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地球温暖化と経済発展

地球温暖化と経済発展
宇沢弘文・細田裕子編

【発行所】東京大学出版会発行

【発行日】

【電   話】0182-42-2130

【定   価】4000円(税別) A5版310ページ

評者名:先崎千尋
茨城大学地域総合研究所客員研究員

炭素税の導入を提唱 本書の第1章「森林にしのびよる地球温暖化の影響」を読んで、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を思い起こした。この章の舞台は京都府と福井県、滋賀県堺にまたがる「芦生の森」。関西の秘境と言われている。 この森は、ブナの正常種子の減少、ミズナラの集団枯損、雪害の進行など温暖化の影響を受け、悲鳴をあげている。そして「芦生は全国の明日を予兆している。森からの声に耳を傾けて」と訴えている。『沈黙の春』から40年余。事態はさらに悪化している。 最初に本書の成り立ちを見ておく。1980年代の地球環境の変化から、このままでは人類の将来を危うくすると90年にローマ会議が開かれ、その成果を受けて...

炭素税の導入を提唱

 本書の第1章「森林にしのびよる地球温暖化の影響」を読んで、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を思い起こした。この章の舞台は京都府と福井県、滋賀県堺にまたがる「芦生の森」。関西の秘境と言われている。
 この森は、ブナの正常種子の減少、ミズナラの集団枯損、雪害の進行など温暖化の影響を受け、悲鳴をあげている。そして「芦生は全国の明日を予兆している。森からの声に耳を傾けて」と訴えている。『沈黙の春』から40年余。事態はさらに悪化している。
 最初に本書の成り立ちを見ておく。1980年代の地球環境の変化から、このままでは人類の将来を危うくすると90年にローマ会議が開かれ、その成果を受けて、日本開発銀行設備投資研究所が地球温暖化について、編者たちを中心に経済学の視点に立って協同研究を進めてきた結実だ。93年の『地球温暖化の経済分析』に続くもの。
 本書には、持続可能な成長を考えるという副題が付いている。そして「多発する気象変動の報告と、経済学による理論的考察から、現在の温暖化対策の問題点を明らかにするとともに、京都会議を超えた新たな社会経済制度の設計を提言」している。
 本書は、地球温暖化と異常気象の発生という序章と、地球温暖化と森林の再生、地球温暖化の経済理論、温暖化対策の効力と展望の3部から成っている。
 冒頭、編者の宇沢氏は「現在起きつつある地球温暖化は、人類はじまって以来最大の地球環境の激変をもたらしつつある」とし、地球温暖化の抑制にもっとも効果的な手段は炭素税の導入である、と提言している。炭素税は、二酸化炭素の排出に対し、炭素含有量1トン当たり何円の形で課税しようというものだ。このとき、企業も個人も常に、炭素税の支払いがいくらになるかを計算に入れて選択することになり、結果として二酸化炭素の全排出量を抑制して、大気の均衡を回復できるというもの。
 1992年にブラジルで開かれた国連環境開発会議に合わせて、私は国内の自治体等に呼び掛けて環境自治体会議を立ち上げた。今年は5月に岐阜県多治見市で17回目の会議が開かれる。「グローバルに考え、ローカルに行動する」をモットーに、今では60近い自治体が加盟し、千人もの人が集まる。
 「地球のいのちはあと何十分」という終末時計もあるように、温暖化を含め環境問題は待ったなしのところまで来ている。各地での地道な活動と本書のような専門家の研究成果とがマッチすることを期待する。さらに今年12月にはコペンハーゲンで国際会議が開かれ、新しい地球温暖化対策のあり方が討議される。そこで本書の問題提起が活かされることを願う。

※評者 先崎氏の「崎」の字は、本来は旧字体です。

(2009.04.08)