コラム

今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

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【今村奈良臣】
JA新ふくしまが青年農業経営塾を開塾

 JA新ふくしまが、青年農業経営塾を去る10月23日に開塾した。私の知る限りでは、JAがその中心になって農業経営塾を開設したのは先例が無く全国で初めてではないかと思う。「農業ほど人材を必要とする産業はない」という私の信念と合致するので老骨に鞭を打って塾長を引き受け、10月23日の開塾式ならびに記念講演を行った。

◆自らの農業経営を切り開こう

 青年農業経営塾の開塾に当たり、その創設の目的を次のように述べている。
 「農業を取り巻く環境は厳しく大転換期を迎えていると言われているが、それは現代ばかりではなく、いつの時代にもそう言われ続けてきた。
 しかし、グローバル化の進展により、大きく変化する経済情勢や食糧事情、また環境事情など農業を取り巻く多くの情勢変化をより正しく理解し、新たな発想や創意工夫により、自らの農業経営を切り開くことが、これからの農業者には不可欠であり、管内の未来の農業を担う後継者を中心とした農業者支援策及びJAの組合員教育活動の一環として『農業経営塾』を開催する」とその目的をうたっている。
 そのうえで「何かを変えたい、新しいことにチャレンジしたいとお考えの皆様の参加をお待ちします」と呼びかけている。この呼びかけの結果、定員50名のところへ実に61名の方が登録されたようで、開塾式では大会議室はJA関係者も含めて満員となり、女性の姿も多く、塾生たちの眼は輝いていた。


◆ASTの活動が基盤

 以上のJAの呼びかけだけで、塾生希望者が集まったのではなく、その基盤と背景には、ASTのめざましい活動があったように思う。
 ASTとは何か。JA新ふくしまでは昨春からASTを設置して目を見張るような活動をこの1年半進めてきた。
 ASTとは
 A=アグリカルチャー:Agriculture:農業
 S=サポート:Support:支援
 T=トータルチーム:Total Team:全てを掌るチーム
 つまり、ASTはJA新ふくしま管内の地域農業を担う経営体の農業経営者(認定農業者、農業生産法人、集落営農等も含む)や次代を担う青少年達を対象に、JAとの新たなリレーションシップを再構築する農業経営支援チームの愛称である。このASTは、「明日人(アスト)」とも読めるらしい。「明日(未来)の農業とJAを担う人達」という意味と、農業(A)、振興(S)、対策室(T)という意味も併せ持たせているようである。
 事実、農業振興対策室長以下7人の優秀な職員の皆さんが、先頭を切って地域や経営の抱えている多様な課題解決のために活動している。そして、このASTを通してダイレクトメールや面談を通して塾生たちが集まってきたようである。
 なお、ついでながら述べておくと、全農が全国に渡って推進しているTACとほぼ同じようなものだが、ASTの方がより積極的で濃密で活動成果も大きいのではないかと私は見ている。


◆開塾式での「会長の想い」

 さて、青年農業経営塾の開塾式にあたり、JA新ふくしまの経営管理委員会会長の吾妻雄二氏は次のような趣旨のあいさつをされた。要点のみ記しておこう。JAはいかにあるべきかが簡潔に述べられている。
 「トップとしてJAに足を踏み入れてみると、農業、農家組合員、地域によって成り立っているはずなのに、『農』や『食』を離れた金融・共済を中心とした事業推進大会や事業運営にシフトされた状況が続けられてきたように感じてきた。また、支店や施設の統廃合を通じ、見かけは経営基盤や財務基盤を改善してきた。
 しかし、JAの軸である多くの生産農家組合員は、自らのJAでありながらも事業利用と経営参画に距離を置くようになったことは、大いなる反省と改革を求められるし、JAの心臓部をもぎ取られたような想いである。
 本来あるべき『組合員による、組合員のためのJA』への道程は大変厳しいものであるが、そのとき思いをめぐらした青年たちと我々が立ち上がり、組合員主体のJAづくりに本気で取り組んでいきたい。
 我々は、過去、現在、未来の狭間に立ち、農業に新しい価値の創造を作り出し、元気な農家、元気な農業、元気な農村を支える農業経営者を育んで行かなければならない。その結果は、地域のど真ん中にあるJAとなり得るはずである」
 このように開塾にあたり吾妻会長の言葉は大変力強いものであった。


◆特別講義の要点

 開塾の講演として私は「JAは今こそイノベーション(自己革新)の推進を」という課題と「地域興しへの私の10の提言」を、特に青年農業経営者が多いことに注目して行った。
 その要点をここでは紙幅の関係で簡潔に述べ、改めて次の機会に詳しく展開してみたいと考えている。
 前者については、JAは、(1)JA役員、(2)JA職員、(3)JA組合員、(4)JA青年部、(5)JA女性部、(6)JA直売所などのJA関連企業など、各階層にわたり、全面的にイノベーション(自己革新)を進めなければならない。
 それら各階層で取り組むべきイノベーションの課題は、(1)人材革新、(2)情報革新、(3)技術革新、(4)販売革新、(5)経営革新、(6)組織革新、(7)地域革新の7つの課題のすべてにわたって進める必要があると説いた。紙幅の制約でここでは詳しくは省略せざるをえない。
 次いで「地域興しへの私の10の提言」では、次の10項目にわたる提案を、特に青年農業経営者が多いことに注目して行った。しかし、これも項目を並べるだけで、他日、詳しく述べることにしよう。
 1.Challenge! At your own risk(全力をあげて挑戦せよ、そして自己責任の原則を全うせよ。)
 2.Boys, be aggressive!(自らの新路線を切り拓き積極果敢に実践せよ。)
 3.農業ほど男女差のない産業はない。JAは女性の正組合員化を全力をあげて進めよう。
 4.『多様性の中に真に強靭な活力は育まれる。画一化の中からは弱体性しか生まれてこない』『多様性を真に生かすのがネットワークである』
 5.ChangeをChanceに。逆風が吹かなければ凧は揚がらない。
 6.ピンピンコロリ路線の推進を。高齢技能者を真に生かす道を作ろう。
 7.計画責任、実行責任、結果責任の明確化を。
 8.皆さん、全員、美しい魅力的な名刺を持とう。情報発信の原点だ。
 9.農業の6次産業化(1次×2次×3次=6次産業)ネットワークを推進しよう。農商工連携を推進しよう。
 10.「所有は有効利用の義務を伴う」、農地は子孫からの預かりものである。
 
 いずれ上記の講義の内容については別の機会に展開してみたい。

JA新ふくしまが青年農業経営塾を開塾
(イラスト・種田英幸)

(2009.11.12)