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農協八百屋人生―33年、しごとの記録―

農協八百屋人生―33年、しごとの記録―
森口俊

【発行所】家の光出版総合サービス

【発行日】2010年8月31

【電   話】03-5261-2302

【定   価】

評者名:原田康

 著者の森口氏は"まえがき"で江戸時代の下級武士が日常生活を日記風に綴った記録が歴史資料となっているのを例に、全販連、全農の農協人として30年の仕事を振り返って記録として残す、と記している。
 基本法農政が始まった1961年以降の、所得倍増、高度成長、自由化、転作のそれぞれの時代で、農政と農協組織が園芸部門でどのような役割を果たしてきたかの正確な記録である。

 1960、70年代の労働運動、春闘華やかな時代、政府はベ・ア要求の根拠となる年末、年始の物価を抑えるために主要野菜の白菜、大根、キャベツなどの高騰対策として「秋冬期重要野菜」の生産・出荷・価格安定事業を行った。
 また、1970年代の後半から80〜90年代の輸入自由化、コメの生産調整による野菜、果実の生産、出荷をコントロールするための価格安定対策としての「果実生産振興対策特別事業」、「重要野菜需給調整特別事業」などが、具体的にはどのようにして農家の段階まで巻き込んだ全国ベースの生産出荷のコントロールをする事業であったかを、価格変動の典型であるレタスやピーマンの例で詳細な資料による解説をされている。
 現在からみると既に“昔話”となってしまった農協の果たした役割の記録である。
 さらに、現在も野菜、果実の取引の基準価格・建値となっている東京都の太田市場が秋葉原にあった神田市場から移転をした前後の様子や、1968年にオープンした全販連の生鮮食品集配センター(現在の「全農青果センター(株)」)が日本で始めての本格的な“市場外流通”としてスーパー・マーケットからは期待をされた反面、既存の卸売業界からは反対をされた事情などを当事者の座談会という形でわかりやすく書かれている。
 野菜、果実の生産・流通政策と農協組織の対応についての貴重な記録書である。

(2010.12.08)