クローズアップ 農政・フードビジネス

フードビジネス

一覧に戻る

中国産冷凍ギョウーザ事件と生協の対応

自ら開発した商品に責任を
中国産加工食品への対応に疑問

 日本生協連が開発したコープ商品の一つである中国産冷凍ギョーザに有機リン酸系農薬が混入し、それを食べた人が中毒症状を起こしたことを日本生協連が公式に発表した1月30日から約50日が経過した。いまだ事件の真相は闇のなかだが、「安全・安心」を掲げてきたコープ商品への信頼が著しく損なわれたことは間違いない。とくに生協の組合員には「生協だから安全だと思っていたのに裏切られた」という思いが強い。そうした組合員の怒りを鎮めるためなのだろうか、問題の商品やそれを製造していた工場の商品だけではなく、中国で加工された食品すべての販売を中止することを決めた生協(事業連合も含めて)がかなりある。
 そのことの意味を考えてみた。

ドミノ倒しのように広がる販売中止の波

◆中国で加工された食品はすべて販売を中止

 は地方紙の報道やホームページで「取扱中止」の文書を掲載している生協を本紙が独自にまとめたものだ(これ以外にもあるかもしれない)。多くの生協が組合員の不安を解消することをその理由としてあげている。そしてインターネットなどで「原料の原産国を確認」できるようにするなど、対応に大童だ。そのいくつかをみてみよう。
 中国における農薬管理体制が信用に足りるものではないので取扱いを中止(コープとやま)。
日本生協連のコープ商品の中国関連商品の販売は中止。さらに宅配システムではコープ商品以外でも中国で加工された商品すべての販売を中止。店舗では6月末までに中国からの商品調達比率を半減させる。そして北海道に工場をもつ取引先に「チルド・冷凍食品などを、北海道産原料を使用して開発」するよう要請した(コープさっぽろ)。
 このように「中止」と明確にいう生協がある一方、共同購入・個配では万全を期すために「当面の間」、中国製造品(冷凍加工食品)についての取扱いを中止する生協がある。店舗では、中国の工場で製造された冷凍加工食品は、売場から一時撤去している(とくしま生協)。
 中国製商品(原産国中国および最終加工地中国と表示されている商品)の扱いを「いったん中止し(見合わせ・取り止め)、あらためて一品一品評価しながら品揃えを見直す」(コープネット事業連合)
 というように、「一時的に中止」と取れる表現をする生協もある。
 中国で加工されている日本生協連のコープ商品は60工場・265品目。これに各生協が独自に開発したものや、仕入れている中国産NB商品を加えた商品の販売が中止されるわけだ。
 コープネットの場合、共同購入での中国産は2月11日〜3月22日の6週分の取扱い実績と取扱い予定で165品目、それ以降の予定品目は33品目。店舗での取扱い品目数は、農産・水産・畜産・日配・菓子の食品合計で313品目あるという(2月28日現在)。

◆「安心できない」という声が販売中止の根拠?

 ここで一つ疑問が湧く。
 他社からの中国加工商品の仕入・販売を中止するだけでなく、生協自らが開発した商品を「中国製」ということだけで販売中止にするということは、どういうことなのか? だ。
 中国河北省の天洋食品という会社に問題があったということは、中国の他の会社でも同様の問題が起きる可能性がきわめて高いと生協は判断したのだろうか。そうだとすればその根拠はなにか。
 コープネットは緊急対応として「いったん中止」するのは「中国産は安心できない」という「利用者動向や組合員のご意見を受け止めて実施する」もので「中国製商品すべての排除を目的としたものではない」から「あらためて一品一品評価」して品揃えするとしている(3月3日付「当面の中国製品の取り扱いについて」(第20報)。
 いずれにしても「中国産は安心できない」という組合員の怒りを、とりあえず「販売中止」という情緒的方法で鎮めようというわけだ。これは量販店や食品スーパーがよく使う手段と同じで、協同組合らしい方法とは思えない。

◆責任をもって商品開発してきたのでは?

 「『組合員のふだんのくらしに役立ち、より豊かなくらしづくりに貢献するため、よりよい商品を少しでも安く提供する』ことを政策の基本」にしているが、「食の国際化の中で、日本の食料自給率はカロリーベースで39%まで低下し、輸入食品を抜きに、『食料の安定確保』や『ふだんのくらしに役立つ価格での提供』は困難な状況」だ(コープネット前掲)。だから、中国でコープ商品の開発をしてきた。そして「輸入食品も国産食品と同じ基準」で責任を持って開発してきたのではなかったか。
 責任を持って開発したのなら、天洋食品以外で開発・加工しているコープ商品についての安全性や品質について問題がないことを組合員にきちんと説明し理解を求めるべきではないか。そうすることが、組合員だけではなくコープ商品開発に協力・提携してくれた天洋食品を除く50数社への生活協同組合としての信義ではないだろうか。それとも今回の冷凍ギョーザのように、JTフーズなど数社が間に介在しているので、生協としては製造・加工には責任がもてないとでもいうのだろうか。

◆冷静に対応している生協も存在

 しかし日本生協連のコープ商品を取扱っていない生活クラブ事業連やパルシステムをはじめ冷静に対応している生協もある。例えば東海コープ事業連合は、日本生協連からの仕入商品736社、独自仕入商品で共同購入商品119社、店舗商品452社、合計1307社全社を調査し、現在回収中の商品(冷凍ギョーザなど)以外では、天洋食品関連の原料の使用実績がないことを確認している。さらに共同購入の中国製品329品目について「改めて残留農薬検査を行う」など自主検査を強化している。京都生協や大阪いずみ市民生協などが加盟するコープきんき事業連合やコープこうべ、エフコープなどのコープ九州も検査体制は強化するが中国産というだけでの販売中止はされていない。

◆国産定着の機会にすることが大事

 それにしてもドミノ倒しのように広がる地域生協の「中国産販売中止」をみていると、生協陣営は自らが開発したコープ商品に「自信も誇りも持っていないのだ」と思わざるをえない。
 日本生協連は吉川泰弘東京大学大学院教授を委員長とする「冷凍ギョーザ問題検証委員会」を設置して、第三者の立場から品質管理やリスク管理のあり方について提言を求めることにしているが、それと同時に量販店PB商品とは違い、生協組合員が誇りと自信を持てる生協らしい「商品開発のあり方」について再検討されてはどうだろうか。そうすることが「日本生協連は今や委託製品にブランドをつけて売るだけの商社だ」という批判に応え、組合員の信頼を回復する途ではないか。
 この事件によって国産農産物が見直されているという。そのこと自体は喜ぶべきことだ。だが、本当に「国産に回帰」させるためには何をしなければいけないのか考える必要がある。生協も「当面」「いったん」販売を中止しているだけなのだから。
 そして、今回の事件で学ばなければならないことは、誰か1人が問題を起こすと、何ら問題がなくても同じ地域・国に所属しているということだけで一蓮托生とされることだ。これを他山の石として、一人ひとりの生産者が心して安全で安心な農産物の生産に臨まなければならないということではないだろうか。

(2008.03.27)