コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
コメの先物市場に投機マネーが殺到した

 いよいよ今日から東京と大阪で、コメの先物取引が始まった。今日は日本農業の歴史を汚した、という点で後世に残る日になった。
 東京の今日の日中取引は、あらかじめ決められていた上限価格の1万4100円を提示したが、買いが殺到し、売りが少なかったので、取引が成立しないままで終った。だから、日中取引では、買い手は買えないままで終った。
 一方、大阪では制限が緩かったので、11月限(11月にカラ売りとカラ買いの決済をする取引)は1万4320円、12月限は1万4540円、これに対して、来年の1月限は1万9210円だった。(※)
 これを素直に解釈すれば、いまの米価は安すぎるし、来年になれば、さらに高騰する、ということだが、そうだろうか。
 その後、11月限と12月限は、値幅制限の上限値に張り付いたし、来年1月限は下限値に張り付いた。このことが示すように、今日の初日の取引は、今後の米価の乱高下を予知させるものになった。
 こうした大量の投機マネーによる米価の乱高下は、農業者を混乱させるだけでなく、日本農業を根底から揺るがすことになるだろう。それだけではない。日本人の主食であるコメの安定的な確保、つまり、食糧の安全保障を相場師たちに任せ、危機的な状況に陥れようとしているのである。
 これほどの重大な政策を、近く総辞職する「死に体」の内閣が決めてしまった。その責任は重い。

 いま、コメの経済は混沌とした状況にある。そうした中で、先物取引が始まった。農協は、組織をあげて反対したが、それを押し切って政府は認可した。
 米価は下げ基調を続けている。米価が下がっても、昨年から始まった戸別所得補償制度で、売り手である農家の所得が補償されるからといって、買い手側は強気で値下げを要求する。
 その結果、たとえば、栃木産のコシヒカリをみると、一昨年産米は平均1万4235円だったが、昨年産は、先々月には1万2512円に下がっている。1723円、つまり12%という大幅な下落である。
 米価が、今後も下がるのではないか、という不安の中で、政府は米価の乱高下を招く先物取引を認めてしまった。

 こうした状況に加えて、原発事故の影響が懸念されている。
 例年なら、いまごろ、消費者は新米を待ちかねているのだが、今年は放射能汚染の不安があるので、新米よりも、放射能汚染の不安のない、昨年産の古米のほうが、売れ行きがいいという。
 先物市場の「価格調整表」では、新米のほうが古米よりも1500円高いことを想定しているが、実際には、この差は小さくなるだろう。不安な新米のほうが安くなるかも知れない。もしも、そうなれば、瑞穂の国の歴史が始まって以来のことになるだろう。混乱の結果、「価格調整表」は、さっそく修正せざるを得なくなるに違いない。
 そうした異常な混乱の中で、政府は先物取引を認め、混乱に拍車をかけようとしている。

 いままでのところ、新米の売れ行き不振は、風評被害にとどまっている。だが、もしも仮に、実際に新米から放射能が検出されたとすれば実害になる。その瞬間に、米価は先物市場で暴落するだろう。
 検出されなくても、いま行おうとしているコメの放射能検査を、消費者が完全な検査でないと考え、信用しなければ、風評被害は、いまよりも、さらに広範にひろがるだろう。
 そうした不安の中で、政府は先物取引を認め、混迷を拡大しようとしている。

 こうした事態を収束するには、政府が完全な検査をするしかない。
 しかし、完全な検査はあり得ない。だから、風評被害はなくならない。風評被害をなくすには、原発からの放射能の流出を、将来にわたって止めるために、政府が断固とした姿勢を示すことである。そして、消費者からの信頼を回復することである。
 その上で、政府がより完全に近い検査をするしかない。そうして、その情報を迅速に公開することである。

 これらの点からみても、先物市場は、コメをめぐる混乱に拍車をかけ、混迷を拡大するだろう。その責任は先物市場が負うべきだ、などと政治が逃げてはならない。責任は、先物市場を認めた政府にある。混乱を収拾するには、早急に先物市場を廃止するしかない。
 いまは、2年間の試験期間である。遅くとも試験期間が終わる2年後には、廃止すべきである。それが、日本農業に責任を持つ農協の全組合員の要求である。そして、食糧安保をねがう大多数の国民の要求である。

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(前回 牛肉の出荷制限は弥縫策

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(2011.08.08)