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【JAグループの政策提言案】 地域農業の将来ビジョン 「一集落一経営体」めざす

 JAグループは3月4日、「農業復権に向けたJAグループの提言案」を発表した。政府の「食と農林漁業の再生実現会議」は6月に農業政策の基本方針を決めるが、そこに反映させるためのもの。今後、組織協議を経て4月の全中理事会で提言として正式に決める予定。今号では「提言案」について解説する。

JAは地域社会を支える
ライフライン


◆国民の信頼こそ「強い農業」

集落でまとまりのある作付を実現し複合経営による持続的な農業を TPP(環太平洋連携協定)への参加問題を契機に、政府は「食と農林漁業の再生推進本部」を設置、6月までに農業対策の基本方針を決めるとして議論をしている。
 そこでの議論は、TPP参加を「第3の開国」と位置づけ、改革をすれば開国と農業は「両立」できるとするものだ。
 その改革論では、一部の大規模経営や農産物輸出を取り上げ、競争力のある農業、攻めの農業、などと「強い農業」づくりが強調されている。
 こうした動きに対して、JAグループはTPP参加断固反対を訴え幅広い国民運動を作り出す取り組みを進めてきているが、今回の提言案は、それと合わせ、この国の実態をふまえた農業と地域社会の将来像を提起し、実現のための必要な政策とJAグループの課題を掲げたものだ。
 とくに政府が議論している規模拡大のみを追求するような「強い農業」のイメージは、「わが国の実態を無視した非現実的な方向」(組織討議資料)と批判。めざすべき強い農業とは「各地域の集落や農地の実態に応じて資源を最大限に活用する農業」であることや、安心・安全な国産農産物に対する「消費者・国民の信頼関係のうえに、農業・農村の価値観を共有すること」だと提起した。

(写真)集落でまとまりのある作付を実現し複合経営による持続的な農業を

 

(1) 集落を基礎にした水田農業像を描く


 具体的な水田農業の将来像は、地域の基礎単位である集落(20〜30ha規模)ごとに、「農業で食べていける担い手」を中心に、ベテラン農家、兼業農家、定年帰農農家なども集落維持ための多様な担い手として明確に位置づけ、その全体で「担い手経営体」をつくるというイメージ。
 集落でまとまりのある作付拡大と複合経営で効率的な営農が持続する「1集落1経営体」の姿をめざすのが基本的なビジョンだ。
 わが国では、米国や豪州などのような数百から数千haといった経営はそもそも不可能。平均20〜30haという集落単位で農地を可能な限り集約した農業が「最も適正かつ効率的な経営規模」というのがJAグループが打ち出した考え方だ。
 中山間地域では10〜20haを基本とした集落営農・複合経営による営農形態をめざす。


◆農地の集積・最大限活用

 集落単位で経営体づくりを実現するため、農地の集積をめざし、全集落にJAの担当者を設置する。
 また、耕作者のいない農地がある場合はJA出資法人やJA本体による農業経営で耕作放棄地発生ゼロをめざす。
 こうした取り組みを進めるために、中心的な担い手をどうするかなどを盛り込み5年後を見通した「集落営農ビジョン」を策定する。
JAグループは食糧法の改正などの米政策改革にともなって、平成16年から「地域水田農業ビジョン」の策定と実践に取り組んできた。地域で担い手を特定して農地集積を図るとともに、振興すべき作物、販売戦略などを描こうというものだ。
 この地域水田農業ビジョンづくりは、集落単位から取り組みを積み上げたもの。多くのJAで集落担当職員を決めて、集落営農の組織化などにも取り組んできた。今回の「集落営農ビジョン」策定の基本的な考え方もここにある。


◆新たな直接支払いの創設を


 こうした取り組みを支え将来像を実現するために必要な施策は何か。
 JAグループは、策定された集落営農ビジョンを国・行政が認定し、ビジョンで指定された担い手経営体に対して、税制上のメリットや農機等の費用軽減などの重点的な支援策が必要で、そのために現行の認定農業者制度の見直しも必要だとする。
 また、新規就農者を確保するため、35歳以下の青年就農者に対して、就農時の設備投資支援と経営確立まで「おおむね5年」の経済的支援が必要だと提起した(関連記事  「『攻めの農業』へ5年間で加速 再生実現会議の議論」  ・  「若者の農業定着率95% フランスの青年就農交付金」 )。
 また、農地集積を進めるために、調査・指導・勧告・利用権設定と、農地の売買・賃貸借に関する情報を一元的に集約・管理する仕組みをつくることも提起している。
 JAグループは昨年の政策提案でも新たな直接支払いの導入を求めたが、今回も改めてそれを強調した。考え方は、農業・農村の多面的機能の維持と確保のため、水田・畑地に限らず、樹園地も含めすべての農地に対する直接支払いを行うというもの。
 これを基礎支払いとしたうえで、地域ごとの取り組み、条件に応じた支払いを上乗せするというもの。とくに中山間地域は、平場とくらべて高齢化が進行していることや、農地が小規模で分散していることが多いため、生産性の格差是正や水管理などの共同作業のための直接支払いが前提とならなければ、地域農業ビジョンを描けないことを訴えていく。
 そのほか、集落を基礎とした担い手経営体が持続できるため、複合経営を支える品目ごとの支援策や、米などの品目では豊凶変動や需給変動に対する需給・価格安定対策などの基本政策確立も求めていく。

 


(2) 「助け合い」でつくる地域社会像

 

 提言のもう一つの柱は地域経済・杜会の将来像を示したことだ。
 とくに農村部では高齢化と人口減少が進行するなか、地域住民の生活に必須な生活物資の供給、教育・文化、保健・医療・福祉を提供する施設やサービスが維持・確保されていることが、安心して暮らせる地域社会の条件となる。
 そのためのJAグループの取り組みとして「助け合い」を軸に、買物弱者対策も含めた生活支援活動、介護・医療活動などの事業展開などが必要だとし、「地域住民のライフライン」としてのJAの役割発揮を打ち出したのが、今回の大きな特徴だ。
 同時に、地域のさまざまな組織と連携することによって、地域コミュニテイの活性化とともに農業への理解促進につなげることも課題とした。
 こうした取り組みを支援する政策として、24年度の介護保険の診療報酬改訂では、介護人材の確保のためのへルパー制度の維持と、中山間地域での特別地域加算などに配慮した報酬体系とするよう求めていく。
 また、都市農業も「価値ある場」として住民に共感されるよう都市農業振興対策の強化も必要だとしている。

 


(3) 目標実現のためのJA経済事業改革

 

 提言案ではJA経済事業の改革方向も提起した。
 「1集落1担い手経営体」が実現すれば、経営体自らが生産・販売等を判断することになるという問題意識のもと、そのニーズに応える事業展開への転換がJAには求められる。
 とくに販売面では、地場消費から大消費地向け販売、ネット販売など多様な販売先の開拓が課題だ。これまでの委託販売や、共同計算による概算金支払いなどの手法にこだわらずに、担い手経営体の所得向上をめざすべきだとする。
 一方、生活事業では、食材宅配サービスや移動販売車などを、JA―SS、LPガスなどの従来の購買事業とともに「ライフライン事業」として位置づけ、地域貢献の視点から展開することも提起している。

農業復興に向けたJAグループの提言案

(2011.03.24)