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【解説】 JAグループの畜・酪政策提案―日本の畜産・酪農のこれからのために、今、必要なこと

・肉用子牛生産者補給金引き上げを
・マルキン事業の継続と物財費割れへの支援
・加工原料乳生産者補給金単価は現行以上を
・安定基準価格の引き上げ必要
・補てん財源の確保対策も重要

 2月5日に決定した22度畜産物価格・関連対策にかかるJAグループの政策提案は、肉用牛の繁殖農家の再生産が可能となる手取りの確保、肥育牛経営のコスト割れへの補てんの強化と所得確保、生乳の需給安定と生産基盤維持、酪農経営の安定のための対策や養豚・鶏卵対策、飼料・資金対策等のほか、新たな基本計画と酪肉近代化方針、23年度以降の経営所得安定対策についてもJAグループの考え方を示している。
 また、安全で安心な国産畜産物の供給のために、こうした政策提案やその背景への消費者、国民の理解を広げる運動にも力を入れていくこととしている。

肉用牛対策(1)


 肉用子牛生産者補給金引き上げを

現在の保証基準価格の水準では物財費もまかなえない 肉用子牛については、牛肉輸入自由化にともなう代償措置として、生産者に対して自由化以前の生産コストを保証する肉用子牛生産者補給金制度がある。
 肉用子牛の生産は、飼料高・価格低迷による経営圧迫や高齢化による離農等により生産基盤の弱体化が危惧されるなか、国の増頭目標73万頭達成に向け産地では規模拡大の取り組みを推進してきた。
 一方、現在の保証基準価格は1頭31万円(黒毛和種の場合)で、子牛販売価格がこれを下回った場合にその差額が補給金として支払われるが、規模拡大やふん尿処理の義務化による投資増などで生産費は上昇し、現在の保証基準価格の水準では物財費もまかなえないのが実態だ。(上グラフ
 このため、JAグループでは、子牛の再生産が可能となる水準まで保証基準価格を引き上げるよう求めていく。
 また、関連対策として黒毛和子牛については、補給金制度に加えて、(1)子牛生産拡大奨励事業(販売価格が1頭35万円を下回った場合に、繁殖雄牛の増頭者または維持者に1頭あたり7000〜4万円の奨励金)と、(2)肉用子牛資質向上緊急支援事業(販売価格が1頭40万円を下回った場合に、優良な精液による人工授精、繁殖雌牛の更新などの取り組みに対して1〜5万円の交付金)があるが、仕組みが生産者にとって分かりづらく、子牛価格下落(県内の子牛平均価格が40万円より低い場合はそちらが基準価格となる)により、40万円の手取りが確保できていない地域が増えていることから、分かりやすい仕組みとし、40万円が確保できるよう見直しも求める。
 そのほか、子牛生産の一連の作業を地域で支える取り組み(キャトルセンターや地域内一貫育成)への支援対策も重要だとしている。

 

肉用牛対策(2)


 マルキン事業の継続と
物財費割れへの支援


物財費割れを補てんできていない実態 肉用牛の肥育農家の収益と生産コストの差(所得)に着目し、所得確保のセーフティネット対策として措置されてきたマルキン事業(肉用牛肥育経営安定対策事業)は、21年度で終期となるが、JAグループは、22年度についても同事業を継続し、また、畜産物価格の低迷と飼料価格の高止まりなどをふまえて、各地域における現行の支援水準を下回らないよう対策を求めていく。
 また、素畜費や飼料価格の高騰に対応して、物財費割れの6割を補てんする補完マルキン(肥育牛生産者収益性低下緊急対策事業)や、一定の取り組みをした場合の上乗せ奨励金(ステップ・アップ奨励金)があるが、こうした重層的な対策でも物財費割れを補てんできていないのが実態だ(上グラフ)。政策提案では、肥育経営のセーフティネットとして再生産が可能となるように、物財費不足部分を補う分かりやすい仕組みに見直すことを求めている。

 

酪農対策


 加工原料乳生産者補給金
単価は現行以上を

 景気後退などにより飲用牛乳・乳製品の需給が緩和し、生乳の需給ギャップの解消と生産基盤の維持が酪農では重要な課題となっている。
 一方、生乳の20年度全算入生産費(北海道・経産牛1頭あたり)は前年比で7.2%上昇しており、政策提案では、加工原料乳生産者補給金単価は、現行(1kgあたり11.85円)以上とすることを求め、また、補給金対象となる限度数量(現行195万トン)は、現行を基本に数量の確保を求めていく。これは、脱脂粉乳やバターの世界的な需給動向をふまえた在庫水準について整理したうえで、生産基盤を維持するために必要だと考えるからだ。同時に、国家貿易で行われている脱脂粉乳、バター等の輸入(カレント・アクセス分)については、国内需給への影響に配慮した運営を行うことも求めている。
 また、チーズ、液状乳製品、発酵乳向けに生乳拡大支援策として措置されていた生乳需要構造改革事業は21年度で終了する。このうちチーズについては22年度一般予算で増産対策が盛り込まれたが(29億円)、他についても生産奨励措置が必要だとしてこれを求めていく。
 そのほか、飲用牛乳需要が減少することに対応した支援策も必要だとしている。21年度は飲用牛乳の消費減に対するとも補償(飲用需要変動対応緊急支援事業)や都府県の不需要期対策(生乳不需要期支援緊急対策事業)などが措置されていた(下図)。
 今後は、都府県でも飲用需要減で新規需要への置き換え等が必要になってくることを見込み、生産者の手取り減少に対する支援策の構築や、生乳処理施設整備への支援強化なども必要だとしている。

牛乳生産費(北海道・経産牛1頭あたり)

飲用牛乳向け生乳生産が中心の酪農経営の手取りイメージ

 

養豚対策


 安定基準価格の引き上げ必要

 肉豚の価格安定制度で定められている安定基準価格は、豚の販売価格がその基準価格を下回った場合、需給と価格の安定を図るために、調整保管や農畜産業振興機構による買い上げを実施することになっている。
 昨年来の価格低迷で現在は調整保管が実施されているが、調整保管では安定基準価格1kg400円を上回る価格での買い入れができないため、この間の価格はほぼ一貫して安定基準価格1kg400円と同水準で推移している。
 しかし、物財費のほうが安定基準価格の水準を上回っており、調整保管を実施しても物財費もまかなえないことになる。このため、政策提案では、安定基準価格の引き上げを求めている。
 また、肉豚価格差補てん事業は、21年度で事業終期となるが、22年度も養豚経営の実態をふまえ、経営安定対策の機能が担保できるような保証価格の設定や財源の確保を求めていく。

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配合飼料価格対策


 補てん財源の確保対策も重要

配合飼料価格安定制度の発動状況

(図)配合飼料価格安定制度の発動状況

 

 配合飼料価格安定制度は、18年度からの飼料価格高騰により、生産者への補てん財源が枯渇したため、19年度、20年度に総額1192億円の借入により財源を確保してきた。
 このうち、市中銀行からの借入900億円分については、22年度から5年間かけて償還していくことになっている。
 生産者と配合飼料メーカーによる補てん積み立て金は年間約360億円。このうちの半額が償還に当てられることになる。
 配合飼料価格は21年は1トンあたり5万円台で推移し、高騰前よりまだ1万円ほど高い水準にあるものの、急激な高騰はなかったことから、21年度は補てん金の発動がなかった。
 しかし、最近のトウモロコシ価格等の相場を見ると、今後も配合飼料価格は変動を繰り返し、価格が上昇する可能性もある。このため、借入金償還によって本来の目的である補てんのための財源が不足することがないよう、支援措置も必要になる。
 そのほか、政策提案では自給飼料増産と自給飼料の広域流通への支援対策、資金対策、環境対策、消費拡大と原産地表示の強化なども盛り込んでいる。

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(図)トウモロコシのシカゴ定期相場

(2010.02.17)