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協同組合としての農協

協同組合としての農協
田代洋一 編

【発行所】筑波書房

【発行日】2009年5月11日

【電   話】03-3267-8599

【定   価】3000円(税別)

評者名:北出 俊昭

 本書は1995年のICA大会で決定された協同組合の定義、価値、原則に則し、「農協は協同組合である」という当たり前のことを確認する立場から執筆されたものである。その意味で本来の農協づくりへの理論的実践的なチャレンジの書といえる。

本来の農協づくりにチャレンジ

 本書は1995年のICA大会で決定された協同組合の定義、価値、原則に則し、「農協は協同組合である」という当たり前のことを確認する立場から執筆されたものである。その意味で本来の農協づくりへの理論的実践的なチャレンジの書といえる。
 はじめに、本書における協同組合の「原点」の定義をみておきたい。本書を読み解く上ではこの「原点」の理解が重要だと思うからである。
 それは第10章第1節で示されており、協同組合をenterprise(企業)を通じて共通目標を達成するassociation(組織)」と規定する。その上で、「associationの原則は自発・自治と民主主義であり、enterpriseの原則は効率とそのためのマネジメント」なので、その統合が重要であるとし、このため組合員の運営・経営への参加と組合員の協同活動をenterpriseに育て上げること、の2点を強調している。
 
●組合員の「参画」を重視

 この「原点」からみて本書にはいろいろ注目すべき特徴がある。
 その一つ組合員の参加問題についてみると、組合員と組織活動の関係(第1章)では経営トップと組合員の間にずれがみられることを重視し、農協事業は単なる合理性追求ではないので、重要なことは組合員の参加意識であるとし、多様化に対応した事業戦略を強調している。
 これは営農指導関係(第2?第3章)で農家層や事業変化の多様化や個別から集団への変化に応じた体制整備などの強調にも共通している。香川県農協の分析を通じ専門性効率性のみでなく、組合員対応を重視した営農体制確立を主張するのも同様である。
 
●組合員・地域のニーズに応えた事業

 一方、事業での組合員の協同活動をenterpriseに育てる面をみると、米販売事業(第4章)、生活活動・生活指導(第5章)でも指摘しているが、端的には信用、共済事業(第6章、第7章)の新たな方向の提起にみることができる。信用事業では戦後の歴史的分析を行ったあと、JAバンクによる一つの金融機関とは農林中金の指導強化であるとし、自主・自立を強める観点から暮らしの分野のニーズに応えることなど、組合員、地域重視の事業展開の方向を示している。共済事業でも同様である。事業の本来的な特徴を明らかにし、同時に事業推進の中心となっているLA体制の間題点を述べたあと、“共済らしさ”が重要なことを強調し、三ヶ日農協の経験に学ぶことが必要だとしている。
 
●協同組織のガバナンスも問う

 「農協に働く人々」(第8章)の分析も農協論の類書にない本書の特徴である。ここでは組識再編や事業改革は、結果として農協に働く人達にとっては雇用と労働の危機をもたらしていることをリアルに述べている。これは「ディーセント・ワーク(安心して働ける仕事)」を重視したILOの協同組合振興勧告からみても、あってはならないことである。
 財務諸表の見方(第9章)で市場の企業統治ではなく、非営利・協同の事業組織としてのガバナンスが強調されているのも重要であり、これまでの各章の総括が第10章である。
 農協は10月の第25回全国大会では「大転換期における新たな協同の創造」をスローガンに、「農業の復権」、「地域の再生」、「JA経営の変革」を掲げている。こうした課題は本来の協同組合の観点に立った取り組みによりはじめて可能なことであるが、本書はその取り組みを進めていくうえで重要な示唆を与えるものであると確信する。

(2009.06.17)