コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
緊急現場報告 原発第2次災害への無策

 昨日と一昨日、福島県へ行って、原発事故と巨大津波の現場を見てきた。現場の3人の農協組合長と会い、被災地を前にしながら生々しい実情を聞くことができた。そこには東京では想像さえできなかった状況があった。
 原発事故には、第2次災害というべき事態があり、それへの無策があった。事故から3か月も経っているのに、全く対策がなされていない。それどころか、原発事故に第2次災害があることの認識さえない。

 組合長の話によれば、管内の或る川に生息するヤマメが禁漁になっているという。ヤマメの放射線量が高いからである。原因は、上流の森林に降った放射能物質が雨で流され、それをヤマメが餌にしたからである。だから、放射能で汚染された学校の校庭や農地を除染するだけではなく、森林も除染せねばならない。
 「ほうれんそう」などの農産物に直接に放射性物質が降って汚染されたのを第1次災害といえば、いったん森林に降った放射性物質が川に流れてきて、それを餌にしたヤマメが汚染されたのだから第2次災害といっていいだろう。

 静岡や神奈川の茶でも同様な被害を受けた。放射性物質を大気中に放出したのは3月12日だから、茶には若葉はなかった。だが、その後、若葉が放射能に汚染された。いったん地上に降った放射性物質で若葉が汚染されたのである。汚染源は茶畑の中にあった放射性物質だったかもしれないし、茶畑の外の森林などにあった放射性物質だったかもしれない。 いったい汚染源は何だったのか、それさえ分かっていない。
 これも第2次災害といっていいだろう。

 こうした第2次災害に対する早急な対策が必要だが、そうした認識さえない。
「責任は第1次的には東電にある」などと言って逃げられるものではない。責任は、東電にそれを許した政治にある。歴代の政府の原子力政策、エネルギー政策にあることを強く指摘せねばならない。そうして猛省を促さねばならない。

 早急に除染しなければならないが、除染するといっても、それは結局、海に流すことである。半減期は30年というから、数百年にわたって海を汚染し続けることになる。そうした外国に顔向けできないことを、子々孫々の世代まで続けることになる。
 原発は、それほどまでに罪深い存在なのである。

 こうした事態は、マスコミがいち早く報道しなければならないのだが、ある組合長の話によれば、「一流」のマスコミ各社は、記者に対して、原発の50km以内に立ち入ってはならない、という社命があるようだ、という。
 もしも本当だとすれば、無策の原因はそうした「一流」マスコミにもある。マスコミの社会的責任は、こうした実態の報道にある。それを放棄するまでに堕落したのだろうか。

 現場で聞いたことを、つけ加えたい。
 大阪などの大都市では、一日2時間働けば日当3万円もらえる、といって非正規労働者などを集め、福島へ送って原発事故の処理に当たらせているという。その噂について聞いてみた。そうしたら3万円どころでなく、8万円ともいわれている、とのことだった。読者諸氏はどう考えるだろうか。

 筆者が泊まったホテルには、被災者が避難していた。だが、避難者はロビーに出てはならない、という決まりになっているという。だから、筆者などの一般宿泊者と隔離されていた。
 このことも読者諸氏に考えてもらいたい。

 同行していただいた組合長は、話の中で、「避難民」という言葉を決して使わず、「避難者」と言っていた。この組合長は信じられる人だ、と思った。ひと言ひと言を、心の叫びとして聞いた。
 そうして、政治家は、こうした人の話を、「官」を交えずに、じっくりと、直接に聞くべきだ、と思った。

 

(前回 菅首相の辞任表明にみる政治風土の変質

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(2011.06.13)