コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
米粉パンをもっと安く

 食べ物は「旨くて安い」のがよい。いまは順序が入れ替わって「安くて旨い」のがよいようだ。米粉パンも安くて旨いのがよい。だが、安くないのではないか。安くすれば、もっと需要が増えるだろう。米粉パンは高いから小麦パンを食べる、という人を減らせないものだろうか。
 米粉の供給量は、まだまだ増やせる。だが、農業者を犠牲にして、つまり損をさせてまで安くせよとはいえない。
 米粉パンをもっと安くして、普及させる責任は政治にある。

 食糧政策とは、どんな食べ物を、どの国民に、どれほど食べてもらうか、という国家にとって最重要な政策である。
 その上に、近年では、安心して食べてもらう、ということが加わった。食品の安全問題だけでなく、食糧の安全保障、つまり食糧自給率向上の問題である。
 そこで浮かび上がったのが、国産米を米粉にして作る米粉パンである。米の微細粉末化の技術が開発され、米粉でパンが作れるようになった。そして与野党は、こぞって米粉パンの普及による食糧自給率の向上を、食糧政策の基本に据えるようになった。
 この政策に応えられるように、農業者や加工業者や消費者を誘導するのは、政治の責任である。だから、高いのが普及の障害になるのなら、安くすることは政治の責任である。

◇   ◇

 表は米粉用米の県別の生産量である。この表で目立つのは、新潟が突出して多いことである。米粉用米の需要は全国に、まんべんなく潜在する。この潜在需要を掘り起こすことに新潟は成功したのだ。新潟では、県や市町村が米粉用米の生産を増やす政策をとって成功したのである。
 他の県も新潟にならい、また、全国で政府が先頭に立って推進すれば、米粉用米を増産する余地は充分にある。
 表で示したように、新潟では生産した米の1.47%を米粉にしている。もしも、全国の各県が新潟に見習って1.47%の米を米粉にすれば、全国の米の生産量は856.6万トンだから、その1.47%の12.4万トンが米粉になる。
 09年産は1.3万トンを米粉にしたが、10年産は、作柄にもよるが、約2倍になるだろう。倍々ゲームになっている。数年後には12.4万トンになるだろう。
 そうなれば、赤松広隆前農水大臣が掲げた、米粉を100万トン生産する、という目標は、それほど遠くない将来に実現できるだろう。そして、自給率を力強く向上させることができる。

◇   ◇

 そのためには、米粉パンを「安くて旨く」しなければならない。旨くするには、国民の味覚を変えることが肝心である。わが国には貴重な経験がある。第2次大戦後、それまでは代用食だった小麦パンを、主食にする政策をとって成功した。つまり、政治が国民の味覚を変えたのである。
 また、世界をみると、アメリカでは、アメリカ産の小麦から作った柔らかいパンが旨いパンである。しかし、フランスではフランス産の小麦で作ったパンこそが旨いパンで、アメリカの柔らかいパンは、パンではないという。
 同じように、日本では、日本産の米で作った、もちもちした米粉パンこそが旨いパンで、小麦パンはパンではない。そのように政治が誘導すれば、国家戦略である食糧自給率の向上に大きく貢献できる。

◇   ◇

 最後になるが、米粉パンの安さについてである。いまのところ、米粉パンは小麦パンよりも3【?】5割ほど高い。だから需要がなかなか伸びない。小麦パンよりも安くすれば、潜在する米粉パンの需要を、大量に掘り起こすことができるだろう。
 それには、農業者や加工業者の努力だけに期待し、また犠牲を強いるのではなく、政治の責任で、もっと安くできるような制度を充実させねばならない。今後、いっそうの政治の努力を期待したい。

米粉用米作付割合


(前回 ロシアが小麦の輸出を禁止した

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(2010.08.31)