農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 「食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために2008」


どうするのか日本の農業―日本農業の基本戦略を考える

予算の枠組み変えて所得補償の財源捻出

政府備蓄米は300万トンに増やし棚上げ備蓄への転換へ

衆議院議員 筒井信隆氏に聞く  民主党
聞き手:梶井 功 東京農工大名誉教授


筒井信隆氏
筒井信隆氏

◆自給率10%引き上げへ

 梶井 国際的な穀物の需給ひっ迫と高値は長期に続くといわれます。そんな中で日本の食料自給率は39%に落ち込みました。しかし農水予算の概算要求には危機感が見られません。民主党としてはどうですか。
 筒井 民主党が出した農家に対する戸別所得補償法案の目的の1つは自給率の10%引き上げです。水田転作の小麦、大豆、菜種などには10a当たり5万〜6万円と、今の転作メリットよりも大きい所得補償を考えています。これだけでも自給率は約8%上がるという計算です。
 梶井 法案の第3条に「国、都道府県・市町村は…生産数量の目標を設定する」とあります。これは国が責任を持って国の政策としてコメ生産の数量目標を設定するということですね。
 筒井 そうです。今の生産調整を見たって、行政が直接関与しなければ、ちょっと無理だろうと判断したわけです。コメは意識的に目標以上を作ったら所得補償の対象から外します。
 梶井 今の食糧法第5条には、生産者が生産調整の方針を作るとありますが、生産調整は農業団体が価格維持のために行う生産カルテルであり、国はそれを支援するだけだという考え方は間違っています。
 もともとは鈴木善幸元首相が食料安全保障という国の政策として行うのだと明言して生産調整が始まったのです。食糧法第5条と所得補償法案第3条の違いは大きなポイントです。ところが参議院の審議では、この点の議論がなかったですね。
 筒井 自民党も本音では第3条には賛成だったようです。
 梶井 そうですか。だったら食糧法改正案を自民党は出すべきですね。これから始まる衆議院での審議を前にして、特に強調する点はどういう点ですか。

◆コメも補償の対象に

 筒井 政府与党は農政を産業政策、経済政策としてしか考えていません。私たちは農政を地域振興政策として社会政策と統一された第一次産業政策であるべきだと考えています。
 もう1つは政府与党は大規模・効率化路線一本ヤリですが、民主党は農山漁村の「6次産業化」路線を考えています。自民党とは根本的に理念が違います。
 具体的には有機農業で付加価値を高めたり、あるいは直播でコストを下げたり、また加工や直売所や産直などを展開する努力に対しては規模にかかわらず支援します。政府与党のように担い手を限定しません。
 それから農家の労働報酬は補償すべきだと考えてコメも補償の対象にしています。政府は高関税で保護されているからとコメを対象外とし“ゲタ”のほうにはコメを入れていません。
 生産費が市場価格よりも高い場合、農業の継続が不可能だから、その差額が出ているところは支援すべきだと考えます。
 梶井 第1次産業に対する政策は単なる産業政策ではいけない、だから小規模であっても、がんばっている人は援助するという考え方は大事です。
 筒井 農村集落は大規模農家だけでは維持できません。
 梶井 大規模経営の育成と、地域住民による環境保全は車の両輪だといいながら政策の主軸を大規模・効率化に置く政府のやり方は矛盾しています。地域全体で水利などの生産条件を保全しているからこそ大規模経営も成り立っているのです。
 筒井 自民党の農政見直し案は民主党に近寄っていますが、「小規模への配慮」とか米価低落対策や生産調整の強化など対症療法的なものではダメですよ。理念・原則から見直さないと一致できません。
 梶井 200とか300ha規模の米国の農業は経営でも国際価格では苦しくて2重3重の保護を受けています。日本で4haとか20haに拡大しても国際競争力がつくはずはありません。
 筒井 そりゃつきませんよ。

◆全予算からムダを省く

 梶井 例えば秋田の八郎潟は平均15ha規模ですが、政府のいうことを順守してきた農家ほど苦しんでいます。所得政策なき農政はダメです。その点で民主党は所得政策を真正面に据えたわけですが、コメの所得補償を労賃の8割としたのは少し値切ったような感じですね。
 筒井 1兆円という枠があるからです。
 梶井 そこで財源の裏づけですが「大企業減税や金持ち減税を見直す姿勢がしっかりしていれば財源問題の壁は突き破れる」はずだと慶応大学の金子勝さんは新聞に書いています。
 筒井 それはその通りです。
 梶井 自民党の消費税増税の議論に巻き込まれると民主党は腰砕けにならないとも限らないとも書いています。
 筒井 今の自民党政権の下では財源引き出しは困難です。しかし民主党政権の下では予算の枠組みを根本的に変えますから、全予算を徹底的に見直してムダを省き、15兆3000億円の財源を捻出します。その中で1兆円をまかないます。だから財源問題は全く心配していません。
 梶井 農水予算3兆円の枠内で考えてはいないわけですね。次に、WTОが所得補償を認めるかについてはどうですか。
 筒井 一部、黄色の政策(削減対象となる補助金)があるのでしょうが、だけどAMS(農業保護)の削減に関する約束水準の範囲内に入っているので、これも心配はいらないと思います。
 梶井 先に民主党の前「次の内閣」農水大臣・篠原孝議員にお話を聞きましたが「日本は先進国最大の食料輸入国だから、その立場と論理を強く主張すべきだ」とおっしゃっていました。
 筒井 そもそもWTОに申告しなくてもいいのだというのが篠原さんの持論です。それは合理的な主張だと私も思います。
 梶井 自民党はこの法案をどう扱うつもりでしようか。
 筒井 今までならすぐ否決したでしょうが、今回は農家の支持が高い民主法案を否決して批判を受けたくないものだから、否決しないで争点を明確にしないまま継続審議に持ち込む方針のようです。
 梶井 否決すれば参院選で示された農業者の民意を無視することになります。ところで民主党は主食用でないコメも転作扱いにする方針ですか。
 筒井 はい、飼料用、バイオマス用も転作扱いにします。
 梶井 穀物価格の高騰が飼料を直撃していますが、飼料穀物の生産には手が打たれていません。概算要求の中でもせいぜい飼料米に言及しているだけで後は粗飼料対策だけです。自給力強化のためにも飼料穀物を重視して政策的にはっきり位置づけるべきだと思います。

梶井氏×筒井氏

◆備蓄後は飼料用などに

 筒井 私たちは農林漁業農山漁村再生基本法案というのを通常国会に出す予定です。その中で飼料作物も含めた畜産政策を出す準備をしています。
 その場合、水田転作で飼料作物やバイオエネルギー用の品目を作ると低価格だから所得補償額が非常に多くなります。それでも所得補償の対象としますが、バイオエタノール原料にはセルロース系を活用することを重視しています。
 それから政府備蓄米を今の100万tから約300万tに増やして棚上げ備蓄とし、うち備蓄の役割を終えた分はすべて飼料用とバイオマス用にする方向を考えています。回転備蓄ではいくら増やしても在庫の増大となるだけで、米価引き上げ圧力にはなりません。
 梶井 回転備蓄は余剰米として常に米価に抑制作用を及ぼしますから、棚上げ備蓄への転換は非常に重要です。穀物は余ったら家畜の餌にするのが当たり前です。そのことがいざという時の安全保障になるのです。
 筒井 民主党は以前から棚上げ備蓄にする政策を打ち出しており、それを再生基本法案にも入れる方針です。
 梶井 最後に、農地制度の改正についてはいかがですか。
 筒井 利害対立も意見もいろいろありますが、株式会社参入を無条件で認めるかどうかは別として、参入規制は緩和の方向で考えています。しかし農地転用規制は厳しくします。
 梶井 参入規制は緩和の余地がほとんどないと思いますが。
 筒井 例えば団塊の世代なんかで結構、農業に参入したい人がいるわけです。その人たちが土地を自由に持てるようにする必要性があると思います。
 梶井 それは今の法でも本当にやる気があればやれます。営農に精進する気があると農業委員会が認めればいいわけですよ。農地取得の下限面積10aという条件設定も可能です。
 筒井 下限面積以上でなければいけないなどという規制は、個人の参入の場合、余り必要ないのじゃないですか。
 梶井 市民農園法や特定農地貸付法もあります。経営基盤強化法による利用権設定なら、小さな面積でもやれます。いずれにしても転用されたあとの事後規制ではダメなんです。
 筒井 それはダメですね。
 梶井 現実には企業による無断転用が多く、産廃処理場などへの転用が目立ちます。事後に現状復帰を命令しても会社がつぶれてしまって結局、県が多額の費用を負担して後始末をしているケースなどがあります。
 筒井 民主党としてしっかりした政策を打ち出せるようによく検討します。

インタビューを終えて
 参院選直前の日本農業新聞の農政アンケートでは、政党支持ではやはり自民党が圧倒的に強く50%の支持率だった。が、政策支持率では民主党の戸別所得補償が54%という高さだった。そして結果は民主党の圧勝だった。参院選は、今や農村は政策を優先させていることを明示したのである。そのことを、自民党の農政派議員も痛感されたのであろう。参院選後、08年度予算編成をにらみながら米政策・品目横断的経営安定対策、農地政策等の見直しを自民党の先生方は精力的にやってこられ、これら対策の「見直し関連対策」をまとめられた。その概要を谷津議員に、そして参院選でその存在感をグッと高めた民主党の農政について筒井議員にお聞きしたのだが、印象としては問題意識は共通になりつつある、ということだった。
 たとえば谷津議員が、開口一番“根本はやはり農家所得なんですね。生産者の意欲を刺激しないといけません”といわれたが、民主党が農業者戸別所得補償法案成立を目指して、今、頑張っているのも同じ認識からだろう。飼料米生産施策化の必要性なども共通の認識になっている。
 どういう施策なら“生産者の意欲を刺激”できるのか、互いに異を立て合うのではなく、共通するこの認識を具体化するためにどう調整できるのかを議論してもらいたい、というのが率直な感想。(梶井)

(2008.1.15)

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