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ギョーザ事件を機に地域生協に自給率向上の動き

日本生協連のPB商品である「CO・OP手作り餃子」(中国産・冷凍)による中毒事件は、コープ商品のあり方を問うと同時に、本紙がこの事件が明らかになった直後に提起したように(2月10日号)、自給率39%と60%以上を国外に依存している日本の食のあり方や自給率向上について議論がされるようになった。事件の渦中にある地域生協でもいくつかの動きがあるのでそれを紹介する。

商品加工食品の50%以上を国産原料
みやぎ生協

 みやぎ生協(仙台市、芳賀唯史理事長)は、「食料自給率を高める」ために、同生協で販売される加工食品のうち、国産原料を主原料に国内工場で生産する加工食品( 以下「国産原料商品」)の供給構成比を現状の20%程度から50%へ拡大する「アクションプラン」を6月9日に発表した。
 「国産原料商品」は「すべての原料のなかで、国産原料の構成比が50%以上(水を除いた重量比)を占め、最終製造工場が国内にある商品」と定義。対象となる加工食品は、弁当・惣菜・ 寿司類など惣菜部門、日配品・牛乳・パン・アイス・冷凍食品などデイリー部門、食品・菓子・飲料など加工食品部門、生肉類を除く精肉部門のなかの加工肉となっている。
 そして国産原料の安定調達のために「JA組織など関係機関との提携」を強めるとともに、原料としての農水畜産物の拡大を関係組織に呼びかけ、「加工食品への利用を前提とした作付け (飼育)拡大」も目指していく。国産原料の中でも、組合員から強い要望があった地元宮城県内産や東北産原料の使用を積極的に進め、東北産原料を使用した商品のなかから「東北育ち」としてシリ ーズ化も考える。
 今年度は、国産原料商品の供給構成比を07年度より5ポイント増の25%にし、供給金額104億円以上をめざす。また年間1000万円以上販売する国産原料商品を07年度の140品目か ら200品目以上にすることを目標に取組む。
 みやぎ生協では「もう一度、信頼される生協」になるよう職員が一丸となってこのアクションプランに取組んでいくという。

 道内産原料で餃子、道内産米粉を使った食パンも
 コープさっぽろ

 コープさっぽろ(札幌市、大見英明理事長)は、今回の事件が判明した後、店舗では3月3日、共同購入は4月1週から日本生協連PB・中国製商品の販売を中止。国内製造であっても主 原料に中国産原料を50%以上使用した商品を半減するなどの対応をしてきた。
 そのうえで、北海道産の原料を使用した加工食品の開発を進めることを表明していたが、6月から道内原料を使用し道内工場で生産されたギョーザと食パンを新発売した。
 ギョーザは、原料の豚肉・キャベツ・ニラ・タマネギは道内産、皮には道内産小麦をブレンドして使用。ニンニク・生姜は道内では調達が難しいので使用しないでおいしい味を追求し、札 幌の工場で1つひとつ手包みした「北海道 手包み餃子」(10個入り)。主原料は道内産にこだわり、ニンニクは国産を使用しオホーツク紋別の工場で機械生産された30個入り「北海道産こだわりの 餃子」の2点。
 今回問題となった「餃子を開発する」ことで、「組合員さんの信頼回復」につなげていきたいとコープさっぽろは考えている。
 「お米と小麦の北海道食パン」は、北見・旭川地方の小麦品種「春よ恋」に道内産米を製粉した米粉を30%配合することで「モチモチとした食感と素朴な風味が引き出せた」という。米粉 の使用という新たなチャレンジで道内米の消費拡大にも貢献することになる。
 小麦は、時期により収量などから他の品種を使用する可能性もあるが、その場合も道内産小麦100%でつくるという。

飼料米など自給率向上に積極的に取組む
コープとうきょう

 東京都で約114万人を組織するコープとうきょう(東京・中野、上原正博理事長)は、その08年度「事業計画書」の「商品にかかわる課題 『安全・安心』の再構築に取り組み、信頼回 復に全力をあげます」という項目で、「輸入食品の多い分野でも、国産商品の利用を広げる視点で品ぞろえを広げ…商品の安定調達を重視し、主要産地やメーカーとのネットワーク作りとリスク管理 」を進める。
 「食料自給率の向上と日本の農業再生に向けた取り組みを、組合員・生産者とともに具体化」する。「農畜産物の生産・消費の拡大や地域農業の振興、交流を目的としたJAとの協同組合 間提携や、飼料米を活用した産直豚肉作り」などに取り組む。
 もともとは、この2つは同一の小項目の中で他の記述とともに並列的に記載されていたのだが、5月のブロック別総代会議の意見・質問を踏まえて書き改めたという経過がある。
 飼料米については、同生協が加盟するコープネット事業連合が今年度から岩手県で取組み始めたもの(既報)。上原理事長も 開会のあいさつのなかで「少しでも自給率向上につながることにはチャレンジしていく」と飼料米などの事例をあげながら強調した。
 また、10月には「たべる、たいせつ」をテーマに、組合員と生産者・メーカーが交流する催しを開催することも、新たに書き加えられた。

「お米を真ん中に」魅力ある産直を築く
東都生協

 東都生協(東京・世田谷、庭野吉也理事長)は、今年度の活動方針・事業計画の4つの柱の一つに「お米を真ん中に」した日本型食生活の推進により、さらに魅力ある「産直」を築き上げ ていくことを掲げている。
 庭野理事長は6月5日の総代会で、「安全性に問題が起きたときだけ騒ぐのではなく、もっとも重要なことは、すべての人が日本の食を支える意識をもつことです。日本の食とその源であ る農について見つめ直し、考え、行動することです。そうでなければ、安全で安心できる食の安定確保などあり得ない」とあいさつのなかで語った。
 そして「農漁業生産者・メーカーとの連携を深め、生消の踏み込んだ連携、共同運動・事業を発展的にすすめ、産直の事業モデルを再構築する年」に今年度を位置づけ努力していくとも語 った。

                      ×  ×  ×
 
 「CO・OP手作り餃子」事件は、「CO・OP商品」というよりは、「生協」というブランドを傷つけたと指摘する人もいる。生協内部でもそう考えている人も多いと聞く。それは生 協の基本的な事業である「食の提供」のあり方、さらに生協という組織そのもののあり方が問われていることでもあるだろう。
 そのときに、6割を海外に依存している日本の食あり方の不自然さに気づき、自給率の向上→国内農業の振興、に消費者としてどうかかわっていくを考えることは必然だといえる。そして それは国内農業にとっては力強い追い風でもある。
 だが生協組合員には「食料自給率の向上に、国をも動かす消費者運動を展開していきたい」という人がいる一方で、安全・安心なんだから、少々高いはしょうがないではなく、「組合員数 113万人の組織だからこそ『価格の安さ』を実現して欲しい」という人も多いことも忘れてならない。
 今回の事件は食料自給率の問題から国内農業のあり方などへ目を向けさせるきっかけとなったといえる。これを一過性のものにしないために、JAグループや生産者がこの風をしっかりと 受け止め行動することが大事だといえる。

(2008.06.16)