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値引き要求に食品業者が悲鳴

バイイングパワーの不当行使も
優越的地位濫用の実態調査  (財)食品産業センター

 「賞味期限切れ近くなった食品を一方的に値引き販売。値引き額で請求された――。」、「すべてを特売納価で納品させられている」、「原材料チェックは厳しいが値上げは一切なし。このままでは日本の製造業は崩れる...」。原材料価格の高騰などで食品の値上げが相次いでいるが、その一方で競争が激化する小売業界では、大規模業者による納入業者に対する不当な値引きを要求や買い叩きも少なくないという実態が(財)食品産業センターの調査に示されている。回答を寄せた食品製造業のなかには「有無を言う余裕はない。ただ受け入れざるを得ない」とのあきらめ声も。同センターでは、不当な取引慣行は全体として改善傾向にあるものの「まだ多くの課題が残されている。原材料や製造コストの高騰など業界環境の悪化で、商談はこれまで以上に厳しいものになっていることがうかがわれる」と指摘している。

 調査は(財)食品産業センターが実施した「19年度食品産業における取引慣行実態調査」。
 昨年11月から12月にかけて大規模小売店による優越的地位濫用の実態を調査することを目的に、これまでの調査項目だった協賛金、センターフィー、従業員派遣に加え今回は不当な値引き・特売商品等の買い叩きについても調査を実施した。食品メーカー23業種375社から回答を得た。この調査は、これまで食品製造業を対象に無作為抽出しアンケート送付をしており、JA系統の食品製造メーカーも抽出対象企業に含まれているという。

◆メリットない販促協賛金

 質問は、不公正な取引について公正取引委員会が17年に示した考え方に即して実施。「協賛金」について公取委は店舗新規オープンに際し、粗利益確保のため負担額や算出根拠等を明確せずに一定期間にわたり負担させることや、セール時の広告経費分を超える要請などを禁止している。
 今回の調査で、協賛金を要求されたことが「ある」は食品スーパーで69.3%、大型総合スーパーで55.9%だった。協賛金の種類では「新規(改装)オープン協賛金」が48%と多く、ついで「チラシ協賛金」だった。また、禁止行為とされている「決算対策協賛金」は昨年より2%増加して17%となっている。
 協賛金要求への対応は「ケースバイケース」が4割を占めてもっとも多いが、その要求には半数以上が応じており、「ほとんど応じていない」「まったく応じていない」と回答した食品企業は10%に満たない。また、資本金3000万円未満のメーカーでは大型総合スーパーの要求に対して「すべて応じざるを得ない」と「ほとんど応じている」で7割を超す。一方、資本金10億円以上のメーカーでは「ケースバイケース」が7割を超える結果で、規模の小さいメーカーほど協賛金要求に応じざるを得ないことが示された。
 ただし、協賛金による販売促進効果については「効果は期待できない、もしくはない」、「協賛金が不当に高い」という否定的な声がどの業態でも50%を超え、ディスカウントストアと大型食品スーパーではそれが70%を超えた。共通の傾向は「協賛金を支払わないと自社商品が消える理由になる」といったもので、販売促進効果は期待できないが払わざるを得ないという恒常的なあり方にメーカー側の不信があると同センターではみている。

◆負担感強いセンターフィー

 センターフィーとは、量販店などが物流センターを設けそこに一括納入する代償として納入業者に求める支出金。自社で広範に配送する経費を考えれば、負担額によっては食品メーカーにとってメリットもある。ただし、「納入業者が得る利益を勘案して合理的であると認められる範囲を超えて提供させる」ことは公取委が禁止している。
 センターフィーを負担しているとの回答は、大型総合スーパーと食品スーパーとの取引では80%を超えとくに高く、前回調査との比較では百貨店以外は他の業態すべてで増えた。協賛金と同じようにこの要請についても、「すべて応じざるを得ない」、「ほとんど応じている」が全体で70%を上回った。やはり規模の小さいメーカーほどその割合は高い。
 その負担額については「コスト削減分を若干上回る負担」が50%を超えた。また、センターフィーの算出基準、根拠が明らかにされていないとする回答は4分の3以上にも達している。回答の共通点は「直接店舗に配送すれば平均物流費は5%台だが、センターを利用することで一時運賃とは別にセンターフィーが5〜8%かかる」などメリットよりもコスト増になっているとの指摘や、センター運営が別会社となっており算出根拠や事前協議などに問題のある例もみられ、なかにはセンターフィーが「大規模小売業者の利益になっているのではないか」との疑問も出されているという。
 また、「従業員派遣」についても問題が浮かび上がった。
 日当・交通費の支給では「まったく出なかった」が全体の54%。大型総合スーパーでは「まったく出なかった」は38%とやや低いが、一方で「提示はあったが受け取れなかった」が34%あることから、同センターでは「支払う姿勢は示しているが実態がともなわない状況」と分析している。派遣業務の実態については「24時間体制の改装手伝い」、「年末の販売応援割当の案内が来る」といった事例が寄せらている。

◆値引きで「業者は弱っている」

 「不当な値引き要求」については「ない」とする回答が全体で67%と多数を占めた。そのなかで「あった」との回答は食品スーパーで45%、ディスカウントストアで44%と高かった(図1)
 要求への対応では「ケースバイケース」が全体で49%で、すべての業態でもっとも多かった(図2)
 ただし、具体的な事例には問題があり「賞味期限切れ近くなった食品を一方的に値引き販売して値引き分を請求された」、「商談で提示していない値引きを事後になった請求された」といった「大規模小売業告示」で禁止されている「商品購入後の値引き」事例が多数寄せられたという。
 「特売商品等の買い叩き」については、「ない」とする回答が69%を占めた(図3)。ただし、「あった」との回答がディスカウントストアで48%、食品スーパーで42%あった。要求への対応はケースバイケースが47%。すべての業態で多数を占めた(図4)
 具体的な事例では「事前交渉もなく安い売価を決定」、「要求を断ると(特売商品の)定番をはずすようなことを言われる」のほか、「不当な値引きは少なくなったが、『値決め』では明らかのバイイングパワーの行使が見られ頭が痛い」との指摘もある。また、原材料高騰と供給不安による値上げまでは認められるようになったが、「原油高騰による資材費の上昇、光熱費の上昇による値上げを認めてもらえる状況にはない」、「売価は小売りが決定するものとの考えは理解できるが、大手小売業の売価凍結政策は行きすぎ」と訴える声もあった。
 結果をみると、最近の原材料高騰要因を価格転嫁できない厳しさはもちろんあるが、それ以前に商品購入後の値引きなど不正な取引がまだ存在することが浮かび上がった。「企業名を公表しなければ調査は無駄」と手厳しい声もある。その一方で取引慣行の「改善は認められる」とする回答は58%ある(図5)。同センターでは公正取引委員会にこうした調査実態を説明し、さらなる改善につなげる努力をしたいとしている。

(2008.06.13)