コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
民主党と農協の関係修復を急げ

 いよいよ民主党の農政が始まろうとしている。目玉は所得補償政策である。新聞などは、この政策を直接所得補償政策といって、「直接」を強調している。それは農協を関与させない、という意味だという。農協は不快感を示すが、民主党の説明はない。

 ここで思い出すのは、先月の総選挙の中で行われた激しい論争である。それは、民主党が政権公約で示した、アメリカとのFTA交渉を促進するという点の論争である。農協は全国集会を開き、日本農業を崩壊させるものだから断固阻止するというし、民主党は所得補償制度をつくるから農業を犠牲にすることはないといい、さらにある幹部は、反対する農協は相手にしない、とさえいっている。
 従来から、農協と民主党との関係は親密なものではなかった。農協側は、民主党は都市型の政党で農業を軽視している、という先入観があったし、そのため、選挙では民主党を支持しなかった。また民主党側は、農協は官僚化していて、既得権益を守るだけの組織だという先入観があった。
 だが、民主党は農業を軽視しているわけではない。これまでの自民党の選別政策に反対し、大規模農家だけでなく、小規模農家も重視することが農業の再生になるとし、すべての農家を対象にした所得補償政策を掲げ、多くの農業者の支持を得て選挙で圧勝した。だが農業者はFTAで農業が犠牲になることを憂慮している。
 また、農協の一部が官僚化しているのも事実だ。だが、大部分の農協は「一人は万人のために、万人は一人のために」という崇高な精神で活動しているし、多くの農業者から信頼されている。
 民主党と農協との間で話し合いをすすめ、誤解に基づく不信感を一掃し、関係を修復することは急務だろう。そうすることで民主党は確固とした支持基盤を農村に築くことができるし、農協は農業再生のために、現場の実態に即した要望を国政に反映させることができるだろう。
 所得補償制度は2011年度から実施する予定で、今後1年間かけて慎重に制度設計をするのだという。また10年度の予算編成はすぐ始まる。いよいよ民主党の農政が予算の裏付けをもって始まろうとしている。いまこそ農業者の要望を農協がまとめ、民主党に示すよい機会である。

(前回 民主党農政への期待と注文

(2009.09.07)