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さまざまな施策を組合わせて生産者の要望に応えていく

JA全農生産資材部長 鈴木盛夫氏に聞く

 米価をはじめ農産物価格が総じて低迷基調にあるなか、原油価格の高騰などによって生産コストが上昇し、農家経営は従来に増して厳しい状況になっており、生産資材のコスト低減の要請がいっそう強まっている。さらに農業生産者は小規模兼業農家から大規模生産法人まで多様化し、組合員の営農類型・規模に応じた柔軟な対応も求められている。

 20年度を迎えるにあたって、全農の生産資材部がこうした情勢を踏まえてどのような事業展開を考えているのかを鈴木盛夫部長に聞いた。

◆米の計画生産と海外原料価格高騰への対応が大きなテーマ

鈴木盛夫氏
鈴木盛夫氏

 ――20年度の事業計画が総代会で決定されましたが、生産資材部としての基本的な考え方はどのようなものでしょうか。
 鈴木 全体としては大きく2つのテーマがあります。1つは米の計画生産の実効確保の問題です。もう1つは原油をはじめとする海外原料価格高騰にどう対応していくかです。
 ――米関連では……。
 鈴木 生産調整面積がさらに増えることにより、従来からの米に替わって大豆や飼料米、ホールクロップサイレージ(稲発酵飼料)などの作付けが多くなることが予測されるので、それに対応した機械化体系を構築し、農業機械を提供します。
 また、飼料米については価格がかなり抑えられるので、乾燥調製の低コスト化により生産者の手取り確保をはかることも私たちの使命だと思います。カントリーエレベーター(CE)などの乾燥調製施設は、どんどん新設される状況ではありませんが、改修する物件が相当あり、その際に低コスト化できる設備・仕様の提案や運営の効率化の提案を実施しています。
 このような取り組みはすぐに効果が出るわけではありませんが、常に問題意識を持って長期的に取り組んでいかなければならないと考えています。
 ――燃料価格の高騰については……
 鈴木 今回の原油価格の上昇は構造的で高止まりする恐れがあり、また価格の上昇幅も大きいことから、単発の対策ではなく、複数の対策を組み合わせて総合的に取り組む必要があります。
 特に力を入れていきたいと考えているのが、施設園芸への対応です。対策としては、施設内に貯まった熱をできるだけ逃がさない保温対策と、作物に必要な温度を維持するために加温する燃料の節減対策の2つの視点で構築し、取り組んでいます。

◆園芸用ハウスの加温対策で実証試験を実施

 ――生産資材部の取扱品目は多岐にわたっていますが、まず、燃料価格高騰への対応も含め、園芸資材関係についての具体的な取り組みをお聞かせください。
 鈴木 施設内に貯まった熱をできるだけ逃がさない保温対策として、従来からすすめているハウス適温管理運動をベースにしながら、サイドカーテンの設置や作物や気候に応じて多重張りを実施することなどです。
 ――加温燃料の節減対策としては……
 鈴木 重油の代替エネルギーとして、木質ペレット暖房機の実用化に向けた現地実証試験を高知県で実施しています。また、ヒートポンプと重油暖房機の併用運転による省エネのため、実効性の高い作物選定・拡大を目的に導入試験を実施しています。将来的には畜ふんの燃料化も検討されていますが、技術的な課題が残されています。
 ――ヒートポンプなどは有効でしょうが、導入コストがかかりますね
 鈴木 暖房機器だけでなくカーテンなども相当な金額になります。園芸用ハウスについては園芸施設リース導入支援対策により助成することとしていますが、20年度からはハウスだけでなく加温機や省エネ機器についても対象品目として拡大し、リースでの導入をすすめます。
 さらにハウスそのものの価格を引き下げるために従来の硬質プラスチックハウスより70%程度の価格でできる「低コスト耐候性ハウス」を推進してきましたが、一層のコスト低減が可能なハウスの開発をメーカーと共同ですすめています。
 ――園芸資材としては被服資材もありますね。
 鈴木 施設園芸においては、農ビフィルムが一般的でしたが、近年は耐候性・作業性に優れる農POフィルムに需要がシフトしています。
 さらには5年を超えて展張が可能な中長期展張農POフィルムが普及し始めています。この中長期展張農POフィルムは、初期投資額では汎用品に比較して1.5倍程度かかりますが、長期にわたって張替えが不要なことから、張替え施工費込みの単年度あたりでは25%程度の費用削減になります。

◆着実に進んでいる段ボールの低コスト化

 ――段ボールの低コスト化についてはどのようにすすめていますか。
 鈴木 出荷資材である段ボール箱については、主要原料である段ボール古紙の価格が中国向けの需要急増から国際市況価格が上昇しているため、値上げ基調にあります。
 段ボール箱の低コスト化のために全農と製紙メーカーで共同開発した「低コスト原紙」の普及拡大や「茶色箱」への切り替えをすすめています。「低コスト原紙」については、現在60%程度の普及率になっていますが、これを80%まで拡大したいと考えています。「茶色箱」についても60%を超える普及率になっています。

◆ラインアップが充実してきたJA独自型式農機

 ――農業機械については具体的にどのようなことを考えているのでしょうか。
 鈴木 農機具費は米の生産費の約18%を占めており、これを引き下げることが一番の課題です。
 1昨年から国産同クラスに比較して30%安価な韓国トラクターの輸入取扱を始めました。これについてはメーカーのサポートなしに部品や修理対応ができるようにJAでの講習会を実施するなど、地道な基盤整備を進めています。まだ販売台数としては多くはありませんが、導入した農家からはエンジン性能とJAのアフター対応で高い評価をいただいています。
 韓国トラクターの輸入が国内メーカーにも影響を与え、昨年3月からヤンマーのAG467というコンバインをJAグループ独自型式として開発・取扱を開始しました。このコンバインは従来同クラスに比べ20%安価でありながら、担い手が求める機能が充実していることから好評で、この分野での系統シェアを高めることができました。これに続いて6月には共立からスピードスプレヤを10月にはAG467をランクアップしたコンバインAG570の取扱を開始しています。さらに今年3月からはトラクターで2型式、クボタの42馬力と三菱の50馬力がラインアップに加わります。

◆レンタルの実証事業も

 ――農機についてはレンタルの実証事業を開始するそうですね
 鈴木 農機を導入する手段として購入だけでなく、借りて使うというニーズも農家にはあります。そこでレンタル事業にチャレンジしようということで関東地区と山口・福岡をモデル地区に設定して、まず実証事業として取り組みます。
 この事業は、全農がJAにレンタルし、JAが農家に再レンタルする仕組みです。これによりJAと全農が共同してコスト低減に取り組むものです。例えば、作期を分散して利用期間を長く確保してより効率的に使うというようなことも、JAの地域営農振興策と連携することにより可能になります。
 現在、モデル地区の候補JAと個別に協議しているところですが、現場で話をするとトラクター・田植機・コンバインだけでなく肥料散布機やあぜ塗り機などの作業機の要望が強く、トラクターと作業機をセットした品揃えも考えています。
 全農が一方的にこれをというのではなく、JAと一緒になってじっくり話を聞き、需要を取り込んで事業をしていくことが大事だと思いましたね。
 ――農機でもリース導入支援対策を実施していますね
 鈴木 農機のリース導入支援対策は非常に大きな反響があり、19年度は371件の申請がありました。園芸施設と合わせると400件を超えます。
 これを見ると農家それぞれが抱えている状況に応じて、導入形態も購入だけでなく、リースにしたりレンタルにしたりとさまざまなニーズに応えていくことが大事だと思いますね。
 ――最後に、JAや生産者の方に一言メッセージをお願いします。
 鈴木 生産資材部で取り扱っている品目は多岐にわたりますが、我々が現場に出かけていってじっくり話し合い、現場のニーズを吸収していろいろな品目・施策を組み合わせることにより、JAや生産者のご期待に応えていきたいと考えています。
 ――ありがとうございました。

(2008.04.07)