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土壌診断による適正施肥で肥料コストを抑制

この7月からの20肥料年度の価格が、海外原料の高騰などを理由に大幅に値上げされた。国際市場での肥料原料価格の情勢をみると、今後も価格が上昇すると予測されている。生産費上昇分を即農産物の販売価格に反映することは容易ではない。生産者が収益を確保するためには、可能な限り生産コストを抑制するしかないといえる。そこで肥料コストを抑制するためにはどうしたらよいかを考えてみた。

◆オイルショックを上回る深刻な事態

 ほとんどの原料を海外に依存する日本の肥料は、世界的な食料事情や農業生産の動向によって高騰する原料価格に大きな影響を受けざるをえない。
 7月からの20肥料年度の価格(対県渡し価格)は、品目によって差はあるが19肥料年度当初の価格と比較するとほぼ6〜7割高になっている。
 これは「かつてのオイルショック時を上回る深刻な事態」であり、生産者や農業関係者がそれぞれの分野で努力を続け「その努力を結集することでしか乗り切れない」とJA全農は考えている。

◆過剰に土壌中に含まれている加里とりん酸

 そしてその一つの方法が、「国内資源である堆肥の有効利用と、土壌診断に基づいた土壌中の過剰成分を効率的に活用する取り組みを行政とJAグループが一体となって展開」しようという「施肥コスト運動」だ(図1)

 図2は、ある県の全農県本部土壌診断センターによる加里の分析結果だ。これを見ると、水稲とお茶以外では、加里が基準以上にある畑が多いことが分かる。とくに野菜(露地)、花卉(露地・施設とも)、果樹、みかん(露地・ハウスとも)では、5割を超えるほ場で加里が基準以上にあることが分かる。
 理論的には各地域の「土壌改良目標値」(土壌診断基準値)を超えて、加里やりん酸が土壌中にあるのだから加里やりん酸の施肥量を抑えても問題がないといえる。施肥量が少なくてすめば、それだけコストを抑制することできるということになる。

◆堆肥の成分評価をし有効に活用する

 また、国内資源である堆肥を有効活用することで施肥コストを抑制することができる。ただ、堆肥については土づくり資材として位置づけ、堆肥中の成分評価を行っていない地域もある。こうした地域では、堆肥中の肥料成分評価をキチンとすればその分の成分を基肥から差し引くことができるので、肥料コストを抑制することができる。
 土壌診断の分析で過剰な成分がない場合でも、堆肥を使うことで、堆肥に含まれている肥料成分を評価すればその分だけ差し引いて施肥することができるので、コストの抑制になる。

◆地域実態に合わせて低成分銘柄を集約

 JAグループでは、過剰成分に対応した「低成分統一銘柄」をつくり普及していくことにしている。
 基本的にはりん酸と加里を抑えた「L字型銘柄」が中心だが、土壌の状態や地域、作物で違いがあるため「地域の実態に合わせて、できるだけ銘柄集約できる」ものにするという考えで進めていると全農肥料農薬部安全・安心推進課の矢作学調査役。BB肥料についても同様の考え方だ。
 現在、低成分銘柄については、全国255か所で普及展示圃を実施しているが、これから秋・冬にかけては麦などで展示ほ場が増えると全農ではみている。
 いずれにしても施肥コストを抑制するためには、土壌診断に基づいた施肥設計が必要だし、堆肥を使う場合には堆肥中の成分評価も加味したものにしなければならない。

◆試験場などとの連携が大事

 したがって、これは県や県試験場、普及センターなどとJAや生産部会が連携して実施することが大事だといえる。そのため全農では行政を含めた関係機関・関係者に協力を要請する活動も行っている。
 冒頭にみたように肥料価格の上昇はまだ続くと考えた方がいいだろう。そうした中でコストを抑制するためには、経験や勘だけに頼らず、研究機関や専門家と相談をして、科学的な根拠に基づく合理的な施肥をすることで、無駄をなくしていくことだろう。

(2008.07.15)