コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
朝日新聞の不勉強

 先週5日の朝日新聞は、安くて旨い輸入米を増やさないのは、農水省の独断的な官僚主導によるもので不当だ、と言わんばかりの記事を載せた。大津智義氏の署名記事である。
 農水省の弁護をするわけではないが、あまりにも不勉強だし、それよりも、日本の食糧安保を脅かすことなので、見逃すわけにはいかない。
 安くて旨い輸入米を、もっと増やせ、という主張なのだろう。消費者の利益を代弁するつもりなのだろう。しかし、その結果、日本の農業が壊滅し、食糧安保を危機に陥れることに対する洞察がない。それゆえ、心ある国民の支持は得られないだろう。
 しかも、農水省が輸入量を制限しているのは、国権の最高機関である当時の国会決議や、当時の閣議決定に基づくもので、新食糧法の第4条で、毎年決められた輸入量を、農水省が忠実に執行しているのである。この記事でいうように、「内規」などという軽いものではない。法律に基づいて、輸入を制限している。まして、官僚的な独断専行ではない。
 だから、農水省を批判するのは的ちがいである。批判するなら、この法律や、それを作った国会を、また、この法律に基づいて輸入量を決めた農政審議会を批判すべきである。それは、食糧は全て外国に依存すればいい、という食糧安保論への批判になる。そうした自覚もないし、勉強もしていないようだ。

 この記事は、日本べんとう振興協会が農水省に対して、主食用米の輸入枠を増やすように要求したが、農水省は「内規」を理由に、輸入枠を見直さない考えだ、というものである。それは不当なことだ、という考えが行間ににじんでいる。
 農水省は「見直さない」のではなく、法律によって、見直すことが出来ないのである。そんなことをしたら、法律無視の官僚独断になってしまう。朝日新聞は、まさか農水省に対して、法律違反を唆そうとしているのではあるまい。それは、まさに犯罪的である。

 主食用の米とはSBS米のことである。そして、SBS米はMA米の一部である。
 MA米は、20年前のGATT交渉で、日本は米の関税を高い水準に設定する代わりに、一定量輸入することを約束させられた米である。食糧自給率がきわめて低いのに、また、減反をしているのに、米の輸入を約束してしまったのである。
 このような屈辱的な約束をする見返りとして、輸入米は決して国内の需給に影響しないように、また、減反の強化にならないように、として当時、国会決議や閣議決定が行われた。そうして、輸入米の大部分を加工用や飼料用や海外援助用にし、主食用のSBS米はMA米の10%に制限することにした。
 その後、毎年、新食糧法に基づき、農政審議会の意見を聴いて、同法の第四条2項四で規定した、その年の「米穀の輸入数量及びその種類別の数量」を定めている。こうして、今年のSBS米の輸入量を10万トンに決めたのである。つまり、農水省が主食用米の輸入量を勝手に決めているわけではない。

 だから、農水省を批判するのは、無意味なことである。批判するなら、もっと堂々と新食糧法を批判すべきである。それは、新食糧法の立法の主旨への批判になる。そのためには、立法の主旨を勉強し、理解しなければ批判にならない。
 立法の主旨は、日本農業の存続と食糧安保である。だから、それに対する批判は、日本農業は崩壊してもいい、食糧安保はどうでもいい、という主張になる。
 こうした主張は、大多数の国民から支持されないだろう。だから、実現できない、反国民的な、空しい主張になるだろう。


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(2012.07.09)