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パルシステムの産直

パルシステムの産直
「産直論編」(2008年3月6日)
「記録編」(2008年6月17日)
「産直物語編」(2008年7月28日)
21世紀型生協研究機構

【発行所】パルシステム生活協同組合連合会

【発行日】2008/3/6、2008/6/17、2008/7/28

【電   話】03(5976)6111

【定   価】1000円(税抜)(各編とも)

評者名:今野 聰
NPO野菜と文化のフォーラム理事長

 今年の第30回「農協人文化賞」受賞者が、去る6月30日付本紙1面に発表された。意外にも、一般文化部門で山本伸司・パルシステム常務執行役員が受賞された。この3部作執筆の中心メンバーの一人である。過ぎて7月3日。東京大手町JAビルで受賞者のシンポジウムを聴講した。ここで山本氏は、日本の農業の存在感と生協のかかわりについて発言した。生協関係者が他にいないこともあってか、異彩を放った。 さて世間は、今年1月末忽然と起きた中国産冷凍餃子事件に驚いたものだ。その衝撃は現在も続いている。なぜなら中国当局が7月末、真相解明にようやっと動きだしたからだ。そしてCOOPブランドである以上、パルシステム100万人...

 今年の第30回「農協人文化賞」受賞者が、去る6月30日付本紙1面に発表された。意外にも、一般文化部門で山本伸司・パルシステム常務執行役員が受賞された。この3部作執筆の中心メンバーの一人である。過ぎて7月3日。東京大手町JAビルで受賞者のシンポジウムを聴講した。ここで山本氏は、日本の農業の存在感と生協のかかわりについて発言した。生協関係者が他にいないこともあってか、異彩を放った。
 さて世間は、今年1月末忽然と起きた中国産冷凍餃子事件に驚いたものだ。その衝撃は現在も続いている。なぜなら中国当局が7月末、真相解明にようやっと動きだしたからだ。そしてCOOPブランドである以上、パルシステム100万人組合員も無関係というわけにはいかない。誤解のないように日本生協連扱いの「冷凍餃子」は、産直事業商品ではない。だがこの生協産直品でない事件から、生協が今後大きく変貌するのではないかと暗示される。そこが問題なのだ。
 改めて、本書シリーズ3冊の重みを吟味したい。何よりも第1に、過去30年強、大激変で薄れかかった「産直事業」。その社会変革的意義を再度問い直していることだ。事業だから伸長すれば良い、勝ち組で生き残れば良いという風潮。だが、そうだろうか。この間、多くの個別流通業に浮沈があった。その中で、首都圏の弱小生協群が自立と連帯を模索して、現在のパルシステムに変貌してきた。3部作はこの30年強を丁寧な年譜で明らかにしている。こうして90年代初頭の「価格破壊」などに拮抗して、「産直」を前面化した軌跡は明白だ。1990年の事業連の法人格取得が寄与したことは勿論である。
 第2に、生協の安心・安全、環境重視の事業理念と課題を実現するには、多様な有機農業を重視し、国内農業の手助けという生協ポジションにこだわってきたことだ。とかく生協といえども、買い手だから高飛車になる。生産者はやや遠慮という構図に、多くの産直事業現場で出会った。つまり「取引」である。悲しい事実である。その中でパルは例外的に「取り組み」である。第3作目の『物語編』から、それらに関わった人物を追うことが出来よう。そこに先駆的に取り組んだ農協事例が多い訳ではない。農協と対立的だった事例さえ多い。また2002年全農チキンフーズ事件のあった年、パルも指定産地外食肉使用問題などが起きた。その内部原因を余すところなく明らかにした。ここから農協が学ぶことは多い。
 第3は難問である。冒頭触れたが、経済のグローバリズムに対抗する方法選択である。パルは1980年代末、フィリピン産バナナを「民衆交易」として取り組んだ。大胆な先駆である。全国でいくつかの生協がこの事業に参加した。いわく今日の「フェア・トレード」である。片や、穀物相場などに関わる「トレード」こそ、為替操作を含めて経済グローバリズムの本山だ。ここに、社会主義中国が参画するようになって、様相は一層複雑化してきた。今回の冷凍餃子開発問題もある。だが、中国産交易は避けられないという。そういう国際感覚で良いかどうか。
 パルは、時代への対応をしばしば「進化」とも、「瀬戸際」の凌ぎあいとも表現する。そこに類ない意志を感じる。だからこそ、「フェア・トレード」を瞳のごとく大事に、「国際産直」開拓のキーワードとして鍛えて欲しい。

(2008.09.05)