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全政策価格を期中改定

畜産・酪農追加緊急対策

 飼料原料穀物の高騰が続き7月以降も配合飼料価格の値上げが見込まれるなど、畜産・酪農の厳しい状況に対して、政策価格の期中改定を含む追加緊急対策が6月12日に決まった。新たな経営安定対策の創設など合計738億円が措置された。概要を紹介する。

◆補てん金財源の負担軽減

審議会の答申を受け「農政史上異例の期中改定を行う」と述べる 今村雅弘副大臣。右は鈴木宣弘部会長

審議会の答申を受け
「農政史上異例の期中改定を行う」と
述べる今村雅弘副大臣。右は鈴木宣弘部会長

 緊急追加対策の焦点のひとつとなっていたのが、配合飼料価格安定制度の財源確保。配合飼料価格は18年末の1トン約4万2600円から現在は同約6万2800円へと値上げされている。値上げ分には生産者とメーカーで積み立てている基金からの通常補てんによる負担軽減のほか、一定の水準を超える値上げとなった場合に国とメーカーの積み立て財源による異常補てんが実施されてきた。
 しかし、値上げが続き通常補てん基金は昨年10−12月期で枯渇、民間銀行から900億円を限度として借り入れを決定したが、今後、7月にトンあたり2000円、さらに10月にも同2200円の値上げが見込まれ財源不足が明らかになっていた。補てん金財源が確保されなければ生産者の負担が大幅に増えることになる。
 こうした事態に対し、今回の対策では、国とメーカーの積み立てによる異常補てん金の発動基準を引き下げて対応することとした。異常補てん金の発動基準は直前1年間平均より15%上昇した場合だが、これを12.5%に引き下げる。これらの見直しによって100億円の財源を確保した。
 また、通常補てん金財源に対し総額350億円の長期無利子貸付を行う。貸付金の償還期間は27年度から29年度とされた。ただし、これにともなって通常補てんで実施されている「4%ルール」は停止される。このルールは生産者負担を直前四半期を104%に抑制するための追加補てん制度だった。 【追加緊急対策の概要:PDFファイル】

◆北海道酪農に緊急対策

 加工原料乳生産者補給金単価や牛肉、豚肉のの安定価格などの政策価格は生産コストの大幅な上昇など、年度内に「著しい」経済状況の変化があったとして、表のようにすべての引き上げを決定した。基本政策審議会畜産部会も諮問通りに答申、鈴木宣弘部会長は初めての期中改定について畜産・酪農の危機をふまえた「政策として強いメッセージを打ち出した」と評価した。
 また、政策価格の改定のほか、酪農では2月に決まった都府県酪農緊急経営強化対策について、自給飼料生産などの取り組み要件を生産者がもう一つ追加すれば、2月に決まった交付額1頭1万6500円に加え9000円の交付金が上乗せされる対策も決まった。
 同時に北海道酪農支援のため自給飼料生産などの取り組みに対して1頭あたり5700円の交付金が支払われる制度も新設される。

◆肉用子牛生産に支援策

 畜産分野では、肉用子牛価格が下落し経営が厳しくなっていることから、1頭40万円(または都道府県平均価格のいずれか低い額)を下回った場合の補てん金交付も創設される。
 仕組みは優良な種雄牛精液による人工授精など肉用子牛の資質向上を図る場合に、発動基準価格差で1頭1万円から5万円を交付、実質1頭あたり40万円の価格を確保できるようにする。
 そのほか肉用牛肥育経営安定対策を拡充し、推定所得が家族労働費を下回った場合の補てん金単価を8割相当とする。
 肥育牛対策では、マルキン事業(肉用牛肥育経営安定対策事業)で、推定所得が物財費割れとなった場合、その6割を相当額を補てんするほか、肥育期間の短縮、自給飼料への変更など飼養管理改善を行う生産者に対して、緊急特別対策として1頭あたり5000円の支援を行う。これによって物財費割れをした場合、実質8割が補てんされる。

◆養豚ではセーフティネット

 養豚経営対策では枝肉価格が下落した場合に備えてセーフティネットを充実させた。
 肉豚の地域保証価格を飼料費の上昇分に見合う水準まで引き上げができるように、生産者積み立て金原資として24億円(4分の1支援)を供給する。これによって補てん金が交付される地域保証価格は20年度当初の1kg470円から同480円に引き上げられ、さらに21年度には同520円への引き上げが可能となる見込みだ。
 また、1頭あたりの配合飼料使用量の低減を図る計画を作成・実施する生産者に対しては、豚肉の市場価格が地域保証価格を下回った場合に、出荷頭数に応じた交付金を支払う仕組みも創設された。具体的な交付水準は今後決められるが15億円が措置された。
 そのほか鶏卵については、生産コスト上昇にともない補てん基準価格を1kg185円から同191円に引き上げるほか、8月までに積み立て金の年度途中の無事戻しと、その前月までに補てん金交付で、総額120億円程度が早期に制度加入生産者に支払われる措置も決まった。
 また生産者から要望が強い畜産経営に必要な機械等のリース事業の貸付資金枠を当初の45億円から70億円に拡大することも決まった。
 このように政策価格の期中改定というこれまでにない政策と追加の関連対策が決まったが、トウモロコシ相場は1ブッシェル7ドルを超え今後のさらなる飼料価格高騰も懸念される。「先が見えない異常事態」(西川孝也・自民党農業基本政策小委員長)であり、生産物への価格転嫁も含めて政策課題の検討は引き続き必要になる。

◆消費者理解が重要に

 政策価格の期中改定など政府の諮問を審議した審議会畜産部会の鈴木宣弘部会長は「諸外国ではコストが上がれば価格が上がるのが普通。日本では価格を上げるとなると消費者側から反対の声が出ていたが、今回はそういう意見はほぼ皆無。消費者の間でも国産畜産物がなくなってしまうのではないかという不安が広がり、生産コスト上昇による価格転嫁への理解が高まっている印象をうけた」と、畜産物の販売価格への対応も必要だと話した。
 また「生産者側でも、飼料を過度に輸入に頼ってきた日本の畜産経営のあり方を根本的に変えていく努力が必要。自給飼料の増産などを含めて、畜産酪農の将来に明るい光が見えるような長期的ビジョンを打ち出さなくてはいけない」と、生産者側でも早急に経営体制を考え直す必要性があると語った。

(2008.06.19)