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事故米問題 内閣府の有識者会議で明らかに

事故米、昨年まで「極力主食用に充当」との規定も
米の輸入と運用の問題も今後の議論

 事故米が主食用に転売されていた問題で内閣府に設置された有識者会議(事故米穀の不正期流通に関する有識者会議:但木敬一座長)は10月27日までに10回の会合を開き、農水省からヒアリングを重ね問題発生の背景などを調査してきた。同会議は11月初めにも原因究明と責任の所在についての中間報告をまとめる。その後も再発防止策や米の流通も含めた制度など幅広く検討していく予定だ。これまでの会議で明らかになったおもな論点と会議で指摘された意見についてまとめてみる。

原因究明と責任問題で11月に中間報告

◆生産者が被害者、MA事故米の主食転売

農水省は事故米対策本部で調査と改革案を検討
農水省は事故米対策本部で調査と改革案を検討

 事故米問題がなぜ起きたのか、その原因を究明するために但木座長は「避けて通れないのがミニマム・アクセス(MA)米の問題」だとして、同会議には農水省からウルグアイ・ラウンド合意当時の文書や国会答弁などの資料が提出された。平成7年の輸入開始時からの用途別販売量や輸入価格なども示された(表)
 MA米運用について委員からこれまでに繰り返し出されている疑問が、SBS(売買同時入札方式)を除き主食用に回さず「国産米の需給に影響を与えない」とする政府の方針について。加工用や飼料用、援助にMA米は使用されているが「MA米がなければ国産米が使えるはず。当然、需給に影響があるはず」との指摘や、そもそもみそ、せんべいなど加工用には国産米が使われていたことから「国産を圧迫しているのは明らか」との意見も出ている。そのMA米で発生した事故米が主食用に転売される事態を招いたことから、「結局は生産者保護にもなっていないではないか」との厳しい批判もあった。
 委員からは今後の課題としてMA米の安全性確認や運用に無理があったのではないかとして「新しく制度を導入するには相当の議論がなされているはず。(当時の)責任者を呼んでヒアリングしたいぐらい」だとの意見も出たほか、「WTO協定のもとで米をどうするのかという問題にもなる」との指摘もあった。今後の議論が注目される。

◆事故米に取り扱いマニュアルなし

内閣府の野田大臣は「農水省はいまだ信用できない」と会議で話した
内閣府の野田大臣は「農水省はいまだ信用できない」と会議で話した

 MA米について政府は加工用用途に約600の業者、業界団体に販売してきている。農水省によると加工用MA米は毎月一回の定例販売を基本として、食用であるため着色はしないが主食用に転売されないよう変形加工して販売しているという。また、変形加工時の立会い確認と、買入業者の帳簿等の調査を行う(下図)。 また、平成18年度からMA米は飼料用にも売却されているが、これも飼料用のため着色はしないが、全農経由で配合飼料メーカーのみに売却されている。配合飼料製造設備を持ったところにのみ売却先を限定し、かつ米袋からのバラ化や、加工・配合時の立会い、帳簿確認を行う。
 一方、国産米ではカドミウム含有米が昭和40年代から問題になった。食品衛生法上の基準では1.0ppm以上となっているが、農水省は0.4ppm以上カドミウムが含有している米については買い上げている。ただ、政府米は現在、入札で買い入れるためにカドミウム含有米のみを買い上げることができないことから、米麦改良協会が行っているという。
 カドミウム含有米は昭和49年から合板接着剤用として売却することとされ、着色、加工立会いなどを行うことになっている。
 このように加工用米、飼料用米、カドミウム米については主食用への横流れ防止措置など要領で定めていたが、事故米については、工業用のり用途も含めて着色や加工時の立会いなどの横流れ防止の規定はない。事故米は国産米でも発生し、平成15年度から20年度までに発生した事故米7400トンのうち2115トンが国産米だ。農水省は事故米についての取り扱い要領を昭和40年に定めたが、「販売ではなく在庫処理」の感覚で扱ってきたという。
 ただし「物品(事業用)の事故処理要領」をみると、「事故品については、極力主食用に充当するものとし」が売却処理要領の前段に書かれている。「販売ではなく在庫処理」の考え方と農水省は説明するが、主食用に充当という記述からそれを読みとれるだろうか。しかもこの要領は平成19年3月に改正されたもので、この部分が改正されずに残ってしまったらしい。この点を会議で追求された農水省は「形式的な作り替えであって本質的に作り変えたとはいえない」と答えたが、改正された19年3月は、すでに三笠フーズの不正転売を告発する匿名の文書が東京農政事務所に届いていた時期である。
 また、事故米としての扱いを決めるのは地方農政事務所長などの権限で、販売についても10トン未満であれば所長等の段階で実施することができる。工業用ノリなど非食用としてきちんと加工され利用されているかの確認はあくまで契約に基づく立ち会いにとどまり検査といえるようなものではない。
その立ち会いは業者の加工計画書を参考に日時を決め、しかも対象数量の一部についてのみ行っていたという。
 「政府としてはお客さん。強制権限で調査を行うのか、という意識が強かった」と農水省は説明している。

◆アフラトキシンの重大性

 今回の問題となった事故米にはカビ毒のアフラトキシンの発生が確認されたものも含まれていた。アフラトキシンの危害は場合によっては残留農薬よりも大きい。残留農薬ならば時間とともに分解されていくが、アフラトキシンは保存状態によっては増殖する可能性すらある。
 この売却についても一般の事故米と同じ扱いで、着色することもなく売却された。健康被害の重大性を考えれば「着色もしなかったことはまったく説明できることではない」と農水省は弁明する。
 一方、輸入時に基準値以上の残留農薬が確認された米については、商社は廃棄や返送せず、ほとんどが非食用として流通させるという条件で国内に販売していた。物流のうえでは輸入商社から業者への直接販売だが、商流としては瞬間的に農水省と同価格で売買したことになっている。非食用として販売された輸入米はミニマム・アクセス数量としてカウントされる。だが、農水省は輸入商社が事故米を売却した業者に対する報告書の記載内容の確認や調査はまったく行っておらず、報告書も活用されていなかった。
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 そのほか有識者会議では生産国おける農薬使用実態の把握、情報収集体制も問題となったが、体系的な把握がなされていないことや、さらに基準値を超え食用に適さない米について生産国への返品がなぜ行われたないのかといった点も問題になっている。
 今後は三笠フーズへ96回も立ち入りながら不正が見抜けなかった点や、匿名の通報への対応についても検証される。委員の間からは「調査をすれば事実関係はそこそこ明らかになるもの。しかし、なぜ、そういう行動をとったのか、という理由まで解明しないと改革にはならない」との指摘も出ている。

(2008.10.31)