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コラム
大宇宙・小宇宙

富士山

 最近の新聞を見ていると、いまにも富士山が爆発しそうな気になってしまう。地震学者が様々な兆候から、噴火の危険性を取りあげているからにほかならない。
 この天下の名峰富士にあやかって、××富士と称している山が全国に13ほどあるが、うち6つは蝦夷富士のように羊蹄山という本来の名前を持つ山の通称である。
 6月末に、日本の北端に位置する利尻島に行ったが、この島の中央に位する利尻富士は、その端麗さで本家の富士に、勝るとも劣らぬといわれている。
 6月には3日ばかりしか全容を現わさなかったという話であったが、幸い晴天に恵まれて、その中の一日に巡り合わせた。
 さて「富士」の字であるが、10年ほど前に、慶応大学の名誉教授の西岡秀雄氏から、興味ある話を聞いた。
 先史時代、アイヌの人たちは、関東平野あたりまで住んでいたが、そのころ富士山が大爆発した。夜空に真っ赤な噴煙をあげている様子を見て、アイヌの人は、火の神フチカムイと呼んだ。
 アイヌには文字がなかったので、発音だけが伝えられたが、後世、日本語では「カムイ」は「神」と、同じく「フチ」は「富士」と当て字されている。
 しかしながら、「富士」に至るまでの変遷が面白い。奈良時代には、富士山も白い煙だけをあげる山になっていたが、煙が絶えなかったので、万葉集では「不尽」と表している。次いで平安時代になると、中国から蓬莱山思想が入り、そのころの竹取物語では「不死」の山となっている。
 室町の世には、修験道者が各地の山々に登ったが、富士山は二つとない素晴らしい山だというわけで「不二」と崇めた。
 さらに江戸期では、講などを組んで、多くの人がこの山の頂上を目指した。このように沢山の“士”が登頂したので「富士」となったという。
 「動かざること山の如し」といった戦国の武将がいるが、実際の富士山はさにあらず、大沢崩れで知られるように、刻々姿を変えている。
 このまま放置していると、噴火がなくてもいずれ南北真二つに裂けてしまうのではないかとの危惧すら抱かせる。このため、大規模な防災工事を行っているが、なかなか歯止めはきかない。そのうち日本を象徴する「富士」山は「不治」山に名を変えてしまうかも知れない。
 このような自然崩壊と並んで、人間界でも、政治・経済ともに混沌とした状況が続いている。
 子孫のためにも、「不治」の国になってしまわぬよう、われわれも、ひと踏ん張りせねばなるまい。     (MMC)


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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