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コラム
大宇宙・小宇宙

偽!偽!偽!

 ゆがんだ木戸は、開け閉めのとき「ギーギーギー」と不気味な音を立てる。
 同様に、今のゆがんだ社会では「偽!偽!偽!」の騒音が目立つ。
 お札やパスポートの偽造、絵画や焼物の偽作、政治家の秘書給与疑惑、裁判での偽証など枚挙にいとまがない。
 なかでも世間を驚かせたのは、東北旧石器文化研究所藤村元副理事長による旧石器発掘捏造事件であろう。自ら集めた石器を密かに埋めて、各地の発掘現場で一大発見に仕立てたので「神の手」と賞賛された。
 他の考古学者たちも、長年その偽りを見抜けず、積み重ねられた日本の旧石器研究は、藤村元副理事長が活躍する以前の1970年代に戻ってしまったと嘆かれている。
 食の安全と品質にもっとも誠実であるべき農協陣営、そして歴史的に協同組合運動と関係の深い企業でも、昨今、次々と組織的な偽造が発覚したことは、無念の極みである。
 「偽」の字は「人」+「為」が合体したもので、「自然」に対する「人為」(じんい)を意味する。人の手が加わると「いつわり」が生ずるのであって、「自然」はいつわらない。
 ともすれば競争や利益追求は、人を「いつわり」のわなに陥れやすい。それ故にこそ、人には常に良心と自制心が求められている。
 19世紀中葉、協同組合の経営原則のバイブルとなっているイギリスのロッヂデール公正開拓者組合は、次のような原則を定めた。
 (1)民主的管理(組合員は出資口数に関係なく一人一票の議決権を持つ)
 (2)開かれた門戸(いつでもだれでも組合員になれる)
 (3)出資に対する配当制限
 (4)利用高に応じた剰余の割戻し
 (5)現金取引
 (6)良品の供給
 (7)組合員教育の促進
 (8)政治・宗教からの中立
 以上の諸原則の中で、とくに(6)の「良品の供給」について付言すると、組合の製粉工場では、小麦粉を作るのに、体によくない漂白剤を添加しなかったので、当初、組合員の中には、黒っぽい製品の購入を断った者もいたが、その後「純良」であるからこそ白くないのだと納得してからは、喜んで買うようになったという。つまり、消費者教育も兼ねていた。
 ロッヂデール組合の設立から1世紀半以上たち、社会情勢も激変し、協同組合の諸原則もその時のものが、必ずしもそのまま現代に通用するわけではないが、少なくとも(6)の良品の供給の原則はいまも変わらず生きている。
 換言すると、協同組合が利用者に提供するものは、偽りのない、良心に恥じない、自分たちの立場でなし得る最良のものでなければならない。
 「生き残り」が厳しさを増す中で、流通段階から、特売のための低価格の大量注文や、良品を供給するためにコストをかけても、そのことをなかなか納得しようとしない需要者もいるなど、この原則を守ることは容易ではない。
 しかしながら、協同組合がそのよって立つ「原点」を忘れてしまっては、協同組合の存在価値そのものが危うくなってしまう。
 6月6日付の朝日新聞のインタビューで、山田全中専務は「改めて食の安全と安心を地域からつくりあげる運動を農協が担いたい。その中で消費者と本当の連携を再構築したい」と誓っている。(MMC)


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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