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震災復興とTPPを語る―再生のための対策

震災復興とTPPを語る―再生のための対策
鈴木宣弘・木下順子

【発行所】筑波書房

【発行日】2011年8月25日

【電   話】03-3267-8599

【定   価】900円(税抜)

評者名:北出俊昭

 東日本大震災の復興を口実にTPP参加が改めて強調され、野田新政権となりそれが加速されている。本書は当面するこの大震災とTPP問題を考える上で重要な示唆を与えるものである。とくに次の3点を強調したい。

TPPの本質を明確に規定

 東日本大震災の復興を口実にTPP参加が改めて強調され、野田新政権となりそれが加速されている。本書は当面するこの大震災とTPP問題を考える上で重要な示唆を与えるものである。とくに次の3点を強調したい。
 その第1は、今回の大地震、大津波、原発事故を「想定外だった」 と言い訳して責任逃れすることを厳しく批判するとともに、TPPは「(対米)従属関係の完結」とその本質を明確に規定する。そして本書の特徴はそれだけでなく、この二つの課題への具体的な対応方向も示唆していることである。TPPで自身の利害を優先して「対立」を強めるのではなく、「建設的な『対策』提示」が強調されているのはその一例である。
 第2はこうした観点から26の重要事項を取り上げ、それぞれ項目別に説明し読者の理解を助けていることである。例えば「深刻な情報操作」では大震災問題だけでなくTPPでも「農業だけの問題にすり替えられている」実態や「TPPの影響評価の各種試算」では「仮定の置き方次第で計算結果は操作できる」ことを著者自らの試算で証明している。また、これまでの各国との事前交渉に実際に参加した経験から、「FTAで農業が障害だったというのは間違い」な実態を紹介していることは、極めて説得的である。
 第3は「所得補償があるから関税撤廃しても大丈夫論」や「日本農業過保護論」などについての豊富な資料に基づいた批判である。同時に、輸入農産物に比較して国産農産物が高い要因には高品質などによる「国産プレミアム」が含まれていることを指摘している。これは内外価格差問題を考える上で重要な指摘である。その上食料自給率の引き上げ方向と「強い農業のための対案」を示し、「食に安さだけを追求することは命を削り次世代に負担を強いる」ことなのでそれを許してはならないとする。そして結論として、消費者との提携を強め「自分たちの食は自分たちが守る」大切さを強調している。
 東日本大震災の復旧・復興に最大限の努力を尽くすと同時に、財界主導のTPP参加や農業の「大規模化」の途ではなく、国内の生産基盤をフルに活かした農業・農村の真の再生を強める上で本書が多くの読者をうることを期待したい。

(2011.10.06)