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20年度畜産・酪農対策とJAグループの課題

補給金単価、保証基準価格など全政策価格を引き上げ

 政府・与党は20年度の畜産・酪農対策を2月21日に決めた。
 同日開かれた食料・農業・農村政策審議会畜産部会は農水大臣諮問の通り、加工原料乳生産者補給金単価の1円上積みをはじめ、食肉の安定価格や肉用子牛の保証基準価格など全政策価格の引き上げを答申するとともに、安定的な畜産・酪農の経営継続を図ることや国産飼料に立脚した畜産に転換することなど盛り込んだ建議も提示、政府はこれを受けて関連対策も決めた。
 今年度対策の大きな特徴は1871億円にのぼる「緊急対策」を決めると同時に、5月末をめどに配合飼料価格安定制度の見直しなど「追加対策」を決定することを打ち出した点だ。ここでは20年度畜産・酪農対策のポイントと今後のJAグループの課題などを考える。

危機的な畜産・酪農に追加対策も検討 ―5月末

I 酪農家支援の緊急対策

 今回の畜産・酪農対策の検討は、配合飼料価格が高騰するなか生産コストの上昇分が適切に価格転嫁されず、わが国の畜産・酪農経営がかつてない危機的状況にあるとの認識のもとで議論された。
 JAグループも2月15日の「畜産・酪農対策危機突破全国代表者集会」(写真)では宮田全中会長が、飼料高騰による経営危機、離農に歯止めがかからないなど食料生産基盤と地域経済崩壊の危機、さらに国民が望む安心・安全な国産畜産物の提供の危機と「3つの危機」にあることを強調した。
 こうしたなか政府・与党は「緊急対策」の具体化による当面の経営安定の確保と、今後、経営安定対策などについて抜本的な対策を打ち出す「追加対策」を検討する方向を決めた。
 緊急対策と関連対策を合わせて予算総額は前年比632億円増の1871億円となる。

○都府県酪農を支援

 酪農緊急対策のポイントのひとつは都府県酪農の飲用乳への支援だ。生産コストが上昇しても販売価格への反映が不十分で需要も低迷し経営が悪化している。20年4月からは飲用乳価の1kgあたり3円の引き上げが決まっているが、現在の価格高騰を折り込むと5円の値上げ確保が必要となる。
 そのため乳価換算で1kg2円10銭に相当する交付金を交付する対策を決めた。年間の乳量を7600kg程度と見込み、1頭あたり1万6500円の単価で支払われる。助成要件については、自給飼料作付を行っている都府県の酪農に対して自給飼料の生産拡大、または乳用牛群検定普及定着化事業に参加するなどの飼養管理改善、肉用牛の導入などのいずれかの要件が3年間の生産性向上計画に盛り込まれていれば交付される。
 そのほか、乳価の値上げにより飲用乳需要が低迷した場合に生産者団体が乳価低下を緩和するために行う「とも補償」への国による補てん支援や、加工向け生乳の増加抑制のための脱脂乳の需要開発など、セーフティネット対策も創設する。

○補給金単価1円引き上げ

 一方、加工乳生産者関連対策としては、加工原料乳生産者補給金単価を現行の1kgあたり10円55銭に1円上積みし、同11円55銭とした。配合飼料価格高騰による農家実質負担を21年3月まで反映させたものだ。01年のBSE発生の影響を考慮した02年度には70銭の引き上げが行われたが、今回はそれを上回る1円とした。
 他方で加工原料乳限度数量は195万トンと現行より3万トン削減した。
 しかし、国際的な乳製品需給のひっ迫で国内製品に一過性の需要が発生していることから、こうした需要で生乳がバター、脱脂粉乳に仕向けられる場合には、最大12万トンに対して補給金単価と同額の助成を行う。これは限度数量の外数という位置づけのため、加工原料乳に対して補給金が助成される数量は207万トンとなる。
 さらに、チーズ、生クリームの増産を図るため、生乳需要構造改革事業を増額し前年度比約30万トン増やす。これによって加工乳対策全体として今年度より約39万トン増となる。

II 肉用牛、養豚農家支援の緊急対策

 ○物財費割れを6割補てん

 肉用牛農家への支援対策のうち、繁殖農家関連対策でも生産コストを適切に反映し、制度が創設された平成2年以来はじめて、保証基準価格が1頭あたり1000円〜3000円引き上げられた。
 食肉の安定上位価格も1kg15円、安定基準価格も1kg10円の引き上げとなった。これは26年ぶりのことになる。
 また、肥育経営では、とくに乳用種肥育で配合飼料価格の高騰と素牛価格高などから収益性が低下、物財費を割り込んでいる状況もある。これに対して現行の肉用牛肥育安定経営対策(マルキン事業)では、基準家族労働費の8割までしか補てんされない。このため緊急対策として、全国平均で肥育牛1頭あたりの四半期推定所得が物財費割れとなった場合、その6割を国が補てんする仕組みも決まった。この緊急対策によって家族労働費と同等の支援水準を確保する。
 養豚農家対策では、現在、経営安定のための地域肉豚事業が実施され、地域保証価格を下回った場合、都道府県の基金から価格差を補てんする事業が行われている。
 しかし、生産コストが上昇して収益性が悪化しても、価格水準が同事業の発動基準にならなれば基金からの支援は行われない。このため今回は基金の有効活用を図るため地域保証価格を引き上げた。平均的な引き上げ額は1kg70円。
 同時に地元基金の積み増し原資として国が50億円を拠出、総額200億円の基金を養豚農家の経営支援に活用する緊急対策を打ち出した。

III 経営支援の緊急融資対策

 畜産・酪農の経営支援のための緊急融資対策も実施される。
 配合飼料価格高騰による農家負担を支援するため、現在の家畜飼料特別支援資金の融資限度額を、肥育牛なら現行1頭2万円を4万円とするなど倍増するとともに、制度が有効に活用されるよう相談の充実なども行う。
 また、畜産・酪農生産性向上のための個人向けリース事業を創設するのもポイントだ。これは個人利用になじむ機械などをリースする事業主体に対して、購入費用の3分の1を国が助成するもの。貸し付け対象者は3分の2の費用でリース方式で機械を導入できる。
 そのほか経営悪化で負債償還に支障がある場合に、低利融資による負債の借換措置も新たに講じられる。

IV 飼料米導入定着化 緊急対策も実施

 飼料価格の高騰により自給飼料基盤の早急な強化策も求められているが、今回の緊急対策では飼料米導入対策が決まった。
 昨年末に米の生産調整10万ヘクタールの新規拡大策として19年度補正予算で踏切料が措置され飼料用米生産を促進することになったが、今回は畜産側で取り組んでいるモデル実証事業を全国展開し飼料用米の生産と利用に対して助成する。 具体的には飼料用米水田に対して飼料用米の運搬・保管、調整・給与などのコストに対する支援として実質10aあたり1万3000円相当の支援を行う。これを通じて耕畜連携による自給飼料基盤強化をはかる。

VI 追加対策の課題

 前述したように今回の畜産・酪農対策では緊急対策決定ののちも、5月末をめどに追加対策の検討が行われることになったのが重要なポイントだ。緊急対策が実施されたとしても、高騰する配合飼料価格の負担は長期的に増大することも考えられる。
 自民党の畜産・酪農対策小委員会では農業基本政策小委員会と連携してプロジェクトチームを設置するなど、集中的に検討することを決めた。
 検討項目のひとつが、配合飼料価格安定制度と経営安定対策。配合飼料価格安定制度では生産者とメーカーで積み立てる通常補てん金はすでに枯渇し、国による異常補てん金からの借り入れで実施している。今後、さらに配合飼料価格が高騰した場合は、借り入れを増加させなければ補てんできないが、その借り入れ金はいずれ返済しなければならない。こうした事態にあることから、あるべき価格安定制度と畜産・酪農の経営安定対策について、抜本的な検討をすることにしている。
 生産コストの適正な価格転嫁対策も検討する。今回の議論のなかで、生産コストが適切に価格転嫁されてない背景に大手量販店による不当廉売や優越的地位の濫用が指摘されたことから、実態調査を行い法制度のあり方も含めて具体的なビジョンを示すという。
 また、わが国は毎年2400万トンの飼料用穀物を輸入しており、畜産・酪農経営の安定や食料安保の点からも重要な問題となってきたことから、飼料米など自給飼料基盤の抜本的な強化対策も検討することにしている。
 JAグループとしては5月末の追加対策の決定に向けて、課題を整理し考え方をとりまとめ、ひき続き取り組みを展開することにしている。

平成20年度畜産・酪農緊急対策

(2008.03.04)