コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
「食糧自給率」の格下げ

 政府は、今後の農政の目標として「自給率」は不十分だから「自給力」で補完すると言い出してきた。行政が勝手にそんなことをしていいのだろうか。

 去年のいわゆる「骨太方針」には「自給率」という言葉があったが、今年からは消えて「自給力」に代わった。昨日、農水省は「自給率」は不十分だから、「自給力」で補完すると言い出した。いよいよ「自給率」は格下げになった。
 農基法では、基本計画の中で今後の自給率の目標を定め、国会に報告することを政府に義務づけている。農基法の制定当時、この条文は政府原案にはなかったが、国会での野党との激しい協議の結果追加したものである。それだけに、この条文は与・野党とも注目している条文で、その事実上の修正は国会を軽視するものである。
 修正の内容はどうか。農地と人と技術とで構成して新しい自給力の指標にしようというのである。農地はともかく、人や技術などという漠然としたものを入れることで、恣意的な、かつ不透明な指標になることは容易に予想できる。
 今までの自給率も実際に計算しようとすると、飼料の部分に不透明な部分があって、その点で不十分ではあるが、しかし、今度の政府の修正は、不透明さをさらに強めることになるだろう。農政の重要な目標が恣意的で不透明になることで、農政論議はふつうの人に分からなくなってしまうことが心配だ。目標は客観的で誰にでも見える透明なものでなければならない。
 自給率向上の目標が思うように達成できないから、いっそのこと、目標の計算方法を変えてしまえ、という発想なら論外である。

(前回 米粉パンを日本のパンにしよう

(2009.06.25)