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「米流通システム」検討進む

トレーサビリティと原産地表示めぐる議論のポイントは?

 農水省は事故米問題をきっかけに米のトレーサビリティや米関連商品の原料原産地表示の導入を検討課題として米流通システムを見直すことにし、そのための検討会を10月に設置、これまで業界関係者からのヒアリングを含め6回の会合で議論してきた。農水省は11月中に米流通システムの骨格をまとめることにしており、検討会も11月27日にとりまとめを行う方向で検討を続けている。検討項目とされている(1)トレーサビリティ、(2)原料原産地表示、(3)流通規制と罰則、をめぐるこれまでの議論をまとめてみた。

◆米の「特殊性」が議論の土台

 残留農薬基準を超えるなど食品衛生法違反となることから「非食用」として販売したはずの米が、焼酎、菓子などの原料として「食用」に、さらには「主食用」にまで不正転売されていたことが明らかになった今回の事故米問題。しかも輸入米(MA米)がいつのまにか国産米に化けていた。
 こうした経緯から検討会では当初、「事故米が不正転売されない仕組みづくりを考えるべき」、「用途を限定した米が横流しされない規制を考えればいいのでは」といった意見も出た。いわば今回の事件を「特殊」なものとする見方だ。
 しかし、業界からのヒアリングを経て検討のとりまとめ議論を開始した第5回会合で農水省が示したのは国民にとっての「米の特殊性」という問題意識だった。米は主食として重要な位置を占めるだけでなく、米を主原料とした加工品はもちろん、調味料や米でん粉を使用した食品にまで使われている。
 事故米問題が明らかにしたのは、米はこのように広範に使用されており、一旦、健康被害が懸念される事態などが起きればその影響の及ぶ範囲は極めて広いということでもあるだろう。今回の問題はその広がりを逆手にとって不当に利益を得たともいえる。それを可能にしたのが「非食用」として安く仕入れる、という手口。MA米の輸入手続き、管理の問題も絡んでいた。
 検討会でも議論になったのは、もともと米には品質によって価格差があるにもかかわらず、見た目では識別できないということ。不当利益が生まれる余地もそこにあった。しかも実態として安い輸入米がかなり使われるようになっている。
 こうしたことから、米の流通履歴が確認でき(トレーサビリティ)、産地などを識別できる仕組み(表示)は国民の「商品選択に資する」のではないか、というのが検討の土台になってきた。

◆トレーサビリティの目的

 今回議論されている米のトレーサビリティは、(1)食品衛生法違反、(2)表示違反、(3)不正転売が明らかになったときに迅速に流通ルートを解明するために産地から関係業者まで「流通履歴」を記録、保存しておくというのが骨格だ。
 その対象品目をめぐり、米を原料とする調味料のようなものまで含めるのかどうか、という点が議論になっている。ただ、現行のMA米やふるい下米の使用実態、また、今後増えることが予想される新規需要米などの適正流通を視野に、できるだけ広範囲に検討すべきとの意見も出されている。
 また、流通履歴を記録する対象者、つまり、トレーサビリティの起点をどこに置くかも議論になっている。「生産者段階から」とする意見と「JAなどの集荷業者段階から」との意見がある。
 生産者段階を起点とすべきとする意見は、生産者の出荷先はJAとは限らないためというのが理由のひとつ。一方、産地の生産者は小規模農家、高齢農家も多く、生産体系も多様なため、トレーサビリティの起点は集荷業者段階を基本とし、一定規模以上の生産者は集荷業者と見なして流通履歴の記録、保存を求めるという仕組みにしてはどうかという主張も出ている。外食産業や量販店などの委員からは「実態からして、JAのカントリーエレベーターまで遡れればいい」、「生産者段階を起点にする必要性も分かるがその膨大な記録を川下で管理するのは無理」という意見も出されている。
 記録保存の期間や記録内容の検査、報告などのあり方も検討課題となっている。また、問題が発生したときの対象品目の回収や事業者公表などのあり方も論点になっている。
 この点については発生した問題によって対応が異なるのでは、という意見もある。食品衛生法違反であれば商品の回収・廃棄処分となるが、表示違反の場合、破棄処分まで必要かどうかという点だ。また、非食用米を不正に販売するなどの行為が明らかになった場合は、事業者に対して今後は米の取り扱いを認めないなど処分といった、「罰則規定」と絡めた対応も必要だとの意見もある。

◆「トレサ」と「表示」一体で

 米の原料原産地表示は、先に述べたように、国民の食生活に広範に使われているにも関わらず、外観では産地や品質が分からないという「特殊性」から一定の加工品に表示を義務づけようという考えがある。玄米と精米についてはJAS制度のもとで産地、品種、産年について表示義務が課されているが加工品にはない。
 一方、加工食品全般についての原材料表示議論ではこれまで加工度の低い食品から対象とし、現在20品目まで拡大してきている。しかし、検討会では米の食生活に占める位置から、これまでの原料原産地表示の枠組みを越えて実現すべきだと強調されている。
 表示内容は国産米(産地名)であるか、外国産米であるかというのが基本。ただし、対象商品は「ご飯として提供されるもの」と「米原料の製品として国民生活に深く根づき原料米産地情報を伝える必要性が高いもの」を範囲として議論している。
 「ご飯」ではおにぎり、コンビニ弁当、寿司、加工米飯や、外食で提供される定食なども含め、商品や店頭で原産地表示をしようということ。一方、「米原料の製品」とは、日本人にとって米が材料となっていることがいわば常識になっているせんべいやあられ、団子などの食品だ。ここに加えて米を原料とした調味料なども対象にするかどうかが論点になっている。
 検討会では加工業者の委員から表示について「他の食品とのバランスを考えるべき」との異論が出されている。たとえば、麦を原材料にした製品と店頭では競争関係にあり、「米を使った製品だけが表示義務を課されるのは不公平」という意見だ。原料調達先が一定ではなく、原産国が変更になれば表示を表記した包装紙などが大量に無駄になるという。また、現在でも外食産業では産地情報をパンフレットなどにして消費者に提供しているが、産地が変わるたびに表示を変更しなければならないとコスト増になるという指摘もあり「表示方法の工夫も考えるべき」との意見も出ている。 しかし、消費者の信頼回復と米の適正な流通確保のためには、トレーサビリティと表示を一体として考える必要があるとの意見も強い。つまり、トレーサビリティの対象品目、対象業者として規定したものと、表示の対象品目が一致しなれば信頼される流通システムとして機能しないということだ。
 委員であるJA全農米穀部の川?ア史郎部長は「最終的な消費者の選択が中間業者の行動を変える」と表示の重要性を指摘、国産の米を認知してもらうにも表示対象を幅広く考えるべきと主張している。
 また、流通規制についても、トレーサビリティと表示を一体として機能させれば適正な流通が確保されるとの意見も多い。ただし、表示やトレーサビリティを実施し適正流通の実効を確保を図るためには、米の取り扱い業者が一定の要件を備える必要があることから、許認可制などの規制強化が必要との意見も出ている。

米流通システム 検討の論点

【トレーサビリティ】
目的:問題発生時に流通ルートを迅速・的確に解明し、(1)食品危害の発生・拡大を抑制、(2)表示の適正化、(3)適正な流通の確保により消費者の信頼確保を図る。
仕組み:対象品目の範囲で対象事業者が流通履歴を記録、保存する仕組み。
対象品目の範囲:(1)米穀のまま流通するものおよび原料米穀、(2)さらに味噌、米菓、米粉パンなど加工品、米を原料とする調味料などまでを範囲とするかどうか。
対象事業者の範囲:対象品目を取り扱うすべての事業者とするかどうか。生産現場では委託販売先(JA等)を対象事業者とするか。
記録の内容:(1)入出荷ごとの名称・内容(産地や用途など)、(2)入出荷数量、(3)入出荷年月日、(4)入出荷の相手側の氏名や名称、(5)入出荷の対応関係を識別できる必要事項、(6)その他、荷姿など。
記録の保存期間:一律か、品目の賞味期限に応じた期間か。
記録内容等の担保措置:(1)定期報告、(2)報告徴求および検査、(3)罰則をどう考えるか。
問題発生時の対応:対象品目の回収や事業者公表をどう考えるか。
【原料原産地表示】
目的:米穀の原産地は関心が高い事項だが外見では識別しにくいことから、消費者の適切な商品選択に資するよう一定の加工品に表示を義務づけ。
対象品目の範囲:(1)ご飯として提供されるもの(定食、おにぎり、寿司、コンビニ弁当、出前等)、(2)米を原料とした製品として国民生活に根づき、産地情報を伝える必要性の高いもの(せんべい、あられ、だんご等)
対象事業者:対象品目を扱うすべての事業者とするか。
表示の仕方:対象品目そのものへの表示を基本とし、店内掲示やメニューへの掲示でもよいとするか。
表記の仕方:(1)国産米は産地名、または「国産米」と表記、(2)輸入米は原産国名を表記、(3)国産と輸入のブレンド米では重量割合の多い順に表記。

(2008.11.20)