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【緊急特集】どうするのか この国のかたち―TPP締結なら日本の農業は壊滅

・農業再生とは「両立」しない
・米の生産、9割が壊滅
・農業関連で260万人減
・日本は十分すぎる「開かれた国」
・亡国の選択を許すな

 政府は11月9日、新成長戦略の一環として諸外国との経済連携強化と貿易拡大をめざす「包括的経済連携に関する基本方針」(EPA 経済連携協定基本方針)を閣議決定した。焦点となっていたのは10月1日に菅首相が国会の所信演説で突如、表明した環太平洋連携協定(TPP)へ日本が参加することを盛り込むかどうか。
 TPPは関税撤廃の例外を認めない完全な自由貿易化をめざした交渉で、締結すれば「日本農業が壊滅するのは火を見るより明らか」、「国民の圧倒的多数が望む食料自給率50%の達成は到底不可能になる」(茂木守・JA全中会長)としてJAグループをはじめ農林水産関係団体はもちろん、市町村、消費者団体からも断固反対の声が全国から一斉に上がっていた。これを受けて与党内からも「議論が拙速。熟議が必要」との異論が強く、今回の基本方針では「参加」の判断は先送りされた。ただし「情報収集を進める」ために「関係国との協議を開始する」ことは明記された。予断を許さない状況で今後、各方面と連携した運動が重要になる。

政府
基本方針を閣議決定
TPP「協議開始」を明記

農業再生とは「両立」しない

国産措置撤廃による農産物生産等への影響
 TPP締結で国内に輸入される農産物への関税がゼロになったらどうなるのか?
 EPA基本方針の検討が続くなか、農林水産省は10月27日に試算結果を発表した。
 米、麦など関税率10%以上で生産額10億円以上の19品目を対象にしたこの試算によると、農産物の生産減少額は4兆1000億円程度で食料自給率(カロリーベース)は現在の40%が14%にまで低下するという。
 また、国内総生産額(GDP)は7兆9000億円の減少となる。

 


◆米の生産、9割が壊滅


 米の場合、国産米価格が1kg247円に対して外国産米は同57円と内外格差が4倍強ある。農水省は外国産米の品質も品種転換が可能で国産との格差は解消可能だとしている。
 また、米国では、輸出量が約400万tあり、これにアジア諸国の米を加えれば、800万〜900万t程度のわが国の生産量を上回る。
 こうしたことから関税がゼロになれば、どっと輸入され9割が外国産米に置き換わると試算する。生き残るのは新潟コシヒカリや有機栽培米といったこだわり米などの米(生産量の約10%)のみという深刻な事態を招く。
 一部の米の生産は残っても価格は大きく下落。米の生産額は卸売価格ベースで1兆9700億円減少する。農業生産減少額のうち41%を占める。
 乳製品のバター、脱脂粉乳、チーズなどは内外価格差が大きい(バター、脱脂粉乳は約3倍)が、品質差はほとんどないため関税ゼロでは「ほぼ全量」が輸入品に置き換わるという。
 そして、輸入乳製品の急増によって、仕向け先がなくなった北海道の乳製品用生乳が都府県になだれ込み、その結果、都府県の飲用向け牛乳が打撃を受ける。都府県の生乳では高付加価値のプレミアム牛乳を除いて消滅すると予想する。さらに飲用乳も輸送技術の発達で中国など近隣国から安い牛乳として輸入が進み、業務用牛乳、加工乳などの2割が置き換わると見込む。
 牛肉では肉質3等級以下のものが外国産に置き換わり75%の生産減となると試算されている。
 小麦の場合は「小麦粉」として輸入されるようになると想定する。
 そのため国産100%をセールスポイントとする小麦粉のみが残り、99%が外国産に置き換わる。生産者ががんばって小麦生産を続けようとしても、製粉企業がなくなっている可能性があるのだ。農業だけでなく関連産業への影響も多大となることの象徴だ。ほとんどが外国産麦となると、輸入小麦から徴収している約800億円のマークアップも失われる。
 また、甘味資源作物やでん粉原料作物は、品質格差がなくすべて外国産に置き換わる。品質差がなければ「価格とロットと利便性のみで選択される」(JA全中・冨士専務)からだ。(下図参照)。
 こうした農業生産の減少によって食料自給率(カロリーベース)は現在の40%から14%にまで低下するとしている。

 国産措置撤廃による農産物生産等への影響試算


◆農業関連で260万人減


 農業とその関連産業への影響では、340万人の就業機会が失われるとの試算結果だ。農業関係者が260万人のほか、食品産業10万人、卸売関係が20万人などだという。
 さらに生産減少にともなって農地面積は約半分が耕作放棄地化するとしている。現在の460万haが230万ha程度になる可能性がある。米・麦やその他の畑作物など、関税撤廃は土地利用型農業を中心に幅広い品目に影響がおよび、野菜などに転換しようにもそれらの品目の大幅な需要拡大は見込めないことから耕作放棄地化が進むと見込む。
 水田などの耕作放棄地化が進むことによって、洪水防止機能や、地下水涵養などの農業の持つ多面的機能も喪失する。日本学術会議が平成13年に農水大臣の諮問に対して示したわが国農業・森林の多面的機能の評価額は約8兆2000億円となっている。
 今回の試算ではこうした多面的機能の喪失額は3兆7000億円程度におよぶとされている。
 洪水防止機能が失われれば今でも大きな問題となっている河川の氾濫リスクは高まり、都市住民の生活にも影響が出る。
 田んぼの生き物に代表される生物多様性も失われる。10月に開催されたCOP10(生物多様性条約締結国会議)では「生物多様性の損失を止めるために緊急の行動を起こす」ことが採択された。農業が持続できなくなれば、こうした国際目標にも反することになる。

 

日本は十分すぎる「開かれた国」

◆亡国の選択を許すな

 

3000人規模で集会とデモ行進行ったJA山形中央会 TPPは例外なく関税撤廃が求められるだけではない。参加国からはわが国の規制についても見直しが求められる。米国からは牛肉の月齢制限(現在は20か月齢以下)撤廃や、医療、金融、保険などの制度見直しが要求される可能性もある。TPPとは貿易拡大のための障壁を取っ払い「身ぎれいにしてから参加表明をしろ」という交渉だと指摘されている。「入るのも大変。入ってからも大変。2重、3重のハードルがある」(平野達男内閣府副大臣)。
 今回の基本方針で政府は「国を開く」ことを盛んに強調しているが、いうまでもなく日本は世界最大の食料純輸入国であり、すでに十分すぎるほど開かれた国である。
 また、前原誠司外相は10月19日の講演で「日本のGDPのうち農業などの第一次産業は1.5%。1.5%を守るために98.5%が犠牲になっている」と発言した。これに対して非難が続出、JA全中の茂木会長も「第1次産業の重要性を軽視したもの、自給率向上、安全・安心な食料の安定供給という国民の期待を損なう信じられない発言」と指摘、「『この国のかたち』を主張すべき外務大臣の発言は国益を著しく損なうものだ」と強く抗議した。
 GDPに占める農業生産の割合は何も日本だけが低いわけではない。米国は1.1%、ドイツ、イギリスは0.9%、EU全体でも1.8%に過ぎない。その農業を守るため、米国は農産物に平均10%、EUは同20%の関税をかけて国内生産を維持し、さらに米国では農業所得の50%、EUでは70〜80%も占める政府支払いが行われているのである。
 前原外相発言はこうした世界の実態について国民に誤解させる点でも多いに問題があり、「ほんの一部だから捨ててもいいんだ、という趣旨につながる考え」(筒井信隆農水副大臣)だ。
 与党からも政府の姿勢に厳しい批判が出ている。「TPP締結は国土政策上の問題。国がある地域を切り捨てることになる」(福島伸享衆議院議員、5日の農林水産委員会)。
 今回の問題の大もとにある「新成長戦略」でそもそも政府は国民にどんな決意を表明したのか? その第1章にはこうある――。
 「国は国民をリストラすることができない」


JA山形中央会JA山形中央会
3000人規模で集会とデモ行進行う

JAグループ山形は8日、山形市霞城公園ソフトボール場でJA生産者代表ら3000人を集め、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉断固阻止を求める県JA代表者緊急決起集会を行い、終了後市内をデモ行進した。

 

JA長野中央会JA長野中央会
関税撤廃のTPP交渉参加許すな

JA長野中央会・JA長野県農政対策会議は1日松本市で「TPP交渉参加反対農業危機突破長野県代表者緊急集会」を開催。県下から生産者やJA役職員など約700人が集まり、交渉参加断固反対を決議した。あわせてデモ行進を行い、地域住民に対して農業への理解を求めた。

(2010.11.11)