コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
TPP問題で逡巡する日生協

 組合員数が1800万人で、全国の35%の世帯が組合員になっている生協の全国組織である日生協は、TPP参加の賛否を決めていない。
 労働組合の連合は、条件つきではあるが賛成だし、生協の組合員の中には連合の組合員もいて、賛成の人もいるし、反対の人もいる、消費地の組合もあるし、生産地の組合もある、だから、日生協としては態度を決めかねている、という。極端な意見もあるので、もっと冷静な議論をするために、3月上旬に討議資料を作りたいと言っていたが、まだ作っていないようだ。
 しかし、現場では、コープさっぽろやいわて生協やみやぎ生協や高知県生協連など、多くの組合が反対を決めている。
 日生協としては、連合のように、条件つきで賛成、といいたいのだろうが、現場の声を無視することができずに逡巡しているのだろう。

※ 文中リンクから「国会中継」HPに接続します。音声が出ますので、ご留意ください。

 日生協の以前からの主張をみると、05年の提言でも言っているように、食料は輸入品を含めて選択の巾を広げ、納得できる価格で供給する、というものである。先月の国会でも、日生協はこの主張を繰り返していた
 こうした主張の行きつく先には、TPP参加に賛成という主張がある。
 だが、日生協の主張には、これとは相反する食の安全と安定供給という主張もある。ここにも逡巡している理由があるのだろう。
 いくつかの問題点がある。

 食の安全とはいっても、そこには安易な見通しがある。TPPは、それほど甘いものではない。
 また、安定供給とはいうが、食糧安保とは言わない。ここにも安易な考えがある。
 さらに、農業政策の主張にも、現実をみない机上の空論がある。
 これらは、いずれも財界の主張にきわめて近い。説明しよう。

 食の安全、からみてみよう。
 TPPは、いままでのFTAやEPAとは違って、レベルの高い自由化だ、と政府はいっている。そこに参加すれば、自由化を妨げる非関税障壁といわれる、残留農薬や遺伝子組み換え食品の規制など、輸入規制の全面的な緩和が求められるだろう。そうして、国際基準という名前のアメリカ基準を押し付けられるだろう。アメリカは、例えば、牛のBSE問題で、日本の月齢による輸入規制には、科学的根拠がない、といっている。
 アメリカが盟主になろうとしているTPPに参加したとして、財界からの圧力を一方で気にしながら、こうしたアメリカの主張を覆すほどの強い意志と外交的な力量が、日本にあるだろうか。

 食の安定供給について、日生協は、その方法としての食糧自給率の向上に否定的である。自給率とは言わないで自給力という。土地と労働と技術を温存しておけばいいという。
 だが、いざ、という非常時に、急に食糧の増産、ことに穀物の増産はできない。つまり、平時から食糧自給率の向上に努めねばならないのである。
 日生協のいう安定供給は言葉だけで、実際には安定供給にはならない。そこには食糧安保や食糧主権の考えは、全くない。

 農業政策にも、大きな問題がある。
 日生協の以前からの主張は、農産物の輸入をもっと自由にして、食品の選択の巾を広げ、消費者が納得できるまで価格を下げよ、という主張である。
 価格が下がって、農業者が困窮するなら、補助金で助ければよい、という農政である。
 高い価格を消費者に押し付け、消費者に負担させるのではなく、価格を下げて、消費者の負担を減らし、その代わり、農業者に補助金を出すという、いわゆる直接支払型の農政である。

 ここには、TPPなど、いわゆるレベルの高い自由化で関税をゼロにすれば、米価が5分の1程度に下がるという想定がない。つまり、農家の収入の大部分が補助金になることを想定していない。
 こうした農政は、拝金主義農政というしかない。
 しかも、こうした政策を永続的に続けるのではなく、やがて打ち切る。だから、その間に国際競争力を強めよという。そして、そのために、兼業者や高齢者は農業をやめて、自分の農地を大規模専業農家や企業に差し出せという。農業をやめて、いったいどうせよというのだろうか。
 これは協同組合が決して主張してはならぬことである。ここには連帯を至高な価値とする、協同組合精神のひとかけらもない。

 

(前回 TPP参加に片棒かつぐ連合


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(2011.03.15)