事業だといえると思いますね。
 梶井 総合ポイント制でいえば、JA新ふくしまの構想も紹介しておきたいと思います。直売所の利用にポイントを付与するわけですが、そのうちの1%をJAに還元してもらってそれを環境保全活動に使うことを考えている。JAの直売所の利用は他の店と違い、ここで農産物を購入することは地域環境の保全にも役立っているんだ、というように消費者も環境保全に参加しているという意識を持たせるということだろうと思います。

◆地域循環型経済づくりも課題

 北出 地域との関係では、たとえば商工会議所との連携も大事だと思いますね。
 昨年の特集号(06年9月10日号)でレポートしたJA鈴鹿では商工会議所との連携で鈴鹿サーキットで販売するペットボトル入りの鈴鹿茶を販売した。原料調達と加工はJAと県本部です。どの地域でも今は酒屋さんでも豆腐屋さんでも困っていると思いますが、原料を持っているJAと提携すればこうした話も実現するかもしれない。
 また、地域貢献ということでいえばJA祭りの位置づけをしかりさせているJAの取り組みも注目していいと思います。ひとつの参考例がJAみっかびの例でそこでは農産物を扱うというJAの役割をしっかり位置づけています。
  もうひとつ実際の取り組みとして強調しておきたいのは協同組合間協同が地域貢献になっているということです。なかでも漁協との関係が進んでいてこれは直売所が発展するひとつの理由です。JAの地域貢献、たとえば学校給食への食材の提供など具体化した事業も含めてJAが取り組むことは当たり前という感じがします。

 ――地域貢献というよりも地域振興にJAがどう役割を果たすかという問題のようですね。農業はそもそも地域から離れてあるものではないわけですから地域経済の地盤沈下のなかでお互い協力すればもっと相乗効果が出るのではないかということだと思います。

組合員の力を掘り起こしたビジョンづくりを

◆「准組合員」の位置づけをどう考えるか

座談会4

 ――さて、組合員の拡大も課題となっており現状は世代交代のなかで減少傾向にありますが、営農や生活事業を通じて組合員拡大に成果を上げているJAもありますね。

 田代 JA三次の事例ですが、この地域は中山間地域で高齢化もしているので合併してから04年までに1800人も組合員が減ったといいます。そこに危機感を持って組合員拡大運動を始めました。職員一人あたり10名を目標にして、初年度は1700名、06年度1100名、07年度は1900名と拡大しているんですね。そのうち正組合員が61%でその71%が女性ですから、明らかに複数組合員化をめざしているということだと思います。一方、准組合員のほうは若手が多く29歳以下の層が増え将来が楽しみだということでした。
 その背景には先ほど触れた広島市内に開設したインショップでの販売であり、あるいは支店を中心とした活動を重視したことがあると思います。
 梶井 直売所活動が盛んでとくに女性ががんばっていますよね。それはみなさん自前の通帳を持っていて励みにもなっているからです。ただ、それをやるのであれば女性の正組合員化をもっと進めるべきではないかと思います。その場合、フランスのように議決権としては夫婦で一票というような出資と議決権で工夫する余地もあるわけです。
  福岡県では女性の正組合員数は全体の2割が目標です。その次は女性総代と理事の選出が目標でとくに理事については各JA複数というのが基本になっています。複数でないとなかなか理事会で発言できないということがあるからです。福岡県では全体で48人の女性理事がいる状況ですから、女性の正組合員化というのは当たり前のことになっているんですね。
 田代 一方で女性理事がいないJAもあり、これには地域差もある。将来的には経営管理委員会制度の導入に合わせて女性を、という考え方もあるようです。JA新ふくしまも経営管理委員会に移行して女性理事が生まれたということですね。
 梶井 女性の経営管理委員は4名。青年部代表が2名だということです。
 田代 JA段階での経営管理委員会制度の導入については私は不要ではないかと思っていますが、経営管理委員会制度にすれば女性の意思が反映されるということがあると思いますね。それを従来の理事会方式で何とかできないか。
 村田 福岡県のJAにじでは女性部活動のスローガンとして星の数ほどグループ活動を、を掲げています。直売所の野菜グループや、加工品グループなどいくつもの元気な活動が生まれてくることによって、そのなかから女性の総代も理事も生まれてくるという実績をあげています。
 一方、今の段階で議論しているのは准組合員の意思反映をどうするかということです。
 梶井 さらにいえば准組合員という制度それ自体を議論すべき時期にきているのではないか。
 田代 准組合員がもうすぐ50%を超えるというJAもあるわけですからね。そのときJAとして意思反映も含めてどうするかという問題に直面するということを提起しておきたいと思います。

◆前進するJAの鍵は組合員の参加意識

 ――最後に、JAの取り組みを前進させる鍵はここだという問題提起をそれぞれお願いしたいと思います。

 北出 話題にならなかったことでいえば、協同組合教育ということが大事ではないかと思います。経営が厳しく株式会社との競争もあるなか、協同組合の独自性とは何なのかということについてとくに役職員は改めて認識する必要があると思います。
 それから地域社会が崩壊するなかJAの果たす役割というのは非常に大事になってきていると思う。自分たちの組織に自信を持ち協同組合に意義を求め情熱を持って取り組みを進めていただきたいと思いますね。
 田代 議論しなかったことで重要なことでは拠点型事業の子会社化、広域会社化をどう考えるかという問題がある。また、全体を通じていえば地域ニーズをどう掘り起こすかが重要で、今回取り上げたJAはそこに努力をしていると思いました。
 村田 地域をどう元気にさせていくか、というJAえひめ南の林組合長の言葉にJAの役割が象徴されていると思います。そこに役職員のモラルを高めながらがんばれるかどうかが焦点ではないかと思います。
 白石 JA横浜は高齢者福祉事業にも積極的に取り組んでいますが、これは旧JA横浜北が開発した仕組みでそれを全域に広げた。ですから、JA合併というのはこのようにそれぞれが持っていた、いい仕組みを全体に広げるメリットがあるのではないか。それが組合員の期待に応え地域貢献できるいうことにもなると思います。
 藤島 JAの果たしている役割をもっとPRすればいいと思いますね。それは農家、組合員に対する説明という意味でも重要です。こういう販売をするからこれだけの手数料が必要になります、というようなことをきちんと組合員に訴えられるようになることが大事だと思います。
  農業が衰退すると商工業など地域の事業に38%もの影響が出ると言われています。JAは地域の事業の中核的な組織です。それを活性化させるには、担い手や営農類型でニーズが違いますから、大変なことですがやはり細かくニーズを実現していく努力の積み重ね、これがいちばん大事ではないかと今回は思いましたね。
 梶井 今日の議論をひとことでまとめれば、いかに協同行為を組織するか、これがJAの原点でありそこを常に役職員が意識することが大事だということではないか。同時に組合員自体にも、営農そして生活を守っていくには協同に参加することが大事だ、参加していけばそれが実現できるんだという確信をどれだけ植え付けることができるか、そこが重要だと思います。

 ――長時間、ありがとうございました。

(2007.10.24)

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