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中山間直接支払い、7.6万haの農地減少防止

中山間地域は農業算出額の4割を占める
7.6万haの農地減少防止、洪水防止機能466億円

 平地地域との農業生産条件の不利を補い、農地の保全や農業の多面的機能を確保するために導入された中山間地域等直接支払い制度は、今年度で17年度からの2期対策が終了し導入から10年を迎えることから、農水省の第三者機関(中山間地域等総合対策検討会)は制度の評価と今後のあり方を検討してきた。
 検討会は本制度がなければ約7.6万haの農地が減少したことや、農地周辺林地の下草刈りなどの活動も行われ多面的機能も確保されてきたなどと評価。高齢化が進むなかで耕作放棄地防止には必要不可欠の制度だと22年度以降も継続すべきとしている。これを受けて農林水産省は新たな制度設計を検討、来年度予算で概算要求をする。

◆農業算出額の4割

 中山間地域は全国の耕地面積の約43%、総農家人口の約41%を占める。農家人口率は約27%で、中山間地域以外の約6%にくらべて高い。
 全国の農業産出額に占める割合は38.8%と約4割を占めている(平成17年)。製造品出荷額に占める割合は12.7%、商業年間商品販売額に占める割合は4.5%だから中山間地域は農業生産で重要な位置にあることが分かる。全国の第1次産業就業者数のうち中山間地域は41%を占める。
 耕地面積は全国で減少傾向が続き、平成12年の483万haが17年にが469万haとなった。ただし、この間に中山間地域の耕地面積は203万haと横ばいで推移している。
 しかし、過疎化・高齢化の進行は深刻だ。18年度では都市的地域の人口は0.2%増、平地地域は0.5%減だが、中山間地域は1.0%と減少率は高い。また、65歳以上の割合は全国平均の約20%にくらべ約27%で(17年度)全国に比べ「約10年先を行く水準」となっている。

主要産業別の中山間地域のウェイト
◆地域に知恵や活力

 検討会は今年3月から現地調査や行政・農業団体からのヒアリングなどを含めて議論し8月6日に同制度の効果や課題をふまえた「今後のあり方」をとりまとめた。
 同制度は耕作放棄地の発生防止や多面的機能を増進させる農業生産活動について5年間の協定(個人・集落)を結び、それに対して面積単位で交付金が支払われるもの。交付金総額は20年度で518億円だった。
 第2期対策では、約66万haの中山間農地で約2万9000協定が締結され約64万人が参加して農業生産活動が維持された。集落の共同活動で水路約7万3000km、農道約6万700kmが管理された。
 また、農地周辺の林地の下草刈りや、魚類、鳥類の保護、景観作物の作付けなどの取り組みもあるほか、学校教育との連携も進み、約1200校が自然生態系の保全活動に関わり、参加生徒数は約4万2000人にのぼった。
 集落での話し合い回数も増え、棚田オーナー制度や市民農園の開設など都市住民との交流は19年度で約17万人にのぼっている。
 同制度の評価のために実施したアンケートではその効果について「おおいに評価できる」、「おおむね評価できる」としたのは、都道府県で100%、市町村で96%に達した。現地検討会やヒアリングでも制度の継続を望む声が多かった。
 検討会の報告は▽自由度の高い交付金によって農地保全だけでなく、地域に知恵や活力や可能性がもたらされた、▽集落の共同活動への参加意識を高める地域の「気づき」を誘発した、▽中山間地域に対する国の直接的なメッセージになっている、などと評価、高齢化が進むなかで耕作放棄地発生防止には不可欠であるとして「現行の基本的な枠組みを維持し22年度以降も継続することが適当である」と結論づけた。
 

耕地面積の推移◆7.6万haの洪水防止機能466億円

 農水省は検討会に農地の減少防止効果について報告している。それによると第2期対策では約7.6万haの農地減少が防止されたと試算。委員による専門的な検討で妥当な推計結果とされた。
 7.6万haは群馬県(7.7万ha)、兵庫県(同)、静岡県(7.4万ha)の耕地面積とほぼ同じだ。さらに同省は日本学術会議の多面的機能に関する評価額をもとにこの7.6万haの年間評価額も試算しているが、洪水防止機能では466億円(全国3兆4988億円)、水源涵養機能は347億円(同1兆5170億円)などとなった。
 さらに第2期対策期間中の農地減少面積に占める耕作放棄地化率から試算すると約3.3万haの耕作放棄地発生防止効果があったとする。かりにこの面積が耕作放棄地化した場合、復旧コストは198〜594億円程度になるという。
 また、制度導入からの約10年で農振農用地区域に編入された農地は1万4000haある。

集落協定参加者の高齢化
◆高齢化ふまえ要件検討

 このように集落ぐるみの取り組みによってこれまでは農地保全に一定の成果を上げているが、今後の高齢化進行で制度に参加する集落が減少し、耕作放棄地の発生に歯止めがかからなくなるのではと懸念する声も現場から聞かれた。
 実際、第1期対策での集落協定役員の平均年齢は54.8歳だったが、第2期のそれは59.5歳となったとの試算もある。現在の平均年齢は60歳を超えている。
 一方、第2期対策では第1期対策よりハードルを上げ、担い手の育成、強化などの目的で担い手への農地集積や生産性向上、収益向上などの取り組みする場合を10割単価での交付とするといった「構造改革」的な要素を導入した。高齢化が進むなかでは通常の農業生産活動で精一杯との声もある。
 この点について検討会報告では、担い手への利用集積の取り組みや認定農業者の育成は成果もあり今後も必要であるとするものの、高齢化の進展をふまえ「高齢農業者であっても安心して取り組めるよう集落協定参加者が共同で安定的・持続的に農業生産活動等を維持・促進」できるような仕組みの改善も必要だとした。
 また、集落間の連携や複数集落による協定締結などの検討も必要であると提言。そのほか、小規模な団地や飛び地も対象にできるよう現行の「対象農用地は1haの団地」要件の見直しや、遡及返還措置の免責要件の検討、助成水準、制度の継続性・安定性などについても検討が必要なことを指摘した。
 中山間地域直接支払い制度については総選挙に向け主要政党がマニフェストに掲げてその重要性では一致している。農地の保全、農村の活性化に向け選挙結果とも合わせて注目される。

(2009.08.18)