コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
農業の老人パワー

 農家の高齢者は元気だ。日本農業の立派な担い手で、若者といっしょになって食糧を作り、日本の食糧の安全保障に重要な役割を果たしている。
 だが、そう思う人ばかりではない。高齢者が早く引退して、若者だけが担い手になれば、日本の農業はもっと良くなる、と考えている人も少なくない。そう言って若者に秋波を送り、高齢者を邪魔者扱いする。
 参議院の選挙戦がたけなわだが、各政党は、この2つの考えのどちらを採っているか。それを見極めねばならない。それは、若者と高齢者を敵対させ、互いにいがみ合わせよう、として注目するのではない。それが、各政党の農政の基本を形作っているからである。

1940年代前半に生まれた人たちの就農者数の推移 1つの重要な事実を、国勢調査の数字で見てみよう。
 はじめから、やや脇道にそれるが、国勢調査は全ての国民を調査の対象にしている。だから、こうした事実が分かる。しかし、農水省は高齢者や兼業者などの小規模農家を邪魔者扱いして、まともな統計をとっていない。だから、農水省の統計では、残念ながら、こうした重要な事実が分からない。

◇   ◇

 さて、図は1940年代前半に生まれた全ての国民のうち何人が、その後、農業者(農水省の定義とは違う)になったか、その推移を示したものである。
 この図を詳しく説明しよう。この人たちは1980年の時点では年齢が30歳代後半になっていて、33万人が農業者だった。その後5年経って、年齢が40歳代前半になったが、その間に3万人が農業をやめたので、30万人に減った。その後、5年ごとの推移をこの図で示している。

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 この図で注目したいのは、2000年から2005年の5年間で、この世代の農業者が25万人から33万人へと8万人増えたことである。2000年の時は、この人たちが60歳代前半の年齢になった時である。だから、このことは、60歳までは兼業しているが、60歳を超えると、つまり、定年になると兼業をやめて、農業を始める人が多い、ということを意味している。
 このように、60歳を過ぎた人たちが、次々に農業を始めている。はじめに、重要な事実といったのは、このことである。

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 こういう意見がある。農業者のなかで高齢者の割合が増え、若者の割合が少なくなっている。だから日本の農業は効率が低く、国際競争に勝てない。高齢者は早く引退してもらいたい。
また、こういう意見もある。若い農業者は少ないし、高齢の農業者はやがて引退するから、やがて農業者の総数が減ってしまう。そうなると日本の農業は深刻な危機を迎える。

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 そこで、この図から、こうした意見を考えてみよう。農家に若者がいない訳ではない。いるけれど、農業では食っていけないので、農業は高齢者に任せて、若者は兼業している。しかし、60歳を過ぎて定年になると、兼業をやめて農業を始めるのである。
 このように、農業には高齢者が次々に入ってくる。だから、いつまでたっても若者だけの農業構造にはならない。そうした高齢者を邪魔者のように扱って、早く農業をやめるように迫る農政がよいのだろうか。

◇   ◇

 同じ資料でみると、60歳以上の高齢の農業者は全体の農業者のうちで64%を占めている。65歳以上でも過半数の51%を占めている。だから、もしも、高齢者がやめてしまえば、日本の農業は衰退してしまう。農政の最重要課題である食糧安保は危機的な状況になる。
 そうした状況を避けるには、高齢者と若者が互いに協力しあえるような農政を行わねばならない。
 高齢者を農政の対象にすることが、ばらまきだ、とか、構造政策に逆行する、とかいう政党がある。そう言うのはどの政党か、参議院選挙にのぞんで、慎重に見極めねばならない。

(前回 民主、自民両党の農政理念と現場主義

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(2010.07.05)