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20年度食料・農業・農村白書

水田フル活用による食料自給力の向上を
地域実態に即した着実な支援策も強調

 20年度の「食料・農業・農村白書」が5月19日閣議決定し公表された。
 ポイントは▽水田のフル活用を通じた食料供給力の強化と自給率向上、▽食料供給力の確保のための「農地改革プラン」に沿った農地の有効利用と担い手への面的集積、▽農商工連携や雇用創出による農村の活性化、だ。  水田フル活用政策は、昨年末に農水省が示した「食料自給率50%イメージ」のベースにもなる取り組み。しかし、白書では水田フル活用の現状と課題を指摘するにとどめ、50%に向けた目標数値などは盛り込まなかった。
 また、焦点となっている生産調整政策については「生産調整にまじめに取り組んできた農家に報いることを基本」とするとしながらも、4月に農政改革関係6大臣会合が打ち出した方針をふまえ、「新たな農政改革の議論のなかであらゆる角度から見直していく必要がある」との認識も合わせて盛り込み、今後の議論に委ねた。

 

水田フル活用による食料自給力の向上を

  地域実態に即した着実な支援策も強調

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食料ひっ迫と水田フル活用

 白書ではこのところ毎回、世界の農業・食料をめぐる状況について解説をしたうえで、食料の安定供給のためのさまざまな施策の重要性を強調してきた。
 こうしたなか、20年度白書は、世界的な食料価格高騰をふまえ、「食料の需給をめぐる国際情勢にかつてない変化が起こっている」ことを指摘、食料を安定的に供給していくためには「水田のフル活用」がわが国に必要な取り組みであると端的に整理した点が特徴だろう。
 白書では水田について「連作障害がなく半永久的に使い続けることが可能な?貴重な食料生産基盤」と強調、改めて自給率の低い麦、大豆、飼料作物の生産拡大や米粉用米や飼料用米など新規需要米の本格生産を行う必要があると指摘した。
 白書によれば、米粉は製粉技術の向上で利用可能性が拡大し、パン、洋菓子などでの需要量は08年度推計で9500tにまで増える見込みだという。ただし、小麦粉にくらべて価格が割高なため、国産米粉を継続的に利用していくためには、「原料米を小麦粉並みの価格で供給することを前提として、生産・流通の仕組みや支援の仕方を考える必要がある」としている。

 

米粉の利用を促進


 米粉パン用の原料米価格は1t8万円。一方、今年4月からの外国産小麦粉の政府売り渡し価格は同6万4750円となっている。
 飼料用米については、飼料自給力の向上の取り組みの一環として解説している。
 07年度の飼料自給率は25%。飼料原料の高騰は畜産経営を直撃した。農業経営費に占める飼料費の割合は05年の2から6割から07年には3から7割に増加した。07年の農業所得は酪農、肥育牛経営で3割減。採卵鶏経営で5割減となった。
 飼料原料の過度な輸入依存から転換し、飼料自給率を2015年度に35%まで上げることが目標だ。
 そのための飼料用米やホールクロップサイレージ(WCS)の生産、エコフィードの生産・利用拡大、放牧の推進などの取り組みが重要だとしている。ホールクロップサイレージの作付け面積は04年度には4375haだったが、08年度は8931haと2倍に。飼料用米の作付けは同44haが1611haと約37倍にまで増えていることが紹介され、年間約1200万tにものぼる飼料用輸入トウモロコシの代替として「飼料用米の可能性は大きい」と指摘。普及拡大のためには、低コスト栽培技術によるコスト低減、多収品種の開発、さらに生産者・需要者間の安定的な供給計画の策定などを課題としてあげている。また、米粉用、飼料用米生産について、主食用との価格差を埋めるなど対策が見直されたことも解説している。
 水田フル活用政策は21年産から本格的に実施され、補正予算が成立すれば飼料用米には10アールあたり8万円の交付金で支援する。“水田フル活用元年”が農林水産省のキャッチフレーズだ。しかし、白書では今後の米政策について「これまで生産調整にまじめに取り組んできた農家に報いることを基本」としながらも、「新たな農政改革の議論のなかであらゆる角度から見直していく必要がある」と農政改革関係6大臣会合の基本方針が盛り込まれた。

 

集落営農を評価

  農地問題では、制度の基本を「所有」から「利用」に転換する「農地改革プラン」に沿って、意欲ある担い手に農地を面的に集める取り組みを進めるとともに、農地法改正案が国会で審議されていることを紹介している。
 担い手が経営する農地面積は07年度には210万haとなったが、全耕地面積の45%にとどまっていると指摘し、とくに土地利用型農業では面的利用の促進が課題となっていることをあげた。
 その際、ほ場の大区画化や農道整備など基盤整備率が高いほど、担い手への農地利用集積の割合が高まることを指摘した。06年の調査では農地の整備率が60から80%だと利用集積率は30%だが、整備率100%では75%に上昇するというデータも掲載、基盤整備事業の必要性を強調している。
 また、担い手問題では農業生産法人以外の一般企業の農業参入は08年9月時点で320法人、950haとなっているが、一方で、集落営農組織の数は水田・畑作経営所得安定対策の導入もあって09年は374増えて1万3436組織となった。このうち法人化した組織を除いて5655組織が水田・畑作経営所得安定対策に加入している。
 また、集落営農組織の「主たる従事者」の年齢構成は40から64歳が58.3%を占め、中堅層が活動を担っている実態も紹介された。
 女性が構成員となっている組織は全体の6割あるが、組織運営全体に関する意思決定に参画しているのは2割。白書では、農産物加工や直売所で女性が活躍していることをふまえると、集落営農の経営多角化をにらみ女性の経営参画が望まれると課題も指摘している。

 

 農協の意識改革を

 今回の白書では、担い手支援に絞ってJAグループの事業を取り上げている。
 担い手へのアンケート調査で「資金面の支援」、「市場販売以外の販売ルートの模索」などがJAの事業機能強化の希望の声として多いことを紹介。「これまで経営基盤の強化を図る観点から農協の合併が進められてきたが、今後とも地域や担い手の要望に沿った事業展開を継続していくことが望まれる」と指摘しているほか、「農協が自ら意識改革を図り担い手に対してより一層適切な支援を行っていく必要がある」ことや「農協が行う各種事業が一体となって担い手を総合的に支援していくことが不可欠」などと指摘している。

 

 

●20年度「食料・農業・農村白書」の構成

巻頭:事故米穀の不正規流通問題への対応
【トピックス】
(1)国内農業の食料供給力(食料自給力)の確保に向けた取り組み
(2)農村における雇用創出への取り組み
【第1章】
特集 -水田フル活用を通じた食料自給力の強化に向けて-
○原油や穀物、大豆等の国際価格の動向とその影響(食料品の価格上昇、生産資材価格上昇と農業経営への影響)
○国産農産物の消費の拡大と需要に応じた生産の展開(米粉利用、飼料自給力向上、需要に応じた生産)
【第2章】
食料・農業・農村の主な動向
○食料自給力・自給率の向上と安全な食料の安定供給(世界の食料事情・農産物貿易交渉の動向、自給力・自給率向上への取り組み)
○農業の体質強化と持続的発展(農地の有効利用、担い手の育成・確保策)
○農村地域の活性化と共生・対流の促進(農商工連携、農村の雇用対策)

(2009.06.03)