コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
高齢農業者に手切れ金

 自民党が、農業者に退職金を支払う制度を構想しているようだ。参議院選挙を目前に控え、民主党との違いを際立たせる、というのだろうが、慎重な検討が必要だろう。
 以前から自民党は、民主党農政は構造政策に逆行している、と批判していたが、先月、「成長のための24の個別政策プラン」を発表した。この中で、農業者の退職金制度を提唱している。これが自民党の構造政策だという。
 その詳細は明らかにしていないが、農業者の若返りのためだというから、高齢者に早く農業をやめさせることを狙っているのだろう。高齢農業者への手切れ金なのだろうか。

 この政策は、民主党農政の看板である戸別所得補償制度が、全ての農業者を対象にしているのと比べて正反対の政策といえる。つまり、農政の対象から高齢者をはずし、若い大規模農業者に絞って、そこに支援を集中するというのである。それが自民党農政の構造政策なのだろう。「平成の農地改革」とまで銘打っている。
 だが、こうした選別政策は、3年前の参議院選挙での大敗に学んで修正した政策ではなかったか。この経験を、自民党は忘れたのだろうか。
あのとき民主党は、年齢にかかわらず、また、規模にかかわらず、全ての農家を対象にした戸別所得補償制度の創設を選挙公約に掲げ、多くの国民の支持を得て大勝した。

2009年の年齢別農業従事者数

 農水省の資料でみると、表で示したように、高齢農業者(55歳以上、高年齢者雇用安定法の定義)は全農業者の約6割を占めている。自民党は、この人たちが農業をしているから、農業構造が脆弱になっている、と考えているようだ。この人たちを邪魔者扱いして冷遇し、農業から引退させることが、自民党の構造政策だ、というのだろうか。
 こうした、いわゆる構造政策の致命的な欠陥は、6割を占める高齢農業者が農業から追われたとして、その後で何をするか、という点にある。政治はそこまで面倒をみられない、市場に任せばよい、というのだろうが、現実には、高齢農業者は農業以外で働く場はない。だから、この政策は高齢農業者に対して、働くなというに等しい。
 これは長い間、働いてきた高齢者に報いる政策ではない。冷酷で陰性な政策である。高齢者を農業から葬り去り、その累々と横たわる屍の上に、いったい、どんな美しい農業の将来像を描くのか。

◇   ◇

 このような自民党の構造政策は、選挙の度ごとに修正を余儀なくされ、遂に実現することがないだろう。
 それよりも民主党のように、高齢農業者も元気に働いて、崇高な国家戦略である食糧安保のために貢献して下さい、という政策のほうが、はるかに良質な政策である。いまでも危機的な状況にある食糧安保体制は、6割を占める高齢者の尽力がなくなれば、跡形もなく崩壊するだろう。ばらまき批判に惑わされてはならない。
 両党の間に、こうした対立があるのは、両党の農政の目的に大きな違いがあるからである。民主党は食糧安保を農政の第1の目的に掲げているが、自民党は国際競争力の強化を第1の目的にしている。

◇   ◇

 国際競争力の強化と食糧安保が両立するなら、問題はそれほど深刻ではない。だが、わが国は風土的および歴史的条件のもとで、国際競争力を強化できる部門は限られている。ことに食糧安保の中心的な役割を果たす穀物部門が、国際競争力を持つことは、100年後はともかく、この数十年の間は期待できない。
 だから、国際競争力を強化するという自民党の農政は、食糧安保を危うくするだけに終わる政策である。それは米の輸入のさらなる自由化は避けられない、という幻想を前提にした政策である。このことを自民党は、しっかりと認識していないようだ。
これに対して民主党は、食糧安保を重視するのなら、国際競争を想定してはならない。財界の要求に抗して、米の輸入のさらなる自由化は避けることを明言し、食糧安保を国家戦略にする、という高邁な理念を鮮明に示すべきだろう。
 以上のように、両党の対立の根源には、食糧安保か米輸入のさらなる自由化か、という二者択一の選択を迫る対立がある。それが原因で、高齢農業者の役割の評価が全く違っている。
 最後に付言するが、食糧の生産コストを下げ、安価で供給することは、いうまでもなく、農業の永遠の責務である。だが、そのために国際競争を持ちだしてはならない。

(前回 山田農水大臣の課題は米価下落の歯止め

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(2010.06.14)