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新基本計画策定に向けたJAグループの考え方

農業所得の増大で農村に「元気」を販売戦略と支援策確立が課題

 JA全中は4月の理事会で「農業・農村に元気を取り戻す農業所得の増大」などを掲げた「新たな食料・農業・農村基本計画策定に向けたJAグループの基本的な考え方」を組織討議案として決めた。
 これを第25回JA大会議案に盛り込むとともに、今後、JAグループ各段階で組織討議を行い、考え方や具体策を決定、政府が検討している新たな基本計画に反映する取り組みを行う。冨士常務にポイントを聞くとともに、組織討議案の概要を紹介する。

◆食料安保を国家戦略に

 JAグループの「基本的な考え方」では、世界の食料をめぐって人口増大や新興国の経済発展、バイオ燃料の生産拡大などの要因でさまざまな「争奪」が起きているとして、食料は過剰基調からひっ迫基調に構造的に転換していることを改めて強調した。
 また、食料高騰の背景に投資資金の流入があったことを挙げ、「命の源である食料までもがマネーゲームの対象となった」と、市場原理主義と規制緩和の拡大による弊害を指摘している。
 こうした認識のもと、新基本計画の基本的な枠組みについて食料ひっ迫などの環境変化をふまえた「10年後」の農業・農村のあるべき姿と政策の確立、食料安全保障を国家戦略として明確に位置づけ、市場原理主義的な政策理念の見直しと政府の適切な役割の発揮、農業・農村に元気を取り戻すため農業所得増大を最大の課題とする、食料自給率50%実現を基本に、まずは農地の利活用と担い手の育成確保による食料自給力の強化に取り組む、などを打ち出した。
 また、WTO農業交渉については新たな農産物貿易ルールを策定する取り組みを基本としつつ、国際化が進展しても農業経営の安定や農業生産額の拡大、自給率目標が達成できる政策と万全の予算確保が必要だと提起している。

◆農業所得の目標設定を

 今回の基本的考え方で最重要課題と位置づけているのが、農業生産額と農業所得の増大だ。
 食料安全保障への関心の高まりから国民に国内農業への期待が高まっているが、農業生産額は昭和60年の約14兆円が平成19年には約10兆円に低下(右表)。農業所得は15年間で半減した。
 そのためJAグループとしては畜産・野菜・花きなども含めて生産を拡大して所得を増大させることが緊急の課題だとし、国は10年後の農業生産額と所得の目標を設定するべきだとしている。
 同時にJAグループの生産・販売戦略の構築も柱とし、自らの取り組みによる農業所得増大も重視している。
 提起されているのは、生産コスト削減は必要ではあるが限界もあるため、流通段階のコスト削減や有利販売の仕組みなど「食品関連産業全体を巻き込んだ販売戦略の確立」である。
 農業生産額が低下する一方、食品産業全体としては100兆円を超える規模に成長。そのなかで付加価値の拡大と同時に、付加価値の配分を生産段階に拡大させる必要があるとの考えだ。
 また、クリーンエネルギーの活用と自然循環型農業を展開し、それを販売戦略に位置づけることや、協同組合のみ地名を商標登録できる「地域団体商標制度」の活用によるブランドづくりとそれを軸とした共同販売への結集も掲げた。

◆資本参入も新たに提起

 さらに流通・小売業界の価格支配力が増大していることから、今回は農業関連株式会社にJAグループが資本参入して連携を拡大、販売事業を有利に展開することで農業所得増大に結びつける取り組みも提起した。加工・業務用への対応、輸出促進、組合員の結集による産地形成と共同販売の再構築も課題にしている。
 このようなJAグループ自らの取り組みによる販売戦略の確立とそれを支援する政策が必要だというのが基本的な考え方である。
 そのほか、担い手・農地利用対策では、JAが新たな面的集積システムの主役となって地権者と担い手の仲介役となる取り組みのほか、担い手が十分確保できない地域ではJA出資型法人やJA本体による農業経営も検討する必要があることを提起。
 担い手の考え方では中核的な家族経営や集落営農などに加えて、小規模・兼業農家や中山間地域農家なども「地域の担い手」として明確に位置づける「日本型担い手」の考え方を打ち出した。
 また、国民理解のもとで新たな直接支払い制度の確立も必要だとしている。
 最重要課題に掲げた農業所得の増大にはJAグループの総合力の発揮も期待される。品目や地域特性をふまえた自らの取り組みと政策提案に向けた積極的な組織協議が期待される。

新たな食料・農業・農村基本計画の策定に向けたJAグループの基本的考え方
農業・農村に元気を取り戻す農業所得の増大

★JAグループの生産・販売戦略の構築と政策の確立
・消費者の理解による付加価値の拡大と付加価値配分の見直し
・安全・安心な国産農畜産物の生産と消費者理解の促進
・知的財産権など産地情報を活用した付加価値の拡大と販売力の強化
・資本を通じた農業関連株式会社との戦略的な連携
・流通コストの削減による生産段階の配分の拡大
・加工、業務用、外食への供給拡大へ向けた産地整備
・農畜産物の輸出促進による付加価値の拡大と増産
・組合員の結集による産地形成や切磋琢磨をはかる共同販売の再構築など
★JAが主体となった農地の有効利用の取り組みによる自給力の強化
★地域を担う日本型担い手のあり方と新規就農者の確保
★農業の多面的機能を発揮する新たな直接支払い制度等の確立

・国際化の進展をふまえた「緑」の政策の確立
・農地・水・環境保全向上対策と中山間地域直接支払い制度の見直し
★所得の増大にむけた地域・品目特性に応じた品目政策の確立

 

食料増産と農業所得増大へJAグループあげた組織討議を
JA全中 冨士重夫常務理事

食料増産へ大転換

JA全中 冨士重夫常務理事

 ――組織討議のために必要な基本的認識についてお聞かせ下さい。
 本当に食料増産しなければならない時代になったということです。
 一時の高騰からは価格が下がったため食料の需給ひっ迫は一過性のように思われていますが、世界は9億人の飢餓人口を抱え一方で人口は増大、新興国の食生活も向上している。バイオ燃料との争奪の構図も基本的には変わっていません。逆に年を追うごとに食料供給は切迫感が増してくるということではないか。
 しかし、わが国の農業粗生産額は年々下がっており、農業所得は15年前とくらべて半減しています。これでは元気が出ない。
 そこで今回の組織討議では、農業生産額、所得を徹底的に上げる方策を考えようということです。それも原料としての販売高だけではなく、加工や消費者への最終販売まで含めトータルで農家所得を上げる販売戦略が大事だと強調しています。
 同時に農業生産額増大には政策的な支援が必要で、それは農林水産予算そのものの増大も当然視野に入れるべきだと考えています。

自らの販売戦略と厚みある支援策が不可欠

 ――販売戦略のポイントはどこですか?
 ひとつは地球環境に貢献する農業を打ち出すべきではないかということ。CO2削減に貢献できるのは農林業しかないわけで、カーボンフットプリントやクリーンエネルギーなどの取り組みを通じた自然循環型農業といった面を販売戦略に関連づける。単なる原産地表示だけではなくて、農法も含めて付加価値をつけていく。
 さらに流通業界や加工業界、外食産業などとの連携では、今回は資本参入の必要性も打ち出しました。買ってください、だけではやはり限界がある。資本参入して販売事業を展開、所得拡大していく戦略も考えるべきではないかということです。
 ――政策課題では何を重視しますか。
 政策支援による所得確保の課題は、WTO交渉の行方との関係でまだ不透明な要素があります。ただ、長期的には「緑」の政策重視の流れを視野に入れて、政策を考えていかないと持続性のある政策にならない。また、支援策は今のように何本にも細分化させず、まとめていくことも大事。せいぜい二本程度の厚みのある支援策にして、農家が支援を実感できる骨太な政策にしていく必要もある。そういう観点から「緑」の政策としての新たな直接支払いを導入すべきだと提案しています。

水田フル活用は基本

 ――「担い手」についての考え方は?
 土地利用型農業については再整理しようということです。
 現実はやはり小規模経営にならざるを得えない面もあることから、兼業農家を否定せず、その存在を前提としてどういう水田農業の経営形態を考えるか、それがもっとも合理的な整理の仕方だというのが今回示した「日本型担い手」の考え方です。
 ただ、兼業農家を個別に支援対象にするのかといえば、そこはこの日本的な経営形態を今後どういう方向に持っていくのかを描き、誘導していくための政策支援を考えるということになる。集落営農、集落型農場経営システムといったものを作りあげてそこに兼業農家が参加していく、という整理をし、育成・支援するということではないかということです。

需給調整は必要

 ――米の生産調整についてはどう議論をすべきでしょうか。
 廃止、選択制などの言葉が踊っていますが、それらの議論は国境措置引き下げと連動で考えていると思います。低税率、ゼロ税率になれば国内の米価水準は5000円、6000円の水準になる。それを1万円ほど補償すればいいではないかというが、コストが1万円、9000円であればそれをも割り込む米価ではだれも生産しない。
 かりに補償されたとしても、補償された数量しか米生産はできず水田は維持できなくなる。これは消費者負担か、納税者負担か、といったレベルの話ではなく、こんな形で補償された農業で元気が出るのかと思います。
 それを考えれば国境措置はある程度維持し、国内政策ではやはり生産調整は維持しなければならないということです。
 ただ、生産調整のやり方をどうするかは課題で、配分のあり方やメリット対策などをどう組み立てるかは考えるべきです。
 水田フル活用政策は、主食用の計画生産は必要だがやはり4割を超える転作率では限界感があるから、転作は稲で、ということです。それが米粉用米や飼料用米の生産であり、価格差は埋める。まさに食料を増産するということです。世界の穀物需給も視野に入れたわが国水田の最大限の有効活用であり、この基本方向は変わらないと考えています。

(2009.04.22)