コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
戸別所得補償制度の予算は圧縮か

 先日、財務副大臣は、農水省が予算要求している戸別所得補償制度について、予算を圧縮するように要請する、という主旨の発言をした。そのためにいくつかの論点を示した。いずれもこの制度の目的からみて、的外れの論点と言わざるをえない。
 それぞれを検討しよう。

 26日に財務副大臣が言った論点を整理すると、次の5点になる。
 なぜ米なのか
 なぜ対象地域を限定しないのか
 なぜ農家を限定しないのか
 「助成水準」が妥当か
 なぜ国が全額負担するのか
 これらを考えてみよう。

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 第1点で、副大臣は「供給能力が過剰である米に対して、政府が生産維持のための支援を行う理由は一体何なのか。米以外の作物に対する支援で代替することは出来ないのか」という疑問を持っているようだ。この制度にはモデル事業と関連事業とがあって、関連事業は米以外の作物に対する支援である。これも圧縮したいという発言もした。つまり、なにもかも圧縮したいように聞こえる。
 この制度の目的は、食糧自給率の向上であることを、あらためて明確にすべきだろう。だから対象は米なのである。自給率向上のために穀物生産を振興し、水田農業を全体として再生させることが、この制度の目的なのである。
 この政策は民主党の最重要な政策だった筈である。多数の国民の共感を得て、参議院選挙でも衆議院選挙でも圧勝したが、その大きな原因はこの政策にあったのだ

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 第2点だが、モデル事業は関連事業と合わせて、この制度がわが国の水田農業の全体に、つまり、供給量や価格にどのような変化をもたらし、自給率をどの程度向上させることができ、どこに改善すべき問題があるか、を探り出すためのモデル事業なのである。地域を限定したのでは、個々の農家がカネでどう動くか、などという矮小なことしか分からないだろう。それこそ税金のムダ使いである。
 第3点だが、全ての農家を対象にすることは、民主党農政の初心だった筈だ。首相が国会で「規模や年齢にかかわらず」制度の対象にすると発言したことを、ここでもういちど思い出してほしいものだ。これまで自民党が行ってきた、構造政策という名前の選別政策をやめることに、大多数の国民は共感しているのだ。自民党農政のこの残滓を捨てることこそ、国民の支持に答える道だろう。
 第4点は、補償水準を下げたいというのだろうが、いま想定している補償水準は経営費に家族労働費の8割を足し算する、という生産費にはほど遠い、充分に低い水準なのである。自作地地代と自己資本利子は無償で社会に贈与せよという水準である。これをさらに下げたいというのだろうか。

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 第5点は、県と市町村と農業者にも負担させたいという内容だ。いったい、この制度の目的は何なのか、もういちど考えてほしいものだ。
 この政策は、食糧自給率を向上させるための国の政策なのである。農家の窮状を救う政策ではない。県や市町村の政策でもない。だから全額を国が負担すべきなのである。
 政策目的を忘れた政治家が、とにかく予算を圧縮する、というのが政治主導だとすれば、国民は政治に絶望するしかない。
(前回 自給率を5%上げる法) 

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(2009.11.30)