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コラム
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日本の食料自給


 10月17日付の朝日新聞の「日本は水を大量輸入?牛肉1キロに10万リットル」との見出しに驚いた。
 この記事は総合地域環境学研究所の沖助教授らの試算の紹介であって、例えば、播種から小麦1キロを収穫するまでに必要な水は、3200リットル、家畜を飼育して出荷するまでに消費する水は、豚肉1キロにつき1万1000リットル、牛肉で実に10万リットルに達するという。
 こうして算出された水をバーチャルウォーター(仮想水)と名付けているが、日本の場合、食糧輸入に付随した仮想水は、国内で使用する農業用水の2倍近い年間1035億トンに及ぶ。牛肉1キロの生産に、目方にして100トンもの水が要るということは、まさに「牛肉は大量の水が濃縮された食べ物」といえよう。
 日本食の代表、天ぷらそばも、そば粉、つなぎの小麦粉、それに食用油と醤油の原料である大豆、肝心なエビすらほとんどが輸入物で国産は水と土からできている丼だけという話を聞いたことがある。
 仮想水まで加えるのはオーバーだと思うが、最近はペットボトルの水が大量に輸入されており、これを飲みながら、そばを食べれば、本当に残る国産品は土でできた丼だけとなってしまう。
 たとえ、国産の卵や肉であっても、餌や飼料は外国産であればエネルギー源は国外からきたとみなして計算した国内総供給熱量に対する国産供給熱量の割合を示す「供給熱量総合食料自給率」(農林水産省総合食料局「平成12年度食料需給表」による)は40%となっている。エネルギーの過半は国外依存だ。
 食料需給表では、品目別に「1人1年当たり供給量」をまとめている。これは国内生産量に輸入量を加えて、家畜向けの飼料等を除いた「粗食料」から歩留率を乗じて人間が直接に消費可能な食料、つまり「純食料」となる量である。
 ここでの「国内産自給率」を見ると、12年度で米100%、小麦11%、野菜82%、果実44%、肉類52%、魚介類53%などとなっている。
 米の自給率は100%であっても、家畜向けが過半を占めるとうもろこしの自給率は0%、大麦は7%とほぼ全量を海外に依存しているため、食料に加えて飼料用を含む「穀物自給率」は、28%と主要先進国の中で極わだって低い。
 50年前の数字が80%だったのに比べて3分の1近くに落ち込んでいるのは、急速なパン食、肉食志向の結果にほかなるまい。
 以上のように様々な視点から見て国内自給率が極めて低い日本であるが、身の回りの日常生活では、胃袋に入らずに立食パーティなどでのほとんど手つかずのままの皿、スーパーやデパ地下などの賞味期限切れの食品の廃棄が大量に発生している。
 その実態を具体的に示すものとして、農林水産省が13年10〜11月に実施した「食品ロス調査結果」がある。ただし、食品ロスといっても、可食食料での食べ残し及び廃棄であって、野菜屑や魚の骨などは除外されている。
 この調査によると、消費段階でのロス率が断然高いのは結婚披露宴の23.9%、宴会の15.7%となっている。
 興味深いのは、3人以上世帯では7.7%となっているが、うち高齢者がいない世帯の9.3%に対し、高齢者がいる世帯では6.5%と低い。
 ロスの中でも食べ残しについては、さして差がないのに廃棄のところで、前者の6.1%に比べて後者は3.7%と低いのは、若者に比べて年寄りの方が「捨てるのは勿体ない」という態度が強いことを表していよう。
 次に世帯における食品別の食べ残しと廃棄を合わせたロス率を見ると、油脂類は16.6%(うち廃棄16.1%、以下同じ)、果実類14.9%(9.4%)、いも類13.8%(10.8%)、野菜類13.9%(10.0%)となっているのに対し、穀類は2.4%(0.7%)と格段に低い。主食に比べて嗜好中心の副食は粗末に扱われがちなのであろう。
 日本は人口に比べて多大な食糧を輸入しており、先進諸国の中でも食料自給率が目立って低い一方、“飽食日本”は、食べられる物を大量に棄てている。
 世界には飢えた人たちがたくさんいることを思うと、なにか胸が痛む。(MMC)


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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