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食べることは、生きること
お米を真ん中に「100万人の食づくり運動」を展開

パルシステム生協連

日本生協連のPB商品である中国産冷凍「手作り餃子」による中毒事件によって、日本の食のあり方、とくに6割以上を海外に依存する食について見直そうという動きがでてきている。とくに今回の事件をきっかけにコープ商品だけではなく、「生協」そのもののあり方を組合員や消費者から問われることになった地域生協でその動きが顕著だ(本紙2044号参照)。

ただ、こうした事件が起きる前から自らの食のあり方を考え、国内生産者と提携したさまざまな取り組みを行ってきている生協もある。その一つがパルシステム生協連合会(若森資朗理事長、以下パルシステム)だ。同生協連が取り組んでいる「100万人の食づくり運動」について取材した。

◆食の基盤である「米づくり」を守る

 パルシステムは、東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・山梨・群馬・福島・静岡の1都8県の10生協で構成され、その組合員数は105万人だが、この組織のもっとも大きな特徴は、いまや生協事業を牽引する「個配」という業態を創り出し、生協の事業のあり方を大転換したことではないだろうか。そしてその個配事業を支える中核的な事業が、食の安全、環境そして生命にこだわる「産直」だといえる。
 産直事業についてはさまざまな取組みがされているが、もっとも力を入れて取り組まれているのが「食の基盤である『米づくり』を守る」ことだ。米づくりを守ることが、食料自給率が低い日本において農業を守る緊急課題であるという考えだ。

◆14万人超が田植え前に予約登録

100万人の食づくり運動

 パルシステムでは、1995年から田植え前から新米の予約申し込みをすることで環境保全型農業を応援する「予約登録米」制度に取り組んでいる。今年も4月から既報のように、北海道ほしのゆめ(JA北いぶき・5kg無洗米)、エコ・新潟こしひかり(JAささかみ・5kg普通精米と無洗米、3kg無洗米)など12産地の11銘柄の予約登録を行ってきた。
 その結果、20年産米の予約登録者は、昨年より3万1000人増えて14万4385人となった。年間供給総重量は1万634トンと昨年より7%増え、1万トンの大台を超えた。
 今年予約が多かったのは数量ベースで「秋田こまち無洗米5kg」「北海道ほしのゆめ無洗米5kg」「新潟こしひかり無洗米3kg」そして「青森つがるロマン無洗米5kg」などだという。
 いずれもパルシステムの農薬削減プログラムを実践し、優先排除農薬、問題農薬の不使用を実現している、化学合成農薬、化学肥料を慣行栽培の2分の1以下に削減して栽培、という基準をクリアして栽培される「エコ・チャレンジ米」だ。

◆子どもが楽しみながらご飯を食べる「ご飯シール」

 同生協連ではこうした米を中心に「物質的豊かさにかわる古くて新しい価値=『いのち』を出発点に、100万人の食づくり運動」に今年から取り組んでいる。この運動は2006年から独自に取組まれてきた「食育」運動を、組合員が100万人を超えたことを機に発展させたものだという。
 具体的には「作る・食べる」のどちらにとっても大きな価値がある「お米」を「食づくり」の土台である「お米を食べよう」運動と「7つのPB商品を通し、よりよい食選び・食づくりを広げる」という2つの行動計画から成っている。その背景には長年にわたって取り組んできた「田んぼのいきもの調査」や産直の取り組みがあることはもちろんだ。
 「お米を食べよう」運動では、「ごはん+だし」=「ごはんとみそ汁」を中心にした日本型食生活をすすめている。生活習慣病の予防と、自給率も向上させようというものだ。
 また「ごはん3杯で赤とんぼ1匹」という「田んぼのいきもの調査」を進めてきたパルシステムらしい取り組みもある。ご飯をおかわりしたら「ごはんシール」を専用シートに貼り、ミジンコとか赤とんぼとかアマガエルなど生きものの欄にまで進むと大きめな”生きものシール”を貼り、「1ヵ月でめざせ100杯!」という子どもが夢中になりそうな楽しみながらご飯を食べる取組みだ。
 自宅で稲作を体験できる「バケツ稲セット」は有料だが発売即完売だという。パルシステムでは、秋にバケツ稲を育てている子どもたちを集めて収穫の集いをすることも考えているという。

ご飯シール

◆作り手の思いと物語がある7つの商品

 「7つのPB商品」は、便利つゆ・もめん豆腐・パル豚ローススライス・九州産塩さばフィル・直火炒めチャーハン・鮭ほぐし・もっと野菜!赤128、の7品だ。いずれもパルシステムが考える商品づくりを象徴するものだという。一つひとつの商品に、作り手の思いがあり物語があるので、1品ごとにその思いを伝えるDVDを作成し、さまざまな集会で組合員に見せ、共感を呼んでいるという。
 「食べることは、生きること。誰かに一方的に求めることなく、誰からも奪うことなく、一人ひとりが安心して暮らせる社会を次世代にわたしために」。100万人の食づくり運動のパンフレットの表紙に書かれている言葉だ。自らの食の問題を通して農業のあり方にまで思いを馳せる消費者のこうした取り組みは厳しい環境下で頑張っている生産者に大きな勇気と力を与えることは間違いない。この動きがさらに広がることに期待したい。

(2008.06.30)