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「国家プロジェクト」で水田農業の確立を

米システム検討会が論点整理へ

将来展望のある水田農業の確立のためには「生産・出荷」の視点ではなく、「販売」を重視した具体策の検討が必要だとして、昨年10月に設置された「販売を軸とした米システムのあり方に関する検討会」(座長:八木宏典東京農大教授)がこれまで13回の議論を経て近く中間論点整理をする。

検討会設置後、穀物の国際価格の高騰が続き、米(タイ米のFOB価格)の国際価格は昨年10月にくらべて2.7倍に跳ね上がるなど、食料安全保障が国民的なテーマになっている。論点整理に向けた6月13日の検討会では食料の安定供給と自給率向上のためには水田を最大限に活用する政策を「国家プロジェクト」として位置づけることが必要だと意見が相次いだ。これまでの議論を紹介する。

◆飼料用米と米粉の支援策が課題

 検討会の議論では、世界の食料事情が激変し、国民の間に中長期を見越した食料自給力強化に「強い関心がある」と整理。ただ、一方で主食用米の需要は減少し、約4割の水田で生産調整を実施、「この状況は当分変わらないのではないか」と指摘している。
 そのうえで将来にわたって国民に安定的に食料を供給していくためには、「水田を最大限活用して自給率の向上につなげていく必要がある」、そのためには「水田で積極的に生産・販売する作物を明確にする必要がある」と議論されている。
 下図に示されているのが、具体策を議論するうえでの水田農業の将来イメージ。4割の転作部分については(1)自給率の低い麦・大豆・飼料用作物の生産と、もう一つの柱として(2)麦・大豆等の生産に適さない地域では「非主食用米の低コスト生産の促進」を位置づけている。

 検討会では非主食用米の生産については、主食用米の農機・技術が活用できることから主食用米の生産コストの低減にもつながるとの指摘が出ている。また、非主食用米が軌道に乗れば、水田機能の最大限の活用が実現し、それは「消費者にとっても利益になる」とされてきた。
 米粉や飼料用米はこれまで輸入小麦やトウモロコシにくらべて価格差が大きかったが、下図に示したように最近の取引価格で比較すると価格差が縮まっており、米粉については食品業界の関心も高まってきた。検討会では米粉と飼料用米がそれぞれ小麦、トウモロコシ並みで供給されるための、生産・流通の仕組みや支援策が必要だと議論されている。

 とくに飼料用米については20年産で10万haの生産調整拡大を契機に各地で取り組みが進められており、委員からはその取り組みをふまえた意見が相次いだ。
 現場では生産調整面積を拡大しても、産地づくり交付金が固定されている以上、生産者一人あたりの単価が下がってしまうことへの不満が出ており、「主食用の計画生産を実現するためにも、飼料米生産にメリットがあり経営の絵を描けるような支援が必要」との意見が出された。
 また、非主食用米生産には低コスト化と高収量が課題となっているが「多収穫をめざせば肥料の高投入が必要になる。肥料価格の高騰もふまえる必要がある」などの指摘もあった。
 そのほか、飼料用米など非主食用米生産に対する農業所得の下支え策導入や、地域内での耕畜連携による推進の必要性なども議論になっている。

◆米緊急対策の再検証を

 一方、主食用の米生産の課題では、規模拡大と技術開発による低コスト生産、規模拡大のための農地集積などをめぐって議論されてきた。
 検討会では、10aあたりの経営費が0.5ha未満層では11万円になるのに対し、5ha以上層では6.7万円程度となるデータが示され、経営規模拡大がコスト低減の有効な方法であると指摘されている。ただ、大規模経営ほど借入地のシェアが高く5ha以上層では約6割を示めることから、検討会では借地料水準についても議論されたが、借り手にとってのメリットだけでなく、貸し手にとっても貸付けのインセンティブが働く水準が必要との議論になった。
 栽培技術では直播が移植栽培にくらべて、労働時間で2割程度、生産費で1割程度の縮減が可能と報告された。また、育苗作業の省力化だけでなく「作期分散による」規模拡大も容易になることも指摘された。非主食米生産への直播技術の導入をきっかけに主食用生産でも積極的に普及を図るべきとの意見もある。
 ただ、コストダウンの実現と収量の拡大も実現した事例はあるものの、直播の農機導入などの負担は「個人では難しい」との意見もあり地域での効率的な機械利用も課題となっている。
  また、農業所得との関係で水田農業経営の規模を「ビジネスサイズ(=ファームサイズ)」の視点で検討する必要性も指摘されているほか、営農類型として飼料用米やWCS(ホールクロップサイレージ)を含め「水田地帯では稲系のフル生産」による複合経営をめざすべきとの意見が出される一方、「農村地域維持の観点からは米以外の作物振興策も必要」と「水田でのフル生産」が誤解を与えるシグナルにならない整理も必要だとの点も強調された。
 こうした意見が強調されるのも現在は10万ha拡大を含む生産調整の達成が重要課題となっているからだが、今後の検討では昨年末の米緊急対策の功罪についても検証が必要との指摘も出された。
 また、直近の世界の食料事情について再検証したうえでの政策討議や、食料安全保障を考える場合は東アジアの食料安保も視野に入れるべきとの意見も出ている。米入札の仕組みなど米取引システムも同検討会の大きなテーマだ。
 いくつかの意見の違いはあるものの、水田を最大限に活用して自給率を向上させることを「国家プロジェクト」として継続的に推進する必要性については一致している。しかも、水田農業の担い手不足を考えれば「時間に余裕はない」。水田農業の確立に向けた抜本的な対策が打ち出されるとりまとめが望まれる。検討会は6月27日に開かれる。

(2008.06.20)