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シリーズ 消費最前線『全農マークを信頼のマークへ』
おいしいものを、おいしいままに
――正直でおいしい国産食材で差別化をはかる

中安 久司 全国農協食品(株)社長

 いま、日本の農業はかつてない多くの困難な課題を抱え、苦闘している。さらにBSE発生以来の食品事故や無登録農薬問題などでは、生産者やJAグループのあり方を問われているといえる。しかしその一方では、消費者の食品に対する安心・安全への関心が広がり、国産農畜産物への期待が高まっている。そうしたなかで、JA全農直販グループは「全農マークを信頼のマークへ」を合言葉に、消費の最前線で生産者・消費者の期待に応えるべく奮闘している。
 そこで本紙では、全農直販グループ9社のトップに、現在の状況とこれからの課題、そして抱負を語ってもらうためにこのシリーズを企画した。
 第1回は、「おいしいものを・・・ おいしいままに・・・」を掲げて、冷凍食品、果実物やコメの通販、そして学校給食など多彩な事業を展開する全農食品の中安久司社長にインタビューした。

◆40%引きが販売量の95%を占める冷凍食品

中安 久司氏
なかやす・ひさし 昭和20年生まれ。44年全国農業協同組合連合会入会、平成8年同本所農産部次長、11年同本所農産部長、14年全国農協食品(株)参与、同年全国農協食品(株)代表取締役社長就任、現在に至る。

 ――全農食品は多彩な事業を展開されていますが、柱である冷凍米飯の状況をスーパーなどでみると「冷凍食品40%引き」が目玉になり、その時にまとめ買いをされ、通常価格の時には売れないと聞いていますが・・・。

 中安 冷凍食品では、40%引きで売れる量が全体の95%を占めていますから、そういう価格設定をしなければいけないわけです。しかも品質を落とさずにということです。これでは、基本的に会社としては成り立たちません。これは他社も同様だと思いますから、これから、冷凍食品業界の再編成が進んでいくのではないでしょうか。これは食品全般にいえることだと思いますね。
 わが社の場合には、量販店との取引きがそれほどあるわけではありませんし、ここで価格競争をしても見合いませんから、今後については、取引の見直しをしていきたいと考えています。

 ――生協や外食産業はどうですか。

 中安 生協と外食は、わが社の柱ですが、ここは「少量多品種」の世界です。しかし最近は、量販店が厳しくなってきているので、量は少なくても一定の価格で売れるということで、大手メーカーが進出し、価格的に厳しくなっていますね。
 外食産業は専門紙の評価によればファミリーレストランを中心に「大雨」の業界です。そのため、品目の絞込みや「安くてよいものを」という要請が強くなっています。

◆品質管理で高い評価を得た関東工場

中安 久司氏

 ――これを打開するために、なにを考えておられますか。

 中安 トレーサビリティを徹底していけば当然コストがかかります。これに耐えられなければ経営的にやっていけないわけですから、いかに生産や流通を合理化し、少量であっても大量生産されたものと差がないコストでできるようにできるかが勝負になりますね。
 それから、値段は多少高くても、調味料以外はすべて国産食材を使うとか、和食関係の冷凍食品の開発とか、全農食品でしかできないという差別化商品を開発することが大事ですね。

 ――品質管理とか、安心・安全ニーズに的確に応えることも大事ですね。

 中安 生活クラブ生協が納入食品工場を安全面、品質管理面から再チェックし、評価し直しましたが、その結果、わが社の関東工場が高い評価を受けました。そして生活クラブ生協の地域の食品品質管理担当者の研修会場に関東工場が使われることになりました。そうした面では、「自信をもって売ろう」と社内で話しています。
 これは以前から、社長直轄の品質管理部門を設けるなどして、訓練されてきた成果だといえます。しかし、あくまでも比較の問題ですから、まだまだ努力をしなければいけません。

 ――品質管理での今後の課題はなんですか。

 中安 冷凍食品についていえば、わが社の工場だけではなく、半製品の冷凍ホウレンソウとか「そばめし」のソバなどの原材料を購入している相手先の工場を含めていかにキチンとできるかではないかと思います。さらに関東工場では、ISO9001を今年度中に取得する予定で、現在、取り組んでいます。

◆生産者登録制度で消費者の信頼を

中安 久司氏

 ――通信販売も柱の一つだと思いますが、果物では「無登録農薬問題」の影響はありませんでしたか。

 中安 全国のJAや生産者の方々のご協力を得て、「無登録農薬は使用していません」という証明書を産地のJA組合長から、「上様」ではなく全農食品社長あてにもらいました。それを添付して、提携先各社に納入しました。さらに、消費者へ届ける箱にも「どこの産地でつくり、無登録農薬などは一切使用していません」というカードをいれました。そのため、このことに関するキャンセルは1件もありませんし、現時点では「ここまでやってくれているのか」という評価をいただいています。今後とも、キチンとした体制でいくという確認のために、12月上旬には、主要産地の代表者に集まってもらいます。
 今後の対策としては、生産者の登録制度ができないかなと考えています。例えばある百貨店の通販向けサクランボなら、どの産地のこの20人の生産者が出荷するというようにですね。産地の事情もありますから、すべての産地でとはいかないかもしれませんが、熱心な産地ではご理解をいただいているところが多いですね。そういう方向でいけば消費者の信頼をえられると思います。

 ――顔の見える関係ですね。

 中安 中間に何も入っていない通販だから、消費者と一番近い形で接点がもてるわけです。

 ――「無登録農薬問題」を一つのチャンスにする・・・。

 中安 キチンと真面目にやっている産地を差別化して評価してもらうチャンスではないかと思います。正直あってこその安心・安全ですからね。多くの産地やJAでは一所懸命キチンとやっていますから、それに応えるべくわれわれも消費者にアピールしていかなければいけないと考え、やってきています。

◆おいしさで好調な「純粋産直米」

中安 久司氏

 ――おコメの通販が好評のようですね。

 中安 産地精米で一切ブレンドしていないという意味で「純粋産直米」と名づけていますが、大変に評価されています。今年度上半期実績では、5キロとか10キロ袋で3000トン弱売れていますが、前年対比8%も量が増えています。これも、正直でキチンとしていることが評価されているのだと思いますね。

 ――価格は量販店などよりも高いですね。安心感で売れているんでしょうか。

 中安 郵送料も込みですから高いです。それでも売れるのは「おいしい」からですよ。おコメの消費量は1人月に5キロですから、5キロで2000円のものが2500円になっても、おいしいご飯を食べたいという人たちがいるということです。まず、おいしくて、その上で安全・安心なもの。値段も倍なら買わないでしょうが、そこそこでということではないでしょうか。これは、冷凍食品でも一緒ですし、食品はみな同じではないでしょうか。

◆常に新しい事業にチャレンジしていく

 ――最後にこれからの抱負をお聞かせください。

 中安 社長に就任したときに社員にお願いしたことは、まず、少々のことでは会社がビクともしない財務体質へ強化していこうということです。二つ目は、工場でも事務所でも「何かおかしいな」と思ったら、すぐ隣の人に話してくれということです。そういうことをみんなで心がけていけば事故はほとんど起こらないと思うからです。
 3つ目は、会社創立から28年経ちますが、創立当時と現在では大きく業態が変わってきています。5年、10年後にいまの状態が残っている、同じ事業が続いていくと考えてはいけないと思います。常に新しい事業にチャレンジしていかなければいけないと思いますから、もう少しいい事業はないのか、もう少しいいやり方はないのかと、常に事業の見直しをして欲しいということです。そういう意味で、いま、調理済み冷凍食品の宅配事業を検討しています。
 そして最後に、トレーサビリティも含めてコンプライアンス、つまり法令順守をすることですし、正直であることですね。




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