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農村版コミュニティ・ビジネスのすすめ

農村版コミュニティ・ビジネスのすすめ
石田正昭

【発行所】家の光協会

【発行日】2008年5月1日

【電   話】

【定   価】1700円(税抜)

評者名:先?ア 千尋
茨城大学地域総合研究所客員研究員
ひたちなか農協代表理事専務 

 「著しい経済空洞化の進む農山村の再生には、すぐれた『中間支援組織』の存在が不可欠。地域社会のオーガナイザーであるJAはその中間支援組織としての役割を発揮することが大きく期待されている。そして『農』を中心とした地域協同活動が反復的、継続的に提供される農村版コミュニティ・ビジネスが全国的に普及することを願う」。これが本書出版のねらいである、と編著者の石田さんははしがきで書いている。 石田さんは冒頭で2006年10月に開かれた第24回全国JA大会の議案にある「安心して暮らせる豊かな地域社会の実現と地域への貢献」という項目を紹介し、JAが相互扶助型の自助組織、共同作業型の他助組織の役割を担うことを宣...

 「著しい経済空洞化の進む農山村の再生には、すぐれた『中間支援組織』の存在が不可欠。地域社会のオーガナイザーであるJAはその中間支援組織としての役割を発揮することが大きく期待されている。そして『農』を中心とした地域協同活動が反復的、継続的に提供される農村版コミュニティ・ビジネスが全国的に普及することを願う」。これが本書出版のねらいである、と編著者の石田さんははしがきで書いている。
 石田さんは冒頭で2006年10月に開かれた第24回全国JA大会の議案にある「安心して暮らせる豊かな地域社会の実現と地域への貢献」という項目を紹介し、JAが相互扶助型の自助組織、共同作業型の他助組織の役割を担うことを宣言している、と述べている。
 石田さんはこの大会議案の策定に関わっており、その後の「JA生活活動研究会」とそれを引き継いだ「くらしの活動強化推進委員会」でも中心的な役割を果している。この「生活活動研究会報告」には、JAの生活活動は組合員のくらしを支える重要な取り組みという視点が不可欠であり、活動から事業への展開を、そのためには行政・NPO法人、民間企業などとの共同活動・事業の展開をコミュニティ・ビジネスとして展開すべし、とある。
 本書は、その主張(と私は考える)を理論付けし、コミュニティ・ビジネスの手本をヨーロッパ諸国に求め、我が国の農村版コミュニティ・ビジネスの現状と課題を整理している。
 コミュニティ・ビジネスという概念が市民権を得ているかどうか私には分からないが、石田さんの定義によれば「ローカル・コミュニティ(町内会・自治会などの地縁型自治組織)とテーマ・コミュニティ(協同組合、NPOなどの機能的集団)に基礎を置き、社会的な問題の解決と生活の質の向上をめざして設立される事業組織。地域のみんなの利益のために、ビジネス感覚をもって地域に根ざした活動や事業を継続的に展開する」ことにある。
 農村でのコミュニティ・ビジネス活動の領域は、食と農、健康、助け合い・福祉、資源・環境、生きがいづくり、都市農村交流、と幅が広い。そしてこうした活動を行なう場合、「ただ働き」は絶対に避けるべき、と石田さんは言う。そしてコミュニティ・ビジネスの中間支援組織に期待される役割は、情報の受発信、資源や技術、資金の仲介、人材の育成、マネジメント能力の向上などがあり、JAこそがその役割を積極的に果すべき、と主張している。
 私はこれまで、環境自治体会議や多くの研究会などで、本書でコミュニティ・ビジネスと呼んでいる事例の報告を聞いてきたし、またそこに足を運んで自分の目で確かめてきている。その主体は、行政であったり(北海道池田町や宮崎県都農町のワイン)、農協であったり(本書にも紹介されているげんきの郷や南信州観光公社)、民間であったり(大分県湯布院町)する。しかし、農協が主体的に取り組んでいる事例は圧倒的に少ないのではないか、と見ている。それは、利用・活用できる資源は身近に無限にあっても、農協がその必要性を感じていない、そこまで手を出すだけの力量がない、オルガナイザーとなるべき人がいないなどの理由が挙げられ、しかも農協の広域化によってこれまで以上に管内の個々の地域にまで目が向かなくなっている。これまでやってきても切り捨てられてしまう事例も見ている。
 本書は、私たちに、これからはこういう視点で考え、行動しないと農協に明日はないぞ、と警告しているのだ、と受けとめた。ただ、コミュニティ・ビジネスという概念も含め、カタカナ用語が多く、十分に咀嚼できないまま読み終えた、というのが正直なところである。
(JAと農協と並列して書いた。私個人はJAという表現は使わない)

(2008.05.23)