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加工・業務用野菜(1)

輸入野菜に依存する加工・業務用
―国産使用で自給率の向上を
東京農業大学教授 藤島廣二

 いま野菜の需要に大きな変化が起き、家庭用需要よりも加工・業務用需要が大きくなっている。そしてその加工・業務用野菜は輸入野菜に大きく依存しており、かつて90%以上あった野菜の自給率が80%台に低下した。そのため国内産地の対応が強く求められている。そこで、こうした事態になった背景について、農水省の「今後の野菜政策検討会」の座長を務められている藤島廣二東京農業大学教授に聞いた。なお、本紙では引き続きさまざまな視点からこの問題を取りあげていくことにしている。

◆円高と輸送技術向上が輸入を増やす

 業務用・加工用野菜が必要だという大きな理由は、輸入野菜が増え自給率が下がってきていることと、家庭用需要より加工・業務用需要が伸びているからです。
 野菜の輸入は1985年は100万トン程度でしたが、ピークの2005年には生鮮換算数量(加工製品量の約1.5倍)で480万トンに増え、野菜の自給率が80%を割ってしまいました。
 なぜ85年あたりから輸入が増えたのかというと、一つは、冷蔵・冷凍機能付の海上コンテナが普及し、生鮮ものが扱えるようになったからです。葉物野菜とか生鮮野菜は輸入などできないだろうということで、一部例外を除いて自由化品目で関税率はだいたい3%前後です。ところが生鮮品を輸入できるような技術が開発されてしまい、輸入が大きく伸びたわけです。
 もう一つの要因は円高です。85年9月にニューヨークで開かれたG5でドル安にするという「プラザ合意」がされました。ドル安ということは円高ということで、85年の年平均では1ドル240円くらいでしたが、9月以降はどんどん円高になり10月には1ドル200円を割るようになり、95年4月19日には79円75銭と円の価値が3倍になります。ということは、輸入価格が3分の1になったということです。
 そして円は中国の元に対しても強くなります。85年当時、1元は110円ほどでした。それが95年には1元12〜13円と、元に対する円の価値は9倍前後になりました。その結果、中国からの野菜輸入量が大幅に伸びました。

◆冷凍野菜の国産シェアは10%

 ここで特に注目したいのは、輸入のなかでどういうものが伸びてきたかです。図1のように、生鮮野菜輸入量のピークは05年の111万トンです。それに対して加工野菜を生鮮換算すると06年は340万トン輸入しています。つまり加工野菜が生鮮野菜の3倍も多く輸入されているということです。

図1


 図2は冷凍野菜の輸入物のシェアをみたものですが、国産野菜は年間で10万トン程度しかありませんが、輸入冷凍野菜は多いときには年間80万トンを超えています。生鮮換算すると120万トンです。つまり国産のシェアは10%程度しかないということです。

図2


 また、加工トマトについてみると、国内産は年間で4〜5万トンですが、輸入は製品数量で約20万トン、生鮮換算すると80万トンあります。つまり加工トマトの輸入品のシェアは95%、自給率はたったの5%です。
 最近は、生鮮野菜輸入は05年の111万トンから08年は60万トンへ半分くらいに減っています。しかし、冷凍野菜はピークだった07年は86万トン弱でしたが08年は80万トンと1割も減っていませんし、トマト加工品の場合は増えています。
 こうしたことから、野菜の自給率を高めるためには、加工品対策をしなければならないことが分かります。

◆家庭用での輸入品シェアはわずか2%

 05年に実際に生鮮、加工品を含めた輸入野菜がどこで使われているのかをみたのが図3ですが、輸入生鮮野菜100万トンのうち80万トンくらいは直接あるいは卸売市場や小売業者を通じて加工・業務用に仕向けられています。

図3
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  そして輸入加工野菜300万トンのうち200万トンはそのまま加工・業務用に仕向けられています。残りの100万トンは小分けパックされた冷凍野菜のように小売店を通じて消費者に販売されたり、外食などで利用されているわけです。
 生鮮・加工を合わせた輸入野菜400万トンのうち「生鮮80万トン、加工品200万トン+α」の約300万トンが加工・業務用に仕向けられているわけです。国産も600万トン近くが加工・業務用に仕向けられているので、加工・業務用での輸入物の割合は30%強ですが、家庭用生鮮野菜での輸入物の割合はたった2%にすぎません。この30%と2%の比較で、加工・業務用の場合、いかに輸入物が多いかが分かります。

◆増加する消費者の中食利用頻度

 私たちが行った調査によると、中食の利用頻度は、年齢が高くなるほど高くなります。なぜかというと、自分で素材を購入して調理すると時間がかかり、身体に負担がかかること、また家族が2人になったり、独居であったりすると無駄がでるのでと、惣菜とか中食を利用する頻度が高まってくるわけです。
 中食が増えるということは、中食用の業務用野菜需要が増えるということです。総務省の「家計調査」をみても惣菜への支出は急激に増えていますが、生鮮野菜については横ばいないしは減少の傾向なっています。
 したがって、これからは生鮮で国内産地を拡大することは、非常に難しくなってきているといえます。

◆中間事業者の活用で安定した供給体制を築く

 それでは、従来の家庭用と加工・業務用ではニーズがどのように違うのかというと、家庭用は、鮮度も含めて外観が重視されます。一方、加工・業務用では、用途別に多様ですが、一般的には加工の歩留まりを重視した大型規格が求められますし、加熱調理用では水分含有率が低い品種が求められます。
 また出荷形態でも、家庭用は小分け包装とか袋詰めされますが、加工・業務用ではバラ詰め・無包装で出荷コストを削減するとか、求められる品質や規格また価格形成面でも家庭用とは異なる要素があり、それにどう産地として対応していくかがあります。
 加工・業務用野菜で契約栽培をする場合には「コーディネーター(中間事業者)」を活用することが重要になると思います。中間事業者の役割は、販売先の要望に応える品揃えとか、多数の産地をバックにした継続的な供給(産地間リレー出荷による周年供給など)などがあり、これを産地が活用していくことで、加工・業務用業者とスムースな関係を築くことができ、安定した供給体制ができると思います。
 (本稿は2月25日に開催された「第3回JAグループ国産農畜産物商談会」のセミナーにおける藤島教授の講演内容を本紙が要約したもの)

(2009.04.14)