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「JAくらしの活動」は組織基盤強化に不可欠

JA全中

JA全中は2月末に「第3回くらしの活動強化推進委員会」を開催し、活動強化のための...

JA全中は2月末に「第3回くらしの活動強化推進委員会」を開催し、活動強化のための今後の取り組みや20年度の活動計画を確認した。
 JAグループは昨年の検討でJAくらしの活動として(1)高齢者生活支援、(2)食農教育、(3)環境保全、(4)子育て支援、 (5)市民農園、(6)都市住民の田舎暮らし支援の6つの活動を行うことにしている。ただ、JAがこれらの活動を実践するためにはJA全体で取り 組むべき活動との認識で統一すること、必要な人材の確保と適切な配置、活動経費の確保、の3つが必要になることが議論されてきた。
 第3回の委員会でも強調されたのは、この活動への取り組みを強化するには「なぜJAくらしの活動が必要か」という点が共有されるべきことと、「活動経費の確保」だった。委員会が示した考え方な どからJAの「くらしの活動」について考えてみたい。

◆10年以内に組合員100万人減も

 JA全中の調べによるとJAの組合員の高齢化は急速に進行する一方で、全体としてJAが組合員次世代対策に力を入れているとはいえない状況にある。
 組合員の年齢別構成をみると07年の推計で65歳以上の組合員構成比はすでに4割を上回っている。しかも80歳以上の組合員構成が全組合員の1割以上を占めるという「超高齢化した組織」に なっている。
 若年層組合員の中核となるのがJA青年組織や女性組織で、本紙では活発で優れた活動をするメンバーの姿をしばしば現地取材を通して紹介しているが、全国的にみると青年部員は平成14年 の8万5000人が19年には7万人台に、女性部員は114万人から81万人台へと減少している。女性組織ではフレッシュミズ層の組織化率は2.4%に過ぎず、JA全国女性組織協議会ではフレッシュミズ組織へ の加入促進と活動の活性化に取り組むことにしている。
 一方でこうした青年、女性組織部員、農業後継者への正組合員への加入促進に「取り組んでいない」JAの割合は、対象が青年部員で47.8%、女性部員では41.3%、農業後継者では42.5%。 実に4割以上のJAが次世代組合員層への正組合員化の働きかけを行っていない(表下・17年度全中一斉調査)。
 JA全中では高齢化の進行と組合員次世代の積極的な加入がなく現状のままで推移すると「10年以内には100万人以上の組合員が減少する」と推計。事業の危機はもちろん「組織解散の危機」 と警鐘を鳴らしている。

表

 

◆JAの事業戦略の鍵

 ただ、他方でJAの広域合併や支店・支所の統廃合が進みJAと組合員との結びつきが弱体化していることも事実。全中の調べでは平成元年から17年にかけて正組合員が1割減の一方、准組合 員が4割増えたが、支所が1割減、出張所が4割減となったことから、生活指導員1人あたりの正組合員数は3割増加、准組合員数では同2倍にまで増加している。組合員と職員との接点の減少が懸念され る。
 しかし、こうした状況のなかでもJAが助け合い活動などをすることによって「JAを身近に感じるようになった」という組合員の回答は4割近くに達するというアンケート結果もある(図下・ 農協共済総研「JA助け合い活動に関する調査研究報告書」19年)。

図

 このアンケートでは「JAの存在を頼もしく感じるようになった」と回答した正組合員も約17%ある。
 JAくらしの活動は、高齢者生活支援活動や食農教育など組合員のニーズを捉えてくらしを支援する活動であり、このアンケートが示すように、実践すればJAと組合員、地域住民を結ぶ役割 となる。
 JA全中は「逆に、このくらしの活動に取り組まない限り組合員組織の基盤確保ができず、JA事業の発展を図ることは不可能」と問題提起、「JA全体で取り組むべき活動」だと強調している 。
 6つの活動を柱としたJAくらしの活動に組合員、役職員が参加、実践することで、JAの地域貢献活動の展開ともなり、組合員の結集力が高まればJA事業の利用促進にも結びつくほか、福祉 事業や直売事業などJAの新規事業開発にもつながる。逆にいえば、JAくらしの活動領域こそが、今後の新規事業開拓やJA事業利用促進の領域ということでもある。

◆税の軽減分を活動経費に

 一方、「JAくらしの活動」を「生活その他事業」と区別して位置づけるとその活動経費の確保が問題となる。
 この問題について委員会ではJAやJA連合会に認められている税制上の特例措置に着目し、軽減された税額の一部を活動経費にあてることの意義を考えるべきとの提起もされた。
 協同組合組織であるJAは一般企業と異なり営利を目的とする法人ではないことなどが税制上の特例の根拠となっている。
 しかし、政府の規制改革会議などからは協同組合組織と株式会社を同質視する意見も出されている。こうした動きに対抗するためにも、地域社会への貢献の視点でくらしの活動を強化、 軽減税額分の一部を経費にあてることで協同組合組織の活動をアピールしていくことが必要ではないかとの指摘だ。JAの存在意義の改めて掘り下げ、活動の具体化を支える方策を探ろうという根本的 な問いかけともいえる。
 そのほか、具体的な考え方としては、くらしの活動がJAの各事業の新規分野の開発に関わり、組織運営全般に貢献することから、JAの総務企画部門の経費として予算化することも提起さ れている。
 また、活動内容によっては受益者負担を求める方法や、県域や全国域も視野にいれた活動基金造成の検討案、寄付や今後、導入が見込まれるJAポイントカードの利用者還元分の一部を活 動経費として積み立ててもらうという案も出ている。JAポイントカードの活用については、すでに一部のJAで組合員が所属する女性部などの組織活動費として還元分の一部をあてる取り組みが行われ ている。
 JAくらしの活動の内容自体は6つの柱を基本に、JAの置かれた環境に即して実践されるべきものだろう。この活動は地域から期待される「JAらしい活動」といえる同時に、今後のJAの組織 基盤強化に不可欠であり、「JAの事業戦略の鍵」を握っているという認識がJAグループ全体で共有される必要がある。(関連 記事

 JAくらしの柱 6つの活動
(1)高齢者生活支援
(2)地域一体での食農教育
(3)美しい地域を守る環境保全
(4)子育て支援活動
(5)農地を有効活用する市民農園
(6)都市住民の田舎暮らし支援

(2008.03.13)